@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000129, author = {松岡, 葉月 and マツオカ, ハツキ and MATSUOKA, Hatsuki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {生涯学習時代においては、自ら主体的に学ぶ力が問われている。博物館においても同様であ
り、主体的に学ぶ力について、知識注入型の学びではなく、学び手が本来もつ知識や経験、そ
れに基づく興味や関心に基づいた知識の構成を意味する主体的学びの理論から議論されてい
る。この学習理論が注目される以前から、歴史系博物館では知識や経験に基づく学びが日常的
に行われてきたといってよいが、その学びの実態は明らかにされておらず、主体的な学びの理
論などに基づいた分析はなされていない。本研究では、展示作成者の意図が伝わるか否かでな
く、利用者が展示からの情報をどのように受け取るかという意味での利用者主体の学びを分析
することで、主体的な学びの実態を明らかにすることを目的とする。それによって得た展示理
解の方法を学びの支援に生かすことで、より豊かな博物館体験を提供できるであろう。そこで、
利用者主体の学びを考える上で、歴史展示における主体的学びの理論の適用性を理論と実践の両面から検討した。以下に研究の概要を述べる。
 第1章では、歴史展示の学びの場における主体的学びの理論の適用性を検討した。この理論
は、学び手以外の他者からの働きかけと、学び手の様々な興味・関心、知識や経験に基づいて
学びが成立するとされている。歴史展示を活用した学びの場では、様々な状況に応じて、展示
や学習プログラムという他者からの刺激と、学び手の様々な興味・関心、知識や経験に基づい
て、歴史像、つまり知識を構築していると考えられる。よって歴史展示に対しても、この理論
の適用が可能であると考えられる。
 第2章では、実際の歴史学習初期段階における歴史展示を活用した学びの場において、主体
的学びの理論の適用性を検討した。歴史展示における主体的学びという場合に、歴史展示の活
用における歴史意識の発達や、その質的変容が解明されていないことに対し、歴史意識のいず
れの発達の段階においても、生活に関わる道具や生産に関わる道具という資料の種別によっ
て、歴史意識の質的変容に差異が生じないことを明らかにした。この結果から、利用者の興味・
関心、知識や経験から自由に資料を選択できる学習プログラムを作成できる妥当性が得られ、
主体的学びの理論の適用性を明らかにした。
 第3章では、教育事業を実施している幾つかの歴史系博物館について、学習プログラムの実
施形態や、それに含まれる学びの要素を明らかにした。結果として、実施形態は、博物館のも
つ人的要因と展示などの物的要因、さらに利用者の利用形態から成立っている。いずれの実施
形態においても、博物館職員が直接関与するワークショップ形式と、直接関与しないワークシ
ート形式が見られる。それらに含まれる学びの要素は、知識注入型の学び、もしくは、与えら
れた学習課題に関する情報を発見する発見型の学びがあり、利用者自らが学びを構成する要素
は見られないことが明らかとなった。実際のワークショップ形式とワークシート形式の学習プ
ログラムについて、行動観察やアンケート調査を用いて主体的学びの理論に基づき、学びの特
性を分析した結果、資料そのものの観察から理解を深めさせる方法や、学習課題に関する情報
を発見する発見型の学習は「みる」ことを促す効果があり、それぞれの年齢層の特性に応じた
主体的学びが認められた。
第4章と第5章では、利用者の興味・関心、知識や経験が反映されやすい学びの環境下にお
ける主体的学びの特性を検討した。被験者については、第4章では通史の歴史学習終了者(小学
校6年生と大人)とし、第5章では歴史学習初期段階(小学校3年生と4年生)として、歴史に関
する知識や経験の状態に合わせたワークシート型の学習プログラムを提供した。
第4章では、展示との関わり方の多様性を明らかにすることを目的とした。展示との関わり
方は、展示からの情報の受け取り方から分析することができた。それは、i(Ⅰ受動的・Ⅱ能
