@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001194, author = {鳥居, 知宏 and トリイ, トモヒロ and TORII, Tomohiro}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {糖鎖は、主として細胞間相互作用、接着、細胞分化などで蛋白質の機能を厳密に制御していると考えられ、特にシアル酸付加糖鎖がその大半を担っているとされている。成体の脳内では、発現する糖鎖の約40%がシアル酸付加糖鎖であることが報告され、L1やMAGなどの細胞接着因子を含むシグレックが、シアル酸付加糖鎖を特異的に認識し、神経突起の伸展などを制御いていることが知られている。このように糖鎖の生理的意義が明らかにされつつあるが、いまだ本質的に神経系における糖鎖の機能を明らかにした研究はほとんどされていない。
 一方、糖鎖の構造解析では、以前にラット成体脳から調整した蛍光標識N結合型糖鎖の網羅的なHPLC解析が行われ、主に発現している中性糖鎖およびシアル酸付加糖鎖の構造が明らかにされた。しかし、その詳細なシアル酸結合様式の決定まで至っておらず、その報告以後も未解決のままである。その理由として、組織サンプルの調整法、夾雑物を排除する精製法、HPLC解析の分離能などが十分ではないことである。一方彼らは、精製技術を発展させ組織サンプルを十分に解析できるまでに達していたが、これまで酵素消化法でシアル酸を遊離させたアシアロ糖鎖として解析してきた為、シアル酸付加糖鎖の詳細な構造解析は行われずその情報はほとんど明らかにされなかった。
 そこで彼は、これらの問題を改善した解析システムを応用し、組織サンプルから調整したピリジルアミノ化蛍光標識されたシアル酸付加N結合糖鎖を容易に解析できる多次元HPLC解析法の確立を第一の目的とした。その方法は、中性糖鎖解析とノイラミニダーゼ消化後のアシアロ糖鎖解析をそれぞれ行い、最終的に得られたクロマトグラムを重ね合わせるもので、容易に各々得られるピークがシアル酸付加糖鎖であるか否かを判断することと糖鎖骨格を同定することができる。しかし組織サンプルでは多量の糖鎖を含むため一次元HPLCでの分離能が十分ではない為、さらに細かく分画し、続いて逆相HPLC解析する2D-HPLC解析でほとんど単一のピークにまで分離することで、個々の糖鎖の発現量を以前の解析システムと比べて正確に定量解析できるようになった。
 そこで彼は、以上の確立した解析法を用いて発達過程の大脳皮質に発現する糖鎖の網羅的解析を行い、糖鎖の構造解析と糖鎖の発現の定量解析を行った。その結果、マウス脳内に発現する主要な糖鎖を同定し3つの新たな糖鎖骨格の構造を決定した。またさらに非還元末端にガラクトースを有する糖鎖は発達過程で常にシアル酸の修飾を受け、LewisXを末端に持つ主要な糖鎖はシアル酸の修飾を受けないことが明らかになった。これまで糖鎖の合成経路で非還元末端側の構造の違いによってその合成経路に規則性が生じる事が知られていたが、脳内においても厳密に制御されていることが示唆された。
 またさらにシステムを発展させ、発達過程の脳で発現するシアル酸の結合様式の検討を行った。その手法としてノイラミニダーゼ消化したものと2,3-sialidase消化したものをそれぞれ陰イオン交換HPLCで素通り画分に移動した糖鎖に注目して比較解析した。この方法を用いて網羅的に解析した結果、2,3結合のシアル酸を有する糖鎖である2,3-sialidase感受性のType2型糖鎖(Gal1,4GlcNAc-)を同定し、これらの糖鎖が大脳皮質発達過程で常に高い発現を示した。さらにこれらの糖鎖の中で2,3-sialidase耐性のものが出生期で一過性に発現していることが明らかとなった。そこでType2型で2,3-sialidase耐性糖鎖の発現を再確認するために、SNAレクチンカラムを用いて2,6結合のシアル酸付加Type2型糖鎖の精製を発達過程の脳からの精製を試みた。その結果、P0マウスから調整したサンプルのみHPLC解析の結果と同様の糖鎖を精製することができ、この結果からも一過性のType2シアル酸付加糖鎖の発現を確認することができた。
 また一方でノイラミニダーゼでは切断されるが2,3-sialidaseでは切断されなかった酵素耐性のシアル酸付加Type1型糖鎖群(Gal1,3GlcNAc-)を同定した。これらの糖鎖は、胎生期では全く発現していないが、出生後から発現し始め成体脳では主要な糖鎖であった。これらの糖鎖の中で2,3-sialidase消化後でもシアル酸が2つ付加したままの画分での主要な糖鎖であるA2G’2Fに注目し、この糖鎖の構造を決定するために陰イオンカラムHPLCとトリエチルアミン逆相HPLCで分離、精製を行った。精製後、種々のグリコシダーゼを用いて構造解析した結果、新規分岐型のシアル酸(Gal1,3(NeuAc2,6)GlcNAc-)を有するN結合型としては新規な糖鎖を同定した。この糖鎖の末端部位のシアリルLewisCを有する糖鎖は、非常に珍しくヒトミルクなどに含まれていることは知られているが、その合成経路は全くの未知である。
 最後に彼は、HPLC解析の結果を確認する為にNeuAc2,3-を特異的に認識するMaackia amurensis (MAA)とNeuAc2,6-を特異的に認識するSambucus nigra (SNA)レクチンを用いてレクチン染色を行った。その結果、MAAレクチンは、これまでの報告と本研究のように発達過程で常に高い発現量を示した。またSNAレクチン染色では、成体脳では全く検出できなかったが出生期(P0)の脳室下層に固まっている細胞を染め、そのほとんどがミクログリアのマーカーであるIba1陽性細胞と共局在したことから主にミクログリアで発現していることを確認した。
 以上から、これまで成体脳でしか行われてこなかったシアル酸付加N結合型糖鎖の解析を発達過程の大脳皮質を用いて解析し、糖鎖骨格の変化だけではなくシアル酸の結合様式も劇的に変化していることが明らかにした。
, application/pdf, 総研大甲第1173号}, title = {Comprehensive analysis of sialylated N-glycans expressed in the mouse cerebral cortex during development}, year = {} }