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子によって制御されている。母性遺伝子の産物は母性mRNAや母性タンパク質の
形で卵母細胞に蓄えられ、特定の時期に、特定の割球で機能を発現して個々の
細胞に独自の性質を与える。この母性遺伝子の時空間的発現制御機構の一一つと
してmRNAの局在化が多くの動物で観察されており、母性遺伝子の発現制御上、
重要な働きをしている事が示唆されているが、その詳細な機構については不明
な点が多い。
本研究では線虫の母性mRNAであるpos-1mRNAの局在化機構の解明を
目指した。母性胚性致死遺伝子であるpos-1遺伝子のmRNAは卵母細胞内には一
様に分布するが、受精後第一卵割中に後極へ局在化を始める。線虫では生殖細
胞系譜へ局在化する母性mRNAが他にも知られているが,それらmRNAの多くは4
細胞期以降に局在を開始しており,pos-1mRNAの局在にはそれらとは異なる独
自の制御機構が働いている事が期待される。また、pos一1タンパク質はpos-1
mRNAの局在開始と同じ時期に発現し始め、その発現が後極に局在していること
から、pos-1m剛Aの局在はpos-1タンパク質の局在をも制御している事が期待
される。
本研究を始めるにあたり、まず10一15匹程度の線虫を対象とした再現
性の高い少数胚in site hybridizationのプロトコルを確立した。本研究では
RNAを顕微注入した個体等、ごく少数のサンプルを解析したため、少数の胚を再
現性良く染色出来るin site hybridizationのプロトコルの確立は必要不可欠
であった。
続いて、シス因子解析のために内在性pos-1mRNAの局在パターンを再
現出来るin vivo assay系を構築する事にした。このn vivo assay系として,
まずin vitroで合成したレポーターRNA(タグ配列と検討対象の3'UTRなど遺
伝子配列を含む)を顕微注入し、その後の局在パターンをin site hybridization
で調べる方法を試みた。この結果、レポーターRNAはpos-1の3'UTR依存的に分
解されるという意外な現象を見出した。レポーターRNAの分解はpos-1 3'UTR
に特異的な現象で、また、レポーターRNAの分解はNMD経路に依存しなかった.
これらの結果と、レポーターRNAの分解がpos-1mRNAの局在化や翻訳が開始す
る1細胞期中に起こる事から、レポーターRNA分解活性は内在性pos-1mRNAの
転写後調節の一端を反映している事が示唆されたが、しかし、胚全体で1細胞
期に分解される点は内在性pos-1mRNAの挙動と違っており,この系では内在性
pos-1mRNAの局在パターンを再現出来なかった。
次にin vivo assay系として試したのが、形質転換体にタグ配列とpos-1
配列の融合mRNAを発現させ、その局在パターンをin site hybridizationで調
べる方法である。通常、線虫で外来遺伝子を母性発現させる事は困難なため,
まず、外来遺伝子を母性発現させる事に適した形質転換法のbiolistic
transformation法を習得した。また、biolistic transformation法は効率が悪
く,時間がかかる事で知られていたが、条件検討を行い、世界的に見ても非常
に高い効率で形質転換体を獲得出来る条件を見つけた。さらに、初期胚でmRNA
の存在量が多い事が知られているpos-1遺伝子のpromoterを利用した、発現量
の多い母性発現用プラスミドを開発し、従来の発現プラスミドでは発現量の少
なさから不可能だった,内在性pos-1mRNAの局在パターンの再現を可能にした。
以上の技術開発を行った後,形質転換体を用いる方法が内在性のpos-1mRNAの
局在パターンを再現出来るか調べるため、GFP::pos-1 3'UTR融合mRNAを発現
する形質転換体を獲得したところ、GFP融合mRNAは2細胞期には生殖細胞系譜
へ局在化しており、この系では内在性pos-1 mRNAの局在パターンを再現出来る
事が分かった。その後の解析で、GFP融合mRNA上の他の配列(SL1、pos-1 5'UTR,
GFP、3'Linker配列)にはGFP融合mRNAの局在化に十分な活性が無い事、pos-1
3'UTR配列はGFP融合mRNAの局在化に必要な事が分かった。以上の結果から、
この形質転換を用いる方法がin vivo assay系としてpos-1mRNAの局在化活性
の評価に使える事が分かった。また、pos-1mRNAの局在化において3'UTR配列
が主要な制御配列として働いている事が強く示唆された。
そこで、次にこのin vivo assay系を用いてpos-1 3'UTRによる局在
化制御機構についてくわしく調べる事にした。pos-1 3'UTRに対してdeletion
解析を行った結果、3'UTRの後半122ntを欠失させると局在化活性が失われる
事、前半140ntを欠失させても内在性pos-1mRNAと同様に局在化する事が分か
った。
更に比較ゲノム科学的な観点からもpos-1 3'UTRを解析した。近縁線
虫のC.briggsaeとC.elegansの間ではpos-1 3'UTR配列が保存されている
事が知られており、C.briggsaeの3'UTRもmRNAの局在化活性を示す事が期待
された。そこで、C.briggsaeの内在性pos-1mRNAの局在について調べた所、
C.briggsaeにおいてもpos-1 mRNAはC.briggsae同様・生殖細胞系譜へ局在化
している事が分かった。また、C.briggsaeにGFP::cb pos-1 3'UTR融合mRNA
を発現させた所,この融合mRNAはC.briggsaeの内在性pos-1mRNA同様の局在
パターンを示した。この事はC.elegansとC.briggsaeの間で,pos-1mRNAの
局在化シス因子が保存されている事を強く示唆している。C.elegansにおいて
mRNAの局在に必要な事が分かった3'側の122ntの領域には種間で完全に保存
された30ntの配列が存在しており、この配列内にmRNA局在化制御のシス因子
が存在する事が期待される。
トランス因子については、母性致死、母性不妊変異体の内、RNA結合タ
ンパク質をコードする事が知られているものを対象とした小規模なスクリーニ
ングを行い、mex-5,mex-5;mex-6変異体で初期胚におけるpos-1mRNAの局在
が異常になる事が分かった。初期胚において、MEX-5タンパク質はpos-1遺伝
子産物とは逆に体細胞系譜へ局在化する。この時期、体細胞系譜ではpos-1
mRNAが分解されており、MEX-5タンパク質はpos-1 mRNAの分解を直接,又
は間接的に制御してpos-1mRNAを局在させていると考えられる。
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