動的)、ii(A思考的 B感性的)、揖(a個性的・b一般的)に表されるi ii、iiiの片方の要素
を用いて対になる3つの組み合わせで表せる。分析の結果、展示との関わりの型の全体の傾向
には、展示解説文や自分の歴史的知識や文脈に依拠した、ⅡAa(能動的・思考的・個性的)やI
Ab(受動的・思考的・一般的)な型が多く見られるが、展示解説文や歴史的知識よりも感性に
基づくⅡBa(能動的・感性的・個性的)な型が見られることも明らかとなった。また、個人の展
示との関わり方は、模型や複製などの資料の種別によらず、特定の型に偏りがちな傾向が見ら
れた。大人と子どもを比較した場合、子どもの展示との関わり方の全体の傾向は、大人と比較
して限られた型に集中するが、個人の場合で見ると、大人よりも固定的な型に偏らない傾向が
あることも明らかとなった。このことから、全体と個々にみる展示との関わり方は、大人と子
どもで逆の傾向が認められる。さらに全体として、来館数による展示との関わり方は、固定的
な傾向が見られ、来館経験によって差が認められなかった。
 第5章では、展示を見たときに生じる感想や考えのつながりを明らかにすることを目的とし
た。それらは、見たもの(展示説明や展示資料である道具)に対する出現概念や、出現概念どう
しのつながりから検討することができた。見たものに対する出現概念は、具体的、あるいは抽
象的な概念が見られる。そして展示解釈の仕方は、展示説明の次に道具を見て概念を生じる場
合が多いが、道具に関する知識や経験が豊富な場合は、展示説明という抽象的なもの、もしく
は、道具という具体的なものの直後に概念を生じる傾向が見られる。
 概念全体の出現比率は、道具に関する知識や経験が豊富な場合、あるいは年齢が高い場合は、抽象的な概念の比率が高くなる。見たものの直後の出現概念は、知識や経験を問わず、展示説明という抽象的なものに対しては「解釈」に関する概念の比率が高くなり、道具という具体的
なものに対しては「機能」に関する概念の比率が高くなる。さらに、知識や経験が同じ場合や、
異年齢の場合も、生活に関わる道具や生産に関わる道具という資料の種別によって文脈に含ま
れる概念の出現比率に差は生じない。一方、展示理解の論理的道すじを表す概念と概念のつな
がりは、知識や経験、年齢を問わず、同じ質の概念どうしが結びつきやすいことが明らかとな
った。つまり具体的なものは具体的、抽象的なものは抽象的な概念とつながりやすい。
 また、展示を見たときに生じる感想や考えのつながりに対しての意識からは、小学校4年生
では歴史意識に関するものが多く見られたが、小学校3年生では、歴史意識に依拠せず、資料
そのものの観察から生じた感想や考えが多く現れたことに特徴がある。この結果から、資料に
関する知識や経験よりも、過去に対する時間的観念の発達段階、つまり年齢が、歴史展示を理
解するための要因であることを明らかにした。
 以上のように本研究では、「学びの目的が定められた学びの環境」と「知識や経験が反映さ
れやすい学びの環境」において利用者主体の学びの特性を明らかにした。「学びの目的が定め
られた学びの環境」においても、利用者主体の学びは認められ、資料そのものの観察から理解
を深めさせる方法や、学習課題に関する情報を発見する発見型の学習は「みる」ことを促す効
果があり、それぞれの年齢層の特性に応じた主体的学びが認められる。「知識や経験が反映さ
れやすい学びの環境」では、歴史学習初期段階では、学びの道すじとそれに対する意識、また
通史の歴史学習終了者については、展示との関わり方の多様性から、展示に関する知識や経験
に基づく主体的学びの特性が明らかとなった。
 しかしながら、主体的学びを促すために、歴史学習の経験に則して異なる学習プログラムを
提供したため、全ての年齢層の学びの特性を相対的に検討できたとはいえない。今後は、幅広
い年齢層に適用できる学習プログラムの開発と評価が必要である。さらに、歴史学の新しい研
究手法に反映された歴史展示の読み解き方に出現しうる多様なリテラシーの分析も視野に入
れた利用者主体の学びの検討が求められる。, 総研大甲第1183号}, title = {歴史系博物館における主体的学びの研究}, year = {} }