@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001316, author = {和田, 拓治 and ワダ, タクジ and WADA, Takuji}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {本論文では、シロイヌナズナの根の突然変異体を用いた分子遺伝学的な研究をおこなった。シロイヌナズナはゲノムサイズが半数体当たり1×10 8塩基対と高等植物の中では極端に小さく、世代期間が短いことから分子遺伝学的な研究を行うのには最適の材料である。その中でも、シロイヌナズナの根は構造が単純であるにもかかわらず、その細胞数や並び方は遺伝的に制御され、また種々の外的な刺激に反応しその形態が変化する。根の形態形成機構の研究は、植物の器官発生における細胞分裂と伸長の制御機構を知るための理想的なモデルであると考えられる。しかし、根の組織分化に関する遺伝子間の相互作用機構や、環境刺激に対する応答機構を支配する遺伝的な制御システムについてはほとんど解明されていない。
 彼は根毛の分化、根の形態形成機構および光に対する根の属性機構に興味をもち、その遺伝的制御機構を分子遺伝学的な手法を用いて明らかにした。本研究では以下の3つの研究題目について研究をおこなった。
 1) 根毛形成開始を制御するCPC遺伝子のクローニングと機能の解析。 2) 根が太くなったRH32突然変異体の分子遺伝学的な解析。 3) 根の光屈性異常突然変異体rpt(root phototropism)の遺伝学的解析。
1) 根毛形成開始を制御するCPC宣伝子のクローニングと機能の解析。
 T-DNAを導入したトランスジェニックシ口イヌナズナ株をスクリーニングし、根毛の数が少なくなった突然変異体caprice(cpc)を分離した。遺伝学的な解析からこの変異はT-DNAの挿入によること、すなわちT-DNAでタッグされていることを確かめた。T-DNAの近傍の2kbのシロイヌナズナのゲノムDNA断片をinverse PCR法によって増幅し、その断片をプローブとしてゲノムライブラリーから独立した4個のクローンを単離した。次にこのゲノムクローンをプローブとして根のcDNAライブラリーのスクリーニングをおこない、cDNAクローンを得てその塩基配列を決定した。CPC遺伝子の全長は584bpで、動物の癌原遺伝子のひとつであるmyb遺伝子のDNA結合領域と相同性の高い部分をもっていた。
 また根毛の形が異常になったrhd2,rhd3突然変異体との間で二重突然変異体を作製したところ、CPC遺伝子は根毛細胞(trichoblast)において根毛伸長の開始機構を支配しているが、いったん伸長を開始した後の根毛の伸長には関与しないことが解った。また、エチレンやオーキシンなどの根毛の数を増加させるような植物ホルモンを投与しても、CPC突然変異体の根毛の数が少ないという形質を相補することはできなかった。
 一方、根毛が多くなった突然変異体として、ttg、gl2突然変異体が報告されている。二重突然変異体を用いた解析より、CPC宣伝子はGL2遺伝子よりも上流で働いていることが示唆された。
 ttg突然変異体にトウモロコシのR遺伝子(mycのホモログ)を導入するとその表現型が野生型に復帰したことがすでに報告されている。このことより、TTG遺伝子はmycのホモログであることが考えられている。トウモロコシのアンソシニン合成系の酵素はmyb遺伝子のホモログであるC1遺伝子とmyc遺伝子のホモログであるR遺伝子によってその発現が制御されていることが報告されている。
 そこで彼は根毛の形成開始においても、mybのホモログであるCPC宣伝子とmycのホモログであるTTG遺伝子によってGL2遺伝子の発現を制御しているというモデルを提唱した。CPC遺伝子には、他の植物のmyb遺伝子のホモログであるGL1、C1遺伝子に存在する転写の活性化部位と考えられている酸性のアミノ酸に富んだ領域が存在しない。このことより、CPC遺伝子はDNAに結合するが、転写のリブレッサーとして働くのではないかと考えた。CPC遺伝子によってGL2遺伝子の発現が抑制されると、根毛がたくさん形成されるようになる。
 このモデルは葉や茎に生じる表皮細胞の毛(トライコーム)の形成を決定する機構と極めて類似している。トライコームの場合は、根毛形成時と逆にGL2遺伝子の発現がトライコームの形成を正に制御している。この場合のGL2遺伝子の発現を制御はmybのホモログであるGL1遺伝子とmyc遺伝子のホモログであるTTG遺伝子によって正に制御されている。
 2)根が太くなったRH32突然変異体の分子遺伝学的な解析。
 根が太くなった変異体の一つであるRH32変異体は、通常8個である根の皮層の数が10個まで増加している。現在までのところ一つの細胞層の細胞の数が増える突然変異体は他に報告されていない。
 RH32突然変異体は根以外の器官の細胞伸長が異常になるので、RH32遺伝子は根の細胞における細胞分裂のパターンとほぼすべての組織における細胞伸長を制御すると考えられた。他の根が太くなる突然変異体や根毛形成異常の突然変異体とRH32突然変異体の間で二重突然変異体を作った。各組合せの二重変異体では、RH32突然変異体の形質とそれぞれの突然変異体の形質とが付加的になった。゛この結果はRH32遺伝子が根の形成において既知の他の遺伝子とは異なった制御経路に関わっていることを強く示唆する。
 また根毛伸長において、AXR2→RH32→AUX1という順序で遺伝子の制御がおこなわれていることがわかった。
 またRFLPマツピングの結果、RH32遺伝子はADH遺伝子から1.4%の組換え率の位置にあることを明らかにした。
 3)根の光屈性異常突然変異体rpt(root phototropism)の遺伝学的解析。
 彼らの研究室では、既に根の光屈性の突然変異体としてrpt1、rpt2、rpt3を分離している。彼はこれらの突然変異体を用いて根の光屈性に関わる制御.機構を調べた。まずシロイヌナズナの芽生えの根が胚軸の場合と同様に青色の光によって屈曲することを確認した。次に、青色光照射下でrpt1、rpt2、rpt3の突然変異体の光属性を精密に調べたところ、各突然変異体では、根だけではなく胚軸の光屈性も減少していることがわかった。特にrpt3突然変異体の胚軸は屈曲の度合が他の2つの突然変異体に比べてもさらに小さかった。また胚軸を切断しても根は光に反応して屈曲することができる。以上の結果より、根と胚軸の光屈性は共通の遺伝的制御機構によって支配されていることが、光を受容する部位は胚軸と根で異なっていることがわかった。
 青色光の受容体であるHY4遺伝子単独の変異では胚軸の光屈性には影響をおよぼさない。しかし、hy4とrpt1の二重突然変異体は、RPT1遺伝子だけが変異したときよりもさらに胚軸の光屈性がなくなった。このことから、胚軸の光屈性に関してはHY4遺伝子はRPT1遺伝子と独立の経路に存在することが示唆された。, application/pdf, 総研大甲第221号}, title = {突然変異体を用いたシロイヌナズナの根の形態形成機構の 分子遺伝学的研究}, year = {} }