@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001268, author = {荒川, 悦雄 and アラカワ, エツオ and ARAKAWA, Etsuo}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {水面上に単分子膜をつくるエイコサン酸分子と水中のカドミウムイオンとの間の相対的位置を、水面上のまま、実験的に示した。
 物性や化学反応性に対する分子の配列効果や非線形応答を明確にするために、基板に垂直な方向に単分子膜の累積によって、希望する人為的な分子配列を構築する方法が注目されている。単分子膜の構造が累積膜の構造に直接影響するため、分子を水面上に置いたままの状態で膜の構造を評価したり制御したりすることが期待されている。また水中に金属イオンが存在する場合は、単分子膜は質的に変化することも知られており、水面上の単分子膜に対する、水溶液中の金属イオンの影響について、重要な問題となり多くの議論がなされてきた。水素イオン濃度に依存する分子占有面積という間接的測定から、単分子膜分子の充填構造はイオンの種類によって固有な構造に変化すると思われていた。脂肪酸のカルボキシル基に対して、遷移金属と後遷移金属のイオンは基礎石鹸構造あるいは複雑な重合体構造をとるとされ、アルカリ土類金属イオンは二石鹸構造もしくは構造を形成しないと報告されていた。しかし、金属イオンがどの様な相互作用によって影響を及ぼすのか、どの様な幾何学的位置に存在するのかは分からなかった。
 脂肪酸の親水基と金属イオンとの相互作用については、現在まで、表面ポテンシャルの測定により、アルカリ土類金属は静電的相互作用を、遷移金属は共有結合を介したさらに強い相互作用をしていると報告されている。膜分子の幾何学的な配置については、強力な放射光X線を光源に用いることにより、斜入射回折法によって単分子膜から棒状の回折光(ブラッグロッド)を測定できるようになった。分子円筒モデルによる解析法を用いて、膜の二次元的周期構造や分子の傾く向きや角度は、直接に観察されるようになっている。単分子膜をつくる脂肪酸の標準物質として知られるエイコサン酸に対して、膜からの回折光とともに、それとは別な下につくカドミウムイオンからと思われる超格子反射が、この研究の以前に測定されていた。これにより金属イオンの二次元的周期構造の存在が報告されている。しかし、単分子膜と金属イオンの二次元膜の間の位置的な相関関係はこの測定からは分からなかった。後になって金属イオンからの複数のブラッグロッドの相対積分強度を比較することにより、純水上で矢絣状に充填された単分子膜分子に対して、カドミウムイオンの位置をフィッティングして求めることにより、基礎石鹸構造で、イオン位置の四通りの可能性を提案している。こうして実験と解析が進められてきたが、分子の位置と金属イオンの位置との幾何学的相関関係の問題は、依然はっきりしていないままであった。
 単結晶の固体基板表面上に、付着した一層の金属原子の場合は、単結晶基板の原子位置と付着金属原子間の幾何学的配置を決定する方法がある。すなわち、放射光を用いた斜入射X線回折法により、付着原子からの回折光の影響によって、固体単結晶表面からの棒状回折光(トランケィションロッド)に沿った強度分布が干渉しあって変化する。このトランケィションロッドの強度変化を精密に解析することによって単結晶基板の原子位置と付着金属原子間の幾何学的配置を決定するのである。
 この研究は、この固体での方法を水面上単分子膜の下の金属イオンの位置決定に適応できるのではないかと考えた。すなわち、金属イオンの格子からの回折光は非常に強度が弱いが、電子数の多い単分子膜の分子の格子からの回折光に金属イオンの格子からの回折光の影響が干渉しあうことにより、ブラッグロッドの強度分布に変化を与えて測定され、これを精密に解析することによって、分子の位置と金属イオンの位置との幾何学的相関関係が分かるだろうと推察される。親水基の酸素とカドミウムの間の距離を、結合距離の一般値2.22Åとして、実際に典型的な石鹸構造に対して、ブラッグロッドに沿った強度分布を計算してみた。すると、有意な差がそれぞれにあり石鹸構造の区別や金属イオンの幾何学的位置の決定が可能であるため、実験的にこれを示すことにした。さらに、異なる回折面からの回折光の相対強度を比較するため、水面上単分子膜が二次元的な粉末結晶と考えられるときのローレンツ因子も考慮し強度計算に取り入れた。
 斜入射X線回折法によるブラッグロッドに沿った強度分布測定を行ったところ、最大三つのブラッグロッドの組が観察された。溶液の温度や表面圧、水素イオン濃度の違いにより、これらブラッグロッドに沿った強度分布は変化することも確認できた。
 得られた三つの水平面内の回折角より単位格子の形を三種類の場合に限定した。解析は、これらのそれぞれに対して構造モデルを組み、導かれるX線回折強度の計算を行ない、実験で得られた強度分布に合うものを探した。炭素鎖の方向を考慮し、前期の石鹸構造のほか幾何学的に容易に配置できる三石鹸構造、自由回転の構造についても考慮した。その結果、ブラッグロッドの相対的積分強度の比較からは区別のできなかった単分子膜の分子に対する金属イオンの位置を、ブラッグロッドに沿った強度分布を解析することによって示すことができた。すなわち、エイコサン酸は常温で弱酸性のカドミウム水溶液上に展開されると、鈍角二等辺三角形二つからなる基本単位格子の長辺状で二石鹸構造になり2x1の超格子となることがわかった。またカドミウムは二つのエイコサン酸分子の中央下にあることがわかった。放射光を用いた斜入射X線回折法によって測定されるブラッグロッドの強度分布の精密な解析という、下地金属イオンの格子からの干渉の効果を考慮した新しい方法により、単分子膜結晶の分子に対する金属イオンの幾何学的位置の相関関係を決定できることが実験的に可能であることを示した。今後は、異常分散の効果を利用して、この方法を発展させることが考えられる。, application/pdf, 総研大甲第117号}, title = {斜入射X線回折法による気液界面単分子膜エイコサン酸カドミウム石鹸構造の決定}, year = {} }