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 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)はグラム陰性の海洋性細菌であり、主に魚介類に付着している。腸炎ビブリオは日本国内における細菌性食中毒の主要な原因菌であり、夏期を中心に調理不十分な魚介類の摂食および生食による下痢症を引き起こす。また東南アジアから帰国する際に見られる旅行者下痢症の主要な原因菌でもある。腸炎ビブリオの病原性株は腸管毒性を持つTDH(Thermostable Direct Hemolysin)毒素あるいはTRH(Thermostable direct hemolysin Related Hemolysin)毒素を産生し、これらの毒素が主要な病原因子としてよく研究されている。
 腸炎ビブリオ食中毒は疫学的な目的で感染動向が継続的にモニタリングされている。患者から分離された株については分類のために、菌体表面のO抗原とK抗原の型に基づく血清型分類と、毒素遺伝子(tdh, trh)の検出によって病原性株の判定が行われている。病原性株の流行型は1995年以後、それまで主流であったO4:K8からO3:K6株へと突如として血清型がシフトした。このO3:K6血清型を示す株は1995年の東南アジア地域での流行をきっかけとして、さらに国境を越えて南北アメリカ、ヨーロッパ、そしてアフリカでも見つかっている。
 奥田ら(1997)は流行株の遺伝的背景を知るために、1995年以降に流行しているO3:K6株と過去のO3:K6株(1982~1993年までの患者分離株)について、DNAフィンガープリント法を用いて両者のDNAプロファイルを比較した。その結果、流行しているO3:K6株同士はDNAプロファイルが一致していたが、過去のO3:K6株とはプロファイルは一致しないことが分かった。このことから、流行しているO3:K6株間は遺伝的背景が同一か非常に近似しているものの、過去のO3:K6株とは遺伝的背景が異なる新型株であることが示唆された(Okuda et al. 1997)。
 さらに松本ら(2000)は、新型株のみでバンドが増幅されるようにプライマーを設計したGroup specific (GS) PCR法(Vibrio属特有のtoxRS遺伝子を標的とする)を開発し、分離年代も血清型も様々な患者分離株にこの方法を適用した。その結果、1995年以前の患者分離株ではどのような血清型も全て陰性判定(GS(-))であったが、新型O3:K6およびこの株の流行から数年遅れて新たに出現したO4:K68、O1:K25、O1:KUTなどの血清型を示す株では陽性判定(GS(+))が見られた。これらの血清型の異なる株のDNAプロファイルは新型O3:K6株と同一あるいは近似していたので、新型O3:K6株から出現した血清型の異なる派生型と考えられた(Matsumoto et al. 2000)。現在では流行初期に見つかった新型O3:K6株をはじめ、血清型の異なる派生型株も含めて「pandemic clone」もしくは「post-1995 pandemic strains」(PDグループ)と呼称されるようになった。このような先行研究を背景として、いつどこでPDグループが生まれたかという菌株の遺伝的な系譜、そしてクローナリティの高い菌株における世界的な流行性(pandemicity)の要因とは何かという問題提起がなされた。
 PDグループのTDH毒素の産生量は過去の株と同程度であることが知られているため、TDH毒素産生量がpandemicityに関与しているとは考えにくい(Okuda et al., 1997)。しかし、最近になってPDグループのゲノムのみに見つかる4つのgenomic islands(GIs)が報告された(Hurley et al., 2006)。GIsは一般に水平遺伝子伝達によって他の菌種からもたらされる挿入配列であり(Dobrindt et al., 2004)、これらの4つのGIs(VPaI-1, VPaI-4, VPaI-5, VPaI-6)にコードされている遺伝子群の機能がPDグループのpandemicityを担っている可能性が提唱されているが、これらの機能はまだ詳しく研究されていない。
 本論文の目的はPDグループが出現するに至る菌株の系譜を明らかにするとともに、PDグループの持つpandemicityという性質がゲノムのどのような領域に担われているかを詳しく解析することである。
解析方法)
 PDグループおよびそれ以外の菌株(NPグループ)の系譜を明らかにするために、1980年から2001年までにアジアの11カ国で分離されたPDグループを含む61のV. parahaemolyticus被検菌株について、11遺伝子のDNA配列(合計8055bp)を決定した。解析した遺伝子は全ゲノム配列が公開されている新型O3:K6株の情報に基づき、できるだけ菌株の歴史を反映するようなハウスキーピング遺伝子を、さらに大小2つの染色体の歴史を反映するように選んだ。それぞれの標的遺伝子について統計的な方法で過去のgenetic exchangeを検出するとともに、genetic exchangeが起こっていないと考えられた4遺伝子のDNA配列を連結して菌株の系統関係を推定した。このようにして得られた系統樹について、tdh遺伝子およびGIsの有無を重ね合わせて、菌がpandemicityを獲得した歴史について検討した。
 一方、PDグループのみが保有する4つのGIsの一つであるVPaI-1領域(約23kb)について実験的な観察から、低温や高温の温度ストレス適応およびswarming能力の向上に関わる遺伝子が存在することが示唆されていた(Kamruzzaman et al., manuscript in preparation)。この示唆に基づき、生命情報学的手法を用いてVPaI-1領域にコードされている24遺伝子の機能及びその由来について詳しく解析した。解析には24遺伝子それぞれのアミノ酸配列について、pfamデータベースを用いて保存されているドメインの検索、24遺伝子のホモログと考えられる遺伝子が系統学的にどのような菌種に分布しているかどうかをtblastnを用いて検索した。

