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きく変容したことを明らかにすることを目的とする。特に、近世において妖怪が娯楽の対
象となっていた事実に注目し、妖怪手品、妖怪図鑑、妖怪玩具、からくり的といった具体
的な題材を取り上げながら、それらを成立させた妖怪観の変容について考察することを中
心とする。
序章「妖怪の研究史と本稿の視点」では、これまでの妖怪研究の凍れを概観し、総論の
不足、文化史的視点の欠如、民間伝承のなかの妖怪とフィクションのなかの妖怪の関係性
についての考察の不足、妖怪と娯楽とのかかわりにづいての考察の不足といった問題点を
指摘する。それに対し本稿では、認識枠組の変容として文化史を描き出す「アルケオロジ
ー」の手法を用いて、フィクションとしての妖怪、娯楽の対象としての妖怪を生み出した
妖怪観の変容を明らかにすることを主張する。
第1章「安永5年、表象化する妖怪~18世紀後半における妖怪観の転換」では、安永
5年(1776)に刊行された岩苛岩隷藤島筈蒐叢存』、平賀源内『実弟論法蓮如』、上
田秋成『雨月物語』、恋川春町『箕遥報闇の儀し』といった文芸作品を検討し、それらが人
為的に作り出された「表象」としての妖怪観に基づいた作品であったことを明らかにする。
そして、民間伝承における妖怪が、怪異の「概念化による説明」という機能を担っていた
のに対し、「表象」としての妖怪は「視覚化による感情操作」という機能を担っていたとい
う仮説を提示する。
第2章「妖怪の作り方一妖怪手品と『種明かしの時代』」では、同じく18世紀後半に
登場した「妖怪手品」(妖怪を出現させる手品)について検討し、それが妖怪現象を合理的
に解釈したうえで、人工的に妖怪を作り出す娯楽であったことを明らかにする。さらに、
この「妖怪手品」に見られるように、18世紀後半が不思議なものの背後に隠された仕組み
を白日のもとにさらそうとする「種明かしの時代」であり、その背景に、貨幣の論理によ
る神霊との関係の再編があったことを明らかにする。
第3章「妖怪図鑑 - 博物学と『意味』の遊戯」では、『画図百鬼夜行』という「妖怪図
鑑」が生み出された背景に、18世紀後半における博物学的思考/噂好の広がりがあったこ
とを明らかにし、それがかつて「記号」として存在していた妖怪を「生物」としての妖怪
に変え、また視覚的特徴と名前によって弁別される「キャラクター」へと変換していった
ことを論証する。さらに「妖怪図鑑」が「見立て」という一種のパロディと容易に結びつ
いたという事実から、博物学と言葉遊びとが「物」と「意味」との固定的な関係の解体と
いう同じ認識論的基盤に基づいたものであることを明らかにし、これらが人工的な記号で
ある「表象」を生み出す「知」であったことを指摘する。
第4章「妖怪玩具一連びの対象としての妖怪たち」では、化物双六、妖怪カルタ、お
もちや絵、亀山の化物、妖怪花火、妖怪凧といった「妖怪玩具」について検討し、それら
が①博物学的傾向、②「蔚邑」の玩具化、③「驚き」の喚起という、視覚性に基づいた三
つの特徴を持っていることを明らかにする。また、節怪の人形など立体的な「妖怪玩具」
が少ないことにも注目し、モノとしての質量を持つ人形は神秘性やリアリティを感じさせ
てしまうため、娯楽よりもむしろ信仰と結びついたのではないか、という仮説を提示する。
第5章「からくり的一妖怪を笑いに変える装置」では、「からくり的」という遊戯施設
を例として、妖怪がいかにして人間の「笑い」と結びつき、娯楽の対象となるのかを考察
する。妖怪は、そのアノマリー性、および「過剰な肉体性」によって、恐怖と笑いという
詩論議席誠な強い情動反応を呼び起こすすぐれた「象徴」であり、「からくり的」をはじめ
とする「妖怪娯楽」は、その象徴特性を利用して「快楽」を引き出すものであったことを
明らかにする。また、「からくり的」の歴史的変遷についても検討し、それが妖怪のー変化
する」という特徴を遊戯化したものから、数多くの妖怪を出現させるという博物学的関心
に基づいたものへと変化していったことを明らかにする。
最終章である第6章「妖怪娯楽の近代 -『私』に棲みつく妖怪たち」では、近代にお
いてふたたび妖怪観の転換が起こり、それによって妖怪娯楽が変質していくさまを描き出
す。かつて「表象」として外在化され、人間のコントロール下に置かれていた妖怪が、今
度は人間自身にはコントロールできない「内面」の働きによって「見てしまう」ものへと
変貌していくのを、「神経」「催眠術」r心霊」という三つのキーワードを通じて検討する。
そして近代における妖怪的なものごとが、こうした認識の変容によって生み出された「私」
という特異な観念と結びついて発達していったことを指摘し、その延長線上にある現代の
オカルトブームや妖怪ブームについても考える。
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