@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001301, author = {山口, 明彦 and ヤマグチ, アキヒコ and YAMAGUCHI, Akihiko}, month = {2016-02-17}, note = {ラミンは核に局在する唯一の中間径フィラメントであり、網目状の構造を呈する核ラミ
ナの構成蛋白質として、核の内膜の内側表面を裏打ちしている。核ラミンに関するこれま
での研究の多くは体細胞型核ラミンに関するものがほとんどで、生殖細胞型核ラミンにつ
いての研究は著しく少なく遅れている。
 卵黄形成を完成し十分に成長した卵母細胞は卵成熟ホルモンの刺激により第一減数分裂
を再開して成熟し、受精可能となる(卵成熟)。この過程で卵核胞の核膜は崩壊し、卵核
胞の内容物は細胞質中に分散する。また、卵が受精後に付活され前核形成が起こる際には、
核膜は再構成され、再び細胞核が形成されるようになる。これら一連の卵核胞の形態・生
化学的変化は卵成熟(細胞分裂)の進行にとって必須であり、従ってこれらの過程に卵核
胞ラミンが重要な役割を果している可能性が高い。
 卵成熟は卵成熟誘起ホルモンの作用で卵内で生成される卵成熟促進因子(maturation-
promoting factor、MPF)の働きで誘起されるが、最近このMPFの化学的実体が解明
され、MPFの刺激をきっかけとして卵内で起こる一連の生化学的カスケードについての
解析への道が拓けた。本研究では、MPFと卵核胞ラミンとの関連を明らかにするための
第一歩として必要な魚類卵核胞ラミンの化学的実体を明らかにすることを第一の目的とし
た。この目的のため、まずこれまで非常に困難であった卵核胞の大量単離法をキンギョ
(Carassius auratus)卵で確立するとともに、その単離卵核胞を材料として卵母細胞に発
現するラミンを蛋白質および遺伝子レベルで解析した。また、これまで脊椎動物で比較的
研究が進んでいる体細胞型核ラミンについても魚類の体細胞から精製し、その免疫・生化
学的特性について他の生物種や魚類卵核胞ラミンと比較した。
 実験材料として多量に得られるニジマス(Oncorhynchus mykiss)の赤血球から核ラミンに
富んだ残存核膜を単離し、それをSDS-PAGEで分画することにより分子量67KDaと69KDaのラ
ミン様タンパク質を精製した。次に、これら2種類の体細胞型ラミンに対するモノクロナル
抗体(MAbL-200)を作製した。この抗体はニジマスとキンギョの赤血球やキンギョの表皮腫
培養細胞の体細胞型核ラミン、及びアフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵核胞ラミン
(XL-III)を特異的に認識した。次に、キンギョの上記培養細胞のcDNAラリブラリーを作製
し、モノクロナル抗体MAbL-200をプローブとしてキンギョ体細胞核ラミンのcDNAを単離し
た。得られたいくつかのcDNAクローンについて部分塩基配列を決定したが、その中でクロ
ーンC8-4の部分塩基配列は、ヒトとマウスの体細胞核ラミンに全体としてそれぞれ70%と
60%のホモロジーが認められた。また、このクローンのC末端にはラミン分子の特徴とされ
るCaaXモチーフ配列がみられた。これらのことから、クローンC8-4はキンギョの体細胞型
核ラミンをコードするcDNAと判断された。
 これまで卵核胞ラミンの研究が遅れた原因として、卵黄の混在が無い卵核胞を大量に単
離することが困難であったことがあげられる。従って、卵核胞ラミンを精製する鍵はいか
に効率良く卵核胞を単離できるかに依存するといえる。本研究では抽出緩衝液の塩濃度を
検討することにより、キンギョ卵母細胞から純卵核胞標品を大量に単離することに成功し
