@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000110, author = {津村, 宏臣 and ツムラ, ヒロオミ and TSUMURA, Hiroomi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {本論文では、考古学における空間事象の研究手法、時間軸上に配された空間現象を歴史叙述の対象として取り扱う方法論の問題を明らかにし、これに対し新しい理論、方法論、分析手法・技術を提起してケーススタディーを通じた検証を実施した。そのなかで、近年考古学も含めた人文社会科学においても重要性が示唆される学際的研究の方法論に注目し、空間情報科学という理論、地理情報システムという方法・技術を適用した。研究対象として、先史時代の集落研究で注目される青森県(津軽地方)の縄文時代遺跡(約1000遺跡)を選択し、人類の居住地選択に関する生態的・社会的特性の解明と、その時系列動態の評価をおこなった。また、この対象地域には、人類史の時空において特徴的な三内丸山遺跡が存在することから、これまでの歴史的解釈に対する再検討もあわせておこなった。
 序章では、従来の考古学における空間事象の分析手法である“分布論”の理論的視座を整理し、“対象の空間事象としての評価による歴史叙述”ではなく、“対象の歴史的評価による歴史叙述”である点を指摘し、対象が空間事象として正しく評価されていないことを明らかにした。また、対象の空間的“存在”を議論する“遺跡立地論”についても、その評価過程に“解釈”と“仮説的作業”のトートロジーを指摘し、対象の時空的存在を議論する方法論として不備があることを明らかにした。以上をふまえ、(1)“分布論”や“遺跡立地論”にかわる方法論として“空間論”を提起し、(2)その具体的技術として、地理情報システムによる空間属性評価と空間統計解析による属性傾向の計量化を実施することとした。また、この理論・方法論と技術的検討に際しては、空間を人類生態史の“場”として評価するために、(3)空間・距離のメトリックを変換することを重視した。
 地理情報システムの考古学への適用は、1995年以降本格化しつつある研究領域であり、体系的な技術研究が展開しにくい日本考古学では、現在でもその導入が海外に比べ著しく遅れている。そこで、第1章では、日本考古学における地理情報システム導入の現状、問題などを整理し、具体的な分析技術としての適用のあり方を検討した。さらに、対象地域の空間属性を評価するため、地理情報システムの画像解析機能、演算機能を用いた空間属性の評価方法を検討した。次に、青森県縄文時代遺跡の遺跡空間データベースを作成し、“面”として把握され、複数の属性情報に連携させた遺跡分布図を作成した。これにより、従来の分布図作成による遺跡立地評価の問題を指摘した。
 第2章では、1章で構築した遺跡空間データベースと、地理情報システムの画像解析機能を利用し、遺跡立地の地理的背景を評価した。評価対象には、“標高”“地形傾斜”“傾斜方向”“地形”“地表面形状”“日射量”“集・排水状況”“河川からのコスト・時間距離”の8属性を選択した。個別の属性と遺跡立地の相関、その時系列動態の把握から、相互に連携現象を有して現れるものと、単独の動態をもつものとがあることを明らかにした。また、細別時期・規模別の検討では、規模別の“空間の使い分げや“属性傾向の転移”なと特徴的な動態を抽出した。そうした、時系列動態や特徴を考慮して、各属性と遺跡立地との関係を概念化し、各属性の人類生態に及ぼす物理・物質的意味を検討したうえで、遺跡立地の説明因子としての属性の評価を実施した。結果として、縄文時代中期を画期として、指向性に変化の生じる属性とそうではない属性を抽出し、前者には一貫した人類生態としての特性を、後者には社会・文化的な背景の介在を評価した。
 第3章では、個別の遺跡立地の総体としての分布位相を顕現させる社会的背景を評価した。この評価に空間統計解析の手法を導入し、(1)遺跡間空間(重心と縁辺)の描出、(2)遺跡間空間のひずみと対象の関係、(3)個別の遺跡間関係の関連指数分析、の3つの評価方法を導入した。結果として、遺跡間空間そのものに時系列動態があり空間的推移が認められること、その重心からひずみと分布位相の比較から、遺跡間関係が時系列で階層化すること、遺跡分布の位相は遺跡規模間での相互作用環により決定されること、その相互作用環にも時系列動態があり、縄文時代中期を画期に゜“Inter-rank”から“Intra-rank”な相互作用環へ変質したこと、などを評価した。さらに、遺跡間空間のひずみのモデル化と、遺跡の相互作用環から、往時のセトルメントシステムを予察的に提示した。
 第4章では、3章までの考古学における遺跡立地分析への地理情報システムの導入、遺跡空間データベースの構築、空間属性の抽出と評価、遺跡の社会的相互作用環の解明、から本研究の指向する新しい理論・方法論である“空間論”と、その具体的な学問的領域としての空間考古学を定義した。各分析結果から、対象地域の縄文時代遺跡の遺跡立地の主因子は“地形傾斜”や“地表面形状”属性で、遺跡周辺での活動範囲の拡大を指向する傾向が看取できたこと、これに次いで内水面漁掃などの生業と関わる河川や“水場”環境への指向性が強いことなどを明らかにした。また、対象地域では、縄文時代中期にマルチタスクな空間への指向性が強まり、その結果後期に遺跡が多様な空間へ拡散したこと、この拡散の背景に遺跡間交流の活発化と、機能特化による経済的自己完結性を喪失した遺跡の広域展開があったこと、などを指摘した。これにより、本研究での方法論と技術が“空間事象の検討から歴史叙述する方法”として有効であることが示唆された。
 あわせて、三内丸山遺跡の歴史評価に関する再検討を実施し、三内丸山遺跡が拠点化する背景として、環境的背景による遺跡間の機能差と集約的遺跡間活動を評価し、その衰退の背景に、環境への能動的働きかけ(環境開発・改変)と、遺跡間の機能特化による社会活動空間(労働集約的経済体系)の伸張を評価した。また、衰退の背景として、従来の“榎林・最花・大木10式の土器文化の担い手との入れ替わり”を一部で支持しつつ、遺跡立地の空間属性や細別時期・規模別の時系列動態に“入れ替わり”という断絶が認められないことから、三内丸山遺跡の衰退とは切り離して検討すべき課題であることを指摘した。
 終章では、本研究の成果と問題をまとめた。このうち、問題として(3)古地理・古環境復、(2)人類生態の単純化、(3)空間統計解析の理論的裏付け、などをあげた。これらは、本研究独自の問題である場合もあるが、その多くは、考古学一般の問題として検討すべき問題に端を発することを指摘した。これらの問題は、従来の理論・方法論・技術では“不問”とされてきた、あるいは抽出しえなかった問題であり、こうした問題を浮き彫りにしたことも、本研究の意義として捉えられる。, application/pdf, 総研大甲第625号}, title = {先史時代遺跡立地に関する空間考古学的研究 -青森県縄文時代遺跡の遺跡空間データベースの構築と空間分析-}, year = {} }