@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001289, author = {稲村, 泰弘 and イナムラ, ヤスヒロ and INAMURA, Yasuhiro}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {一般にアモルファス固体、非品質固体、ガラスといわれている物質は、結晶のように構成原子や分子がよい並進対称性を持っていない。そのため不規則系または乱れた系などと呼ばれることがある。
 一方、非品質における普遍的な性質として、低温における諸熱物性(熱伝導率のプラトー領域や余剰比熱)や、低エネルギー励起(ポゾンピーク)の存在があげられる。これらの性質は構成原子分子によらないことから、その特徴的な中距離構造が大きな役割を担うと考えられており、特に低エネルギー励起に関しては昨今様々な実験手段(中性子非弾性散乱、Raman散乱)を用いて観測されてきた。しかし、その起源はいまだ完全な理解には至っていない。
 従って、ガラスの本質を知るためには、まさにガラス中の中距離構造とそのダイナミックスを研究することが必要である。そこで、典型的で諸物性値のよく知られている石英ガラスを高温超高圧で圧縮させることで永久高密度化し、恣意的にその内部構造を変化させた試料を作成し、各種物性値の密度依存製を測定することで、構造とダイナミックスの関係を明らかにし、非品質の普遍的物性の理解を目的とする研究を行なった。
 今回中性子散乱に用いる大量かつ高純度の試料を得るため、約7 GPaの圧力と同時に約600℃の温度を加えることで高密度化し、最大20%密度が高い試料を作製した。また、圧縮石英ガラスの構造を観測する手段として、中性子回折実験をイギリスのラザフォードアップルトン研究所内のISIS中性子散乱実験施設に設置されたLAD分光器で行なった。さらに同実験施設のMARI分光器にて石英ガラスのダイナミックスを観測するために中性子非弾性散乱実験を行なった。
 圧縮による著しい静的構造因子の変化は、主に第一ピークと第二ピークとに現れている。特に第一ピークの変化が顕著であり、密度上昇につれてそのピークの高さ、位置が大きく変化していることが分かる。一方、6Å-1以上の範囲において構造因子の密度による変化はほとんどみられない。これは構造における短距離構造に変化がないこと、つまりSiO4正四面体の構造はほとんど変化を受けないことを示している。第一ピークの高さは、密度の上昇に伴い減少している。中心位置は密度に対しほぼ線形に高いQ方向にシフトしている。また、その幅は密度依存性がなく一定である。このような密度変化に伴うFSDPの変化は、Molecular dynamics(MD)シミュレーションによっても報告されており、同時に密度増加に伴う6員環(6個のSiO4 4面体によるリング構造)の個数減を示唆している。6員環構造は結晶クリストバライトにおいて基本構造として存在しており、なおかつクリストバライトはガラスに近い密度を持つ。よって石英ガラスの高密度化による構造変化を、6員環構造を念頭において考えることが妥当であろう。
 密度変化による全2体相関関数のピークの変化が激しいと思われるのは5.8Åから6.5Åでのブロードなピークで、密度が上昇するに従い、明らかにこの明瞭であったピークが徐々に埋もれる、もしくは消滅しているように見える。この距離相関にある構造としては、まさに6員環構造の半径に当たる珪素一珪素間距離である5.8Åや、珪素一酸素間距離である6.5Åが当てはまると考えられる。すなわち高密度の石英ガラスにおけるこの距離相関を示すピークの不明瞭さは、6員環構造の減少もしくは消滅を示していると考えられる。乙のことから、石英ガラスの中距離相関はクリストバライト結晶中に存在する構造をとっている可能性が非常に高い。そして、高密度化によってその構造が消滅もしくは減少しているのはあきらかである。従って圧縮による密度変化はクリストバライト中に見られるような6員環構造が構成している空隙構造が消滅したことによるものである。
 中性子非弾性散乱より得られた動的構造因子を運動量方向に積分することでフォノン状態密度を得ることができる。非常にはっきりとしたBoson Peakが、非圧縮のガラスでは4meV、もっとも圧縮したガラスでは8meV付近に存在している。一方、そのピークの強度の変化は非常に著しい。非圧縮の時のBoson Peakに比較して圧縮ガラスのピークは5meV付近の低エネルギー領域の強度が非常に減少し、12meV付近より上ではほとんどその強度に変化がなかった。このことから圧縮によるBoson Peakの変化は、単純にピークの位置が変化するのでなく、強度の変化が大きく作用していることが明らかとなった。圧縮によって失われた強度は、およそ4meVを中心としたきれいな強度分布をしている。このことから、圧縮によるガラス内部の中距離構造の変化によって、とある振動モードが減少したことが分かる。この強度変化は、圧縮した石英ガラスを用いて測定した低温比熱の強度変化とまさに対応しており、Boson Peakが低温熱物性を直接的に担っていることがわかる。一方、各密度点のBoson Peakの動的構造因子からフオノン状態密度を求め各密度点における非圧縮ガラスからの体積変化に対するBoson Peakの状態密度の変化は原点を通るような線形の関係を持った変化をしている。
 すでに述べたように高密度化による構造変化は、SiO4四面体構造を保ちながら6員環やそれによって作られる空間的な空隙がつぶされたと考えられる。すなわち、Boson Peakを担っているモードの個数は体積に比例しているということから、圧縮することによって消滅する空間すなわち空隙構造があることによって存在しているモードであるということがここからも理解できる。
 以上のことから石英ガラスのBoson Peakは6員環の構造が持つ空隙があることによって生じる自由度が関係する局所的な振動モードで構成されていると結論付けることができる。
 この解釈は中山によるBoson Peakの最近の理論と合致している。中山らは、ネットワークがラス内部において原子もしくは原子群が線形のばねによって繋がれた2本のチェーンのモデルを提唱、そのチェーン上に付加的な振動状態を仮定することで、局在的な振動状態がおこるとしている。この結果、局在的な振動モードと分散的な振動モードが共存的に発生する。これは我々の最近の研究からも明らかに存在することが観測されているが、ここでは触れない。
 石英ガラスにおける低温熱物性がまさに6員環構造によって作られる隙間(空隙)構造によってひき起こされる局在モードによることがわかったが、ここまで詳細に構造とBoson Peakを解析した報告は今までに無い。
 当然一般のガラスにおいても、同じように空隙構造かになうモードが低温熱物性を担っていると考えて良いだろう。今後の研究によるがガラスという概念を作り上げる確実な一歩を踏み出せたと考えている。, application/pdf, 総研大甲第441号}, title = {中性子散乱による石英ガラスの構造とダイナミックス -非晶質の普遍的物性へのアプローチ-}, year = {} }