た。次いで、この単離卵核胞から得た残存核膜分画について一次元と二次元電気泳動を行
なうことにより分子量66KDa、等電点値6.5のラミン様蛋白質を精製することができた。さ
らに、この単離卵核胞から調製した残存核膜分画を抗原にポリクロナル抗体(PAbGV)を作製
した。66KDa蛋白質はこのPAbGV抗体とは免疫反応したが、体細胞型核ラミンに対する抗体
MAbL-200とは反応しなかった。PAbGV抗体はまたツメガエルの卵核胞ラミンを認識するばか
りでなく、ニジマスとキンギョの赤血球およびキンギョの表皮腫培養細胞から精製された
体細胞型核ラミンをも認識した。しかし、この卵核胞ラミンの抗体を用いたウエスタンブ
ロッチングで精巣抽出物を解析したが、分子量66KDa付近にはこの抗体で認識される蛋白質
は認められなかった。従って、同じ生殖細胞でも卵核胞と精巣核のラミン分子はキンギョ
では同一でない可能性が高い。これは細胞分化の点から考えるときわめて興味あることで
ある。
 次に、この卵核胞ラミン抗体PAbGVを用いて、卵成熟誘起ホルモン(17α、20β-ジヒドロキシ
-4-プレグネン-3-オン、17α、20β-DP)で誘起されるキンギョのin vitro卵成熟過程での卵核胞
ラミンの挙動を解析した。その結果、66KDa蛋白質はホルモン処理後卵核胞崩壊の完了とと
もに細胞質分画に可溶化した。脱重合した66KDa蛋白質は100,000gの超遠心の後にも可溶
化した状態を維持していたことにより、このラミンは脱重合後も膜断片とは結合せず単独
の状態で存在するものと結論された。この可溶化ラミンの沈降係数は4S-9Sであった。
 キンギョの種々発達段階にある卵母細胞のcDNAライブラリーを作製し、抗体細胞型核ラ
ミン抗体(MAbL-200)と抗卵核胞型ラミン抗体(PAbGV)をプローブとしたイムノスクリーニン
グにより、キンギョ卵核胞ラミンcDNAのクローニングを試みた。双方の抗体に反応するク
ローンが数個ずつ得られ、それらについて部分塩基配列を決定したが、現在のところこれ
らのどのクローンにもラミンに特徴的な塩基配列はみつかっていない。しかし、抗卵核胞
ラミン抗体に反応するクローンの中に、疎水性アミノ酸に富む繰り返し配列を持つものが
あり、この配列は7個のアミノ酸毎にロイシンが現れる特徴ある基本構造を示す。現在ひき
続きこれらのクローンの塩基配列の決定を行っている。
 本研究により、魚類の体細胞型核ラミンと生殖細胞型(卵核胞)核ラミンの免疫・生化
学的特性がはじめて明らかにされた。特に、体細胞型核ラミンに関しては、そのcDNAが単
離され一部アミノ酸配列が決定された。また、卵核胞ラミンについては卵成熟(細胞分裂)
時における挙動が明らかになった。魚類の体細胞型核ラミンの免疫・生化学的特性は他の
生物でのこれまでの報告と類似していたが、卵核胞ラミンに関してはこれらとは明らかに
異なっていた。従って、卵核胞ラミンは新しい型のラミン、すなわち卵核胞ラミン、とし
て体細胞型核ラミンとは区別されるべきであると判断される。
 この研究で魚類の卵核胞ラミンが精製され、その特異的抗体も作製された。また本研究
で新しく開発されたキンギョ卵の細胞質と核の分画法を用いた予備的実験から、MPFの
構成成分であるcdc2キナーゼやサイクリンBが卵成熟誘起ホルモン17α、20β-DPで誘起され
るキンギョの卵成熟時に卵の細胞質と核の間を動的に移動することが観察され、このこと
がMPFの活性状態の変動と密接に関わっている可能性が高いことが示唆されている。こ
のようなMPF分子の動態と卵核胞ラミンとの関連はきわめて興味のあるところである。
MPFの標的分子としてのラミン、またラミンそのものの卵成熟(細胞分裂)過程におけ
る役割を解明するための道が大きく拓けたといえる。, 総研大甲第63号}, title = {魚類の核ラミンに関する免疫・生化学的研究}, year = {} }