@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001041, author = {久田, 香織 and ヒサダ, カオリ and HISADA, Kaori}, month = {2016-02-17}, note = {細胞が自身を複製し増殖するにあたり、最も基本的かつ重要な事柄に、遺伝情報を失うことなく安定に伝えるということがあげられる。遺伝情報は染色体を媒体として受け継がれてゆく。従って、染色体がいかにして娘細胞に受け継がれていくかという問題は生命の仕組みに直結した、重要な問題である。真核生物においては、その仕組みやこれに関わる因子が多数報告され解明がすすめられつつある。一方、真核生物よりも原始的な細胞構成である原核生物においては、どのようにして染色体が受け渡されているのかほとんど明らかになっていない。 
  仮説として、細胞膜の伸長とともに染色体が分配されていくという考えがまず、提唱された。この仮説では、複製起点であるoriCが細胞膜に結合し、細胞の伸長に伴い受動的に細胞の両極へ分配されると仮定されていた。これは当時、真核細胞のような細胞骨格を持たないと考えられていたため、膜の伸長を染色体の分配装置と見なした。従って、膜に染色体が局在して機能するという考えは、合理的と思われた。実際、実験的に大腸菌細胞分画実験においてoriCが細胞膜画分に検出されたことから、この仮説は長い間支持されてきた。しかし、その後の研究により、膜の生合成において方向性がない事、oriC自身には染色体分配機能がない事、oriCの移動速度が膜の伸長速度よりもおよそ10倍速い事などが次々と実証きれ、その再考が起こった。さらに近年、染色体の特定領域を可視化する技術の進歩により、細胞の中のoriC及び複製終結領域(TerCの局在に特異性がみられることや、複製されたoriCが速やかに細胞の両極に移動することが明らかになった。これらの結果から、大腸菌の染色体分配には細胞膜の伸長とは異なる何らかの能動的な機構が関与している事が明らかになった。さらに、oriC自身には染色体分配能がないものの、oriC近傍領域内に染色体の分配に関わる機能性塩基配列が存在する事が示唆された。その結果、oriCの細胞両極性移動に関わる機能性塩基配列migSが同定され、原核生物のセントロメア様配列である事が示された。現在の大腸菌の染色体の分配の考えでは、細胞中心に位置する複製装置による複製後の染色体の押し出し力と、セントロメア様配列migSによる細胞両極への方向づけ及び局在化、コンデンシンなどによる染色体凝縮の引っぱり力らが協調して働き、染色体分配を可能にしているものと推測される。しかし、migS配列がどのような機構により娘染色体を細胞両極へ移動させるのか、また染色体がどのようにして特異的な局在を維持できるのかは未だ不明である。
  大腸菌セントロメア様配列migSと結合する蛋白質として、呼吸鎖複合体Iの触媒領域を構成するサブユニットであるNuoG蛋白質が単離されていた。本研究ではnuoG遺伝子の欠失株を作製し、この遺伝子産物とmigS配列による大腸菌のoriCの細胞両極性移動との関連を調べた。その結果、nuoGの欠失株においてはoriCの細胞両極への分配が影響され、NuoG蛋白質がoriCの細胞両極性移動に関与していることを明らかにした。さらに、migS配列とnuoG遺伝子の二重欠失株において、それぞれを単独で欠失させた時とほぼ同程度のoriCの分配異常が認められた。このことは、NuoG蛋白質とmigS配列が相互作用しながらoriCの移動に働くことを強く示唆する。
  大腸菌の呼吸鎖複合体Iは13個のサブユニットからなる巨大なタンパク質複合体である。nuoG以外のサブユニットについてそれぞれの遺伝子欠失株も作製し、oriCの分配能の有無を調べた。その結果、nuoA、CD(nuoCDは一つの遺伝子)、E、F、K、N遺伝子の欠失株にもIBP(染色体分離指数、In4exofBipolarPositioning)を指標としたoガ0の細胞両極への移動の異常が見られた。呼吸鎖複合体Iの推定構造から、これらのサブユニットは膜領域(NuoA、Nuok、NuoN)、コネクタ領域(NuoCD)、触媒領域(NuoE、NuoF、NuoG)をそれぞれ形成している。また、これらのサブユニットは、呼吸鎖複合体Iの中でさらにサブ複合体として会合していると予想される。従って、細胞質に露出しているNuoGサブユニット単独で染色体の細胞両極性移動に関与しているというよりはむしろ、NuoG蛋白質が、これらのサブユニット(NuoA,CD,E,E,F,K,N)と会合して細胞膜にアンカーされることがmigS配列を介したoriCの細胞両極性移動に機能しているのではないかと考えられる。しかしながら、この仮説を証明するために、さらに単独では欠失してもoriCの分
配に異常を示さなかった連結領域のNuoB、NuoIサブユニットに注目した。nuoBとnuoI遺伝子の二重欠失株を作製し、oriCの分配能を調べた。その結果、oriCの細胞両極への移動に異常が見られた。従って、migSを介したoriCの細胞両極性移動に機能するにはNuoG蛋白質が細胞膜に留められることが必要であると考えられる。
  また、大腸菌呼吸鎖複合体Iの13個サブユニットの中、NuoB、NuoH、Nuol、NuoJ、NuoL、NuoMサブユニットの欠失株においては、oriCの細胞両極への移動に異常が見られなかった。またoriCた。また、これまでの報告と同様に呼吸鎖複合体Iを構成する13のサブユニットのいずれを欠失させても呼吸鎖の機能は失われていた。従って、呼吸鎖複合体Iにおいて、migSを介したoriCの細胞両極性移動と呼吸鎖の機能は独立した別の機能であると考えられる。 
  旧来より染色体分配に膜あるいは膜蛋白質が関与しているという考えは強く示唆されていたが、それを実証するような染色体分配に関連する因子が未だ同定されていない。本研究において、初めて膜蛋白質である呼吸鎖複合体Iの一部分がoriCの細胞両極性移動に関与しているという事が明らかになり、染色体分配と細胞膜の関係が今後明らかにされてゆくものと期待される。
, 総研大甲第1159号}, title = {大腸菌セントロメア様配列migSを介した染色体分配時の両極性移動に対する呼吸鎖複合体Iの遺伝子群の遺伝的影響に関する研究}, year = {} }