@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001211, author = {高橋, 朋子 and タカハシ, トモコ and TAKAHASHI, Tomoko}, month = {2016-02-17}, note = {NK(natural killer)細胞は、古典的MHC(major histocompatibility complex)クラスI分子と相互作用してNK細胞の機能を調整するレセプター群を発現している。ヒトをはじめとする霊長類の NKレセプターはKIR(killer cell immunoglobulin-like receptor)として知られている。KIRはI型膜貫通タンパク質で、細胞外領域に2つまたは3つのIg(immunoglobulin)様ドメインがある。また、KIRの細胞内領域にはITIM(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif)がある。ITIMは、チロシンフォスファターゼを介したリン酸化により、NK細胞の抑制性シグナルを誘導する役割を果たす。KIR遺伝子はLRC(leukocyte receptor complex)と称される1メガ塩基対の遺伝領域に存在する。これに対して、齧歯類のNKレセプターであるLY49は、II型膜貫通タンパク質で、Cタイプレクチン様ドメインを持っている。LY49遺伝子はNKC(natural killer complex)と称される遺伝領域でコードされている。
  霊長類と齧歯類で構造的に全く違った形のレセプターが用いられているということは、NKレセプターの進化もそれぞれに異なっていることを示している。当初ヒトではLY49がないものと考えられていた。しかし、その後の研究で、ヒトの遺伝子上には1コピーだけLY49遺伝子(LY49L)があることがわかった。ヒトLY49L遺伝子がコードするタンパク質は、Cタイプレクチン様ドメインが欠けており、NKレセプターとして機能していないものと考えられる。これとは逆に、齧歯類も1つか2つのKIR様遺伝子を持っている。しかし、配列に異常があり、正常には機能しいていないものと考えられる。そこで、霊長類と齧歯類の祖先では、LY49とKIRの両方のレセプター遺伝子が存在したことが推測される。最近の研究で、ウシにはITIMのある1コピーのLY49遺伝子と、複数のKIR遺伝子があることが示された。また、他の哺乳類ではネコ、イヌ、ブタにおいてITIMを持った1コピーのLY49遺伝子と、サザンブロット解析の結果から複数のKIR遺伝子が存在することが示された。以上の結果からは、哺乳類の大部分の種においてはKIRがNKレセプターであることが示唆される。そこで、NKレセプター遺伝子に関しては齧歯類だけが、例外なのだろうかという疑問が持ち上がった。
  我々の研究室では、哺乳類の複数の種を対象にしてRT-PCR(reverse transcription-PCR)を用いた予備実験を行っていた。その結果、ウマで複数のLY49遺伝子が転写されているということが分かった。それが、本研究で、ウマにおけるNKレセプター遺伝子の詳細な解析を行う動機になった。
  本研究の結果、齧歯類以外の哺乳類で初めて、ウマで複数のLY49cDNA配列が同定された。2個体のウマから合計16個の異なったLY49配列を単離することができた。各々のウマからLY49A、LY49B、LY49C、LY49D、LY49E、LY49Fの配列を得ることができ、やはりウマには複数のLY49配列があることが分がった。LY49A、LY49Bの中には、アミノ酸配列に翻訳するとCタイプレクチン様ドメインに欠落があり、NKレセプターとしての機能を果たせないと推測されるようなレセプター遺伝子もあった。しかし、それ以外のLY49については、NKレセプターとして機能しうるものであった。LY49A、LY49B、LY49D、LY49EとLY49Fは細胞内領域にITIMモチーフがあり抑制化型としての機能を、LY49Cは膜貫通領域に陽電荷性アミノ酸残基のアルギニンを有していて活性化型としての機能を果たすことが可能なレセプターだった。
  以上の結果より、ウマにおいてはLY49がNKレセプターとしての機能を果たしていると考えられる。これに対して、ウマのKIRプローブを用いたサザンブロット解析でも複数のバンドが検出されていた。ウマが機能的なKIR遺伝子も持っているかどうかを検証するために、ウマ脾臓より作成されたライブラリーを用い、KIR遺伝子族のcDNAクローニングを行った。そして、少なくとも6種の異なったcDNAクローン配列を得た。アリル様の2つはKIR3DLをコードしたが、ITIMモチーフに変異があった。4種はKIR-ILTハイブリッド型であったが、全てのクローンにはストップコドンやフレームシフト変異があり、さらにD2ドメインの大部分が欠けていて、NKレセプターとして機能しうるものは1つもなかった。従ってこの結果は、ウマでもNKレセプターとしてLY49を用いているということの裏付けにもなった。また、サザンブロット解析の結果からだけでは、KIRとLY49のどちらかが使われているかを推測することが不可能であるということも分かった。
  ウマILT11とLILRAの同定は、霊長類と齧歯類以外の哺乳類にもILT遺伝子が存在するという確固たる証拠になった。ウマにおいて脾臓で最も多く発現されていたのは、ILT11A、ILT11Bである。それらは2つのIg様ドメインがあるタイプで、ヒトILT11に類似していた。これらのcDNAにはスプライシングバリアントがあり、アミノ酸配列に翻訳して配列の比較を行うと、膜近位のIg様ドメインのみで構成される新しいタイプのウマで特有ILTもあることが分かった。LILRAは4つのIg様ドメインがあるウマILT遺伝子であるが、ヒトやマウスにはないような独特のドメイン構成を持っていた。以上の結果から、ILT遺伝子族はそれぞれの種によって、構造も発現のパターンも異なるということが分かった。
  本研究ではさらに、LRC領域に遺伝子があり2つのIg様ドメインを持つ活性化型レセプターのFCαRやNKp46分子をコードするcDNAも単離することができた。その結果、ウマではFCARやNKp46遺伝子は保存されているのにKIRやILT遺伝子族についてはヒトやマウスとは異なっていることが分かった。また、本研究によりFcαRとドメイン構成の似たILT様レセプターをコードするウマcDNAクローンも単離された。
  現段階では、齧歯類以外の噛乳類においてはウマのみが、LY49を古典的MHCクラスI分子のレセプターとして用いていることが強く示唆される動物である。しかし、これから他の哺乳類においての研究が進むにつれて、この状況も変化していくであろう。, 総研大甲第788号}, title = {ウマにおけるナチュラルキラーレセプター遺伝子群の解析}, year = {} }