@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001064, author = {廣川, 純也 and ヒロカワ, ジュンヤ and HIROKAWA, Junya}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {動物にとって外界の出来事を素早く正確に察知しそれに対して適切な行動を起こすことは生存に不可欠な能力である。動物の脳は複数の感覚チャネルからの情報を統合することによって、より素早く正確な運動を可能にしている(multisensory facilitation)。本研究は、脳の何処で視覚と聴覚情報が統合され、どのようにして素早い運動が可能になるのか、その神経機構の解明を目的とした。
これを明らかにするためには、①multisensory facilitationを観察することができる行動実験系、②その行動中の動物の脳活動をできるだけ広範囲から計測する方法、③その脳活動の必要性を検証するシステムの三つが必要である。すでに、基礎生物学研究所脳生物学研究部門と京都大学の櫻井教授との共同研究によって、視覚と聴覚刺激に対するラットの行動反応を定量的に解析する実験系が構築されている(坂田等,2002)。さらに、この行動解析システムによってラットが視聴覚情報を統合し視聴覚刺激に対して素早く正確な反応(multisensory facilitation)を行うことができることが示されている(坂田等,2004)。
 彼はこの行動解析システムを利用し、multisensory facilitationに必要な脳部位を同定することを試みた。行動中の動物の脳活動を広い範囲で調べる方法として、彼はc-Fosマッピングを採用した。c-Fosは神経活動依存的に発現が誘導される遺伝子で、行動課題を行った動物の脳をc-Fos
抗体を用いて染色することによってある一定期間の脳活動の総和を可視化する方法である。この方法の利点は、特定の行動課題を行った動物の脳活動を細胞レベルの解像度で脳の広い範囲で調べることができる点にある。しかし、多数の動物の脳で広い範囲の脳部位のc-Fosの発現パターンを定量的に比較することは技術的に困難であった。そのため、彼は画像処理によって個々の動物の大脳皮質切片の画像を特定の形に標準化する方法を考案した。これによって、異なる個体間でc-Fos発現の空間的パターンを定量的に比較することが可能になった。
 c-Fosマッピングを行うため、2つの異なる課題を行わせた動物群を用意した。実験課題群では、視覚と聴覚の同時刺激がラットの左または右から提示された。ラットは左または右にある穴に鼻をいれることによって、刺激が提示された方向を弁別することが要求された。一方、対照課題群では、視覚と聴覚刺激の提示タイミングを200ミリ秒ずらした刺激が使われた。実験課題群のラットは、視聴覚刺激に対して視覚や聴覚単独刺激の時よりも素早く反応することができたが、対照課題群では、視聴覚刺激のタイミングがずれているためラットは先行する刺激(聴覚または視覚)に反応してしまい、反応時間は視覚や聴覚単独刺激と同じ程度であった。つまり実験課題群のラットのみmultisensory facilitationを示した。両課題群は刺激のタイミング以外の条件は同一であるため、両課題群のラットの脳活動の差はmultisensory facilitationの有無に相関するはずである。このような行動課題を約1時間(300試行)行ったラットの脳切片をc-Fos抗体で抗体染色し、上記の大脳皮質標準化画像解析によって解析した。
 その結果、第二次視覚野外内側(V2LM)にc-Fosの発現量が統計的に有意に異なる領域が観察された。また、視聴覚統合に関与するといわれている上丘にも対象領域を取って定量したところ、上丘前部深層において特異的なc-Fosの増加が見られた。これらの結果は、V2LMと上丘深層がmultisensory facilitationに関わることを示している。
 次にこれらの脳領域が実際に感覚統合に必要かどうかを検証した。GABA受容体のアゴニストであるムシモールをそれぞれの脳部位に局所的に投与し、その脳活動を一時的に抑制した上でmultisensory facilitationが見られるかどうかを行動学的に調べた。ムシモールを注入した領域近傍ではc-Fosの発現が顕著に低下していた。行動のテストには、視覚、聴覚、視聴覚刺激の三種類がランダムに提示される課題を用いた。対照として生食を投与された動物では視覚や聴覚単独刺激よりも視聴覚刺激に対する反応が速かった(multisensory facilitation)。しかし、ムシモールをV2Lに投与したラット群ではmultisensory facilitationの程度が有意に減少した。このような特異的なmultisensory facilitationの低下は一次感覚野の抑制では見られなかった。さらに、V2Lの活動は単感覚刺激の刺激強度の相対的な増加によってもたらされる反応速度の亢進には必要なかった。このことから、V2Lは異なる種類の感覚の統合に関与していることが示唆された。
 一方、上丘への片側性のムシモールの投与は、反対側空間からの全ての感覚刺激に対する反応速度を遅延させた。しかし、このような状況においても、ラットは視覚や聴覚単独刺激よりも視聴覚刺激に対して素早く反応していた。つまり上丘の抑制はmultisensory facilitationには影響を与えなかった。これらのことから、上丘の活動は感覚刺激に対する反応の開始に必要であるが視聴覚情報の統合には必要でなく、一方、V2Lは統合に必要であることが明らかになった。
 大脳皮質のV2LMは第二次視覚野であり、これまで視覚の情報処理に関わることがわかっていたが、視聴覚情報の処理にも必須であることが本研究によって始めて明らかになった。V2LMは連合性の視床核であるLPからの投射があることから、V2LMはLPからの聴覚情報(もしくは視聴覚情報)、V1からの視覚情報をフィードフォワード的に4層で統合している可能性がある。統合された情報はV2LMの深層を経由し上丘深層を活性化させることによって運動開始を促進させる可能性がある。今後、上丘ニューロンの神経活動と感覚入力や運動出力の相関を調べることによって、視聴覚統合によって引き起こされる反応速度促進のメカニズムを知ることができるだろう。, 総研大甲第1168号}, title = {Study on neural mechanisms for reaction time facilitation by audio-visual integration}, year = {} }