@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001212, author = {鈴木, 隆志 and スズキ, タカシ and SUZUKI, Takashi}, month = {2016-02-17}, note = {適応免疫系は、自己-非自己を抗原特異的に識別し、体内に侵入した病原微生物を排除するように進化してきた。抗原の提示および認識は、major histocompatibility complex(MHC)分子と、rearraning antigen receptorであるT-cell receptor(TCR)およびImmunoglobulin/B-cell receptor(Ig/BCR)により媒介される。従って、MHC、TCRおよびIg/BCRは、適応免疫系の成立には必須の構成要素であるといえる。全ての有顎脊椎動物は、系統進化学的に最も下位の軟骨魚類を含めて、非常に発達した基本的には同様の適応免疫系を備えている。対照的にヌタウナギおよびヤツメウナギに代表される無顎魚類では、適応免疫系の成立に必須な構成要素を同定しようとする試みは、現在まで全て不成功に終わっている。これらの事実は、無顎魚類が適応免疫系の起源を探るうえで重要な系統進化学的な位置を占めていることを示唆している。それゆえ本研究では、適応免疫系の起源を探ることを目的に、無顎魚類の一種であるヌタウナギEptatretus burgeriを対象として以下の3つの実験を行った。1)ヌタウナギ末梢血白血球cDNA libraryを用いたtranscriptome解析。2)ヌタウナギ由来Ig superfamily(IgSF)遺伝子群の同定および特性調査。3)ヌタウナギbacterial artificial chromosome(BAC)libraryの構築、である。
 最初のパートでは、ヌタウナギ末梢血白血球より作成したcDNA library由来の15,360 cloneについて、5'-および3'-tag配列の決定を行った。5'-tag配列の相似性に基づいたcluster化により得られた5,036 clusterについてBLASTX解析を試みた結果、3,962 clusterで既知遺伝子との相同性が確認された。これらの遺伝子には、MHC、TCRおよびIg/BCRは含まれていなかったものの、免疫系に関与すると予測される78遺伝子が同定された。これらの遺伝子から、有顎脊椎動物では免疫担当細胞であるリンパ球の分化および機能調節に関与するGATA3およびBruton's tyrosine kinase(Btk)との相同性が確認された2つのcDNA cloneを対象に、より詳細な解析を行った。アミノ酸配列を用いた分子系統解析の結果、ヌタウナギ由来GATA3-like分子は、有顎脊椎動物のGATA2およびGATA3から等距離に位置することが示された。同様にBtk-like分子を用いた解析からも、この分子は、真正のBtkというよりむしろ同じTec tyrosine kinase familyに含まれるBmxとBtkとが重複する前の特徴を有していることが示された。以上の結果は、適応免疫系が、有顎脊椎動物に限定された機能であるというこれまでの説を強く支持するものと考えられる。一方、無顎魚類からは初めてV-C2 typeのdomain構造を持っlgSF遺伝子が同定された。予測アミノ酸配列を用いた解析から、本遺伝子は、cytoplasmic tailにimmunoreceptor tyrosine-based activation motif(ITAM)を持つ新規遺伝子である事が明らかと成った。
 続いて、IgSF遺伝子をコードするcDNA clone群の同定を行った結果、計14 clusterが、IgSF遺伝子に属すると予測された。これらの内、rearranging antigen receptorのV domainとの相同性が確認された遺伝子を、ヌタウナギ特異的IgSF遺伝子として詳細な解析を行った。本遺伝子特異的probeを用いてヌタウナギcDNA libraryのscreeningを行った結果、同じ遺伝子族に含まれる11本のcDNA配列が得られた。これらcDNA配列を用いた解析からは、この遺伝子がmultigene familyを形成していることが確認された。アミノ酸配列を用いた解析からは、activation formおよびinhibitory formにより構成される膜型糖タンパク質receptorであり、paired receptorとしての特徴を備えていることが確認された。これらの特徴から、本遺伝子族をAPAR(Agnathan Paired receptors resembling Antigen Receptors)と命名した。two-step real-time PCRの結果、APARは、白血球において顕著に発現していることが確認された。APARのV domainは、非常に保存性が高く、典型的なJoining(J)regionを有する。さらにAPARは、現在までに報告されている限り、有顎脊椎動物より下位の生物から報告されたものとしては、TCR/Ig-like V domainを持つ事が確認された初めての遺伝子である。genome上でのAPAR V domainの構造は、V regionおよびJ regionが同一exon上にコードされていることから、有顎脊椎動物のrearranging antigen receptorに見られるようなrecombination signal sequenceが挿入されておらず、祖先型antigen receptorが持っていたと想定されるV domainの構造的特徴を備えている。それゆえ、APAR遺伝子族は、TCRおよびIg/BCRの共通祖先が持っていたと予測されるV domainと、同じ起源から生じた可能性が示唆される。
 最後に、ヌタウナギを対象としてbacterial artificial chromosome(BAC)libraryの構築を行った。本libraryは、およそ100kbの平均insert sizeを持つ93,978 cloneにより構成され、約3倍のgenome coverageと等しいtotal DNA sizeを持つ。また、同時に作成したBAC DNA three-dimensional poolは、PCRによる迅速なlibrary screeningを可能とする。本研究により構築されたヌタウナギBAC libraryは、無顎魚類を対象に作成されたものとしては、世界初のlarge-insert genomic libraryである。
 まとめとして、本研究により、ヌタウナギから多くの免疫関連遺伝子が同定された。特にAPAR遺伝子族は、antigen receptorの起源を探る手掛かりをもたらすと考えられる。また、本研究で構築されたBAC libraryは、提供可能な重要なリソースであり、ヌタウナギをはじめ無顎魚類のgenome解析を推し進める上では、原動力になるものと考えられる。, 総研大甲第820号}, title = {無顎魚類における免疫関連遺伝子の解析}, year = {} }