結果と考察)
 まずはじめに、11遺伝子の連結DNA配列(8055 bp)を用いて分子系統樹を作成した。その結果、GS(-)を示す集団の一部においてtoxRS遺伝子に塩基置換がおこり、GS(+)を示す集団が派生したということが分かった。GS(+)集団はGS(-)集団に比べて遺伝的多様度が小さく、多くの同一配列を含んでいた。このことはGS(+)集団がつい最近になって広まった集団であるということを示唆する。また、PDグループはGS(+)集団の一部から派生したことも分かった。
 次に、細菌ゲノムでは水平伝達や組換えなどのgenetic exchangeが頻繁に起こりうることを考慮し、11遺伝子について統計的手法を用いて過去のgenetic exchangeを検出した。その結果、7遺伝子が過去にgenetic exchangeを起こしていたと判定された。そのうちのVP0340はこれまで知られていなかった血清型を決める遺伝子座を探す指標となることがわかった。さらにVPA1232の系統樹ではPDグループが単系統であることを明確に示しており、近傍のPDグループ特有のVPaI-6配列の有無と進化的歴史がリンクしている可能性が強く示された。さらに大染色体上の組換えを起こしていないと考えられた4遺伝子の連結DNA配列(3153 bp)を用いて菌株の系統関係を推定した。これらの4遺伝子は自然突然変異の蓄積だけによって菌株間の配列が変化してきたと考えられ、この系統樹は菌株のたどった連続的な歴史をより正確に反映している可能性が高い。同じDNA配列をもつ菌株の中で、分離年代が最も古いものを菌株が派生した年代と仮定した。これに基づいてVPaI-1とVPaI-5と呼ばれるPDグループ特有の挿入配列が獲得された時期を推定出来た。この挿入配列の獲得はPDグループが初めて発見された時期(1995年)と重なる。また、GS(+)のクラスターはGS(-)に対して単系統性を示したが、このクラスターの中にはPDグループではない菌株が含まれていた。同様に、毒素タンパク質をコードしているtdh遺伝子のDNA配列についても解析を行ったが、PDグループとNPグループを区別できるような塩基置換は含まれていなかった。ゆえにGS(+)の性質およびtdh遺伝子の歴史ではpandemicityを直接的に説明することはできないと結論した。よって、PDグループ特有の挿入配列のような他の因子がpandemicityに関係している可能性を考えた。
 VPaI-1にコードされている24遺伝子は半数以上が機能未知であり、機能が推定されているものに関しても温度ストレスに関わると考えられる遺伝子を見つけることができなかった。また、24遺伝子のホモログと考えられた遺伝子の系統学的な分布は様々であったことから、VPaI-1領域にコードされている遺伝子の起源はそれぞれでずいぶんと異なっていること、欠失と獲得を何度も繰り返して構成された複雑な領域であることが示唆された。
 さらに24遺伝子のうち、連なった7遺伝子はShewanella sp. MR-7株およびVibrio vulnificus CMCP6株にのみにシンテニーのある領域(syntenic region)であることが分かった。また、実験的観察からVPaI-1領域には温度ストレス適応に関わる遺伝子の存在が考えられていたこと、Shewanella属およびVibrio vulnificus は一般的に低温に適応した種であること、syntenic region がこれら2種だけに共有されていたことから推察して、V. parahaemolyticusのPDグループはsyntenic regionを獲得することによって低温ストレスに適応したのではないかと考えられた。さらにsyntenic regionにはswarming能力の向上に関与する遺伝子(VP0394)が含まれており、この能力はV. parahaemolyticus菌体が腸管に定着しやすくなるなどして菌の病原性向上に寄与した可能性が考えられた。これらの知見はPDグループはNPグループに比べて低温で増殖しやすい(Nishina et al., 2004)およびPDグループがswarming能力を持っている(Yeung et al., 2002)という報告とも符合している。

PDグループが世界的流行を引き起こしている理由についての仮説)
 魚介類にはもともと様々な血清型を示す腸炎ビブリオ菌株が付着していると考えられる。菌体が世界中へ拡散した経路としては魚介類の輸出入ルートが考えられる。魚介類の輸出入には鮮度維持・衛生管理のために低温保存が欠かせない。従来のV. parahaemolyticusは低温に弱く死滅してしまっていた。しかしVPaI-1を獲得した株(PDグループ)は従来株に比べて低温に強い性質を獲得したかもしれない。魚介類保存のための低温処理が人為選択としてはたらき、PDグループばかりが選択的に生き残った可能性がある。PDグループは冷蔵・冷凍魚介類に付着したまま、グローバルマーケットを介して船舶や航空機に乗って急速に世界中へ輸出された。そして結果的に遺伝的に同一あるいは近似するPDグループ菌株による腸炎ビブリオ食中毒が世界各地で引き起こされたと推察される。このような事情がpandemicの一因ではないかという仮説を提唱した。今後、輸出入の冷凍魚介類からPDグループが検出されるならば、この仮説を支持する証拠の一つとなるだろう。
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