@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001345, author = {菅原, 桂 and スガワラ, カツラ and SUGAWARA, Katsura}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {生物の発生過程においては,多種多様の成長因子や細胞内シグナル伝達因子がダイナミックに機能して生物固有の形や器官の構造を形成していることが分かつてきた。なかでもTGF-βスーパーファミリーに属するTGF-β,activin,BMPなとは,細胞増殖,分化誘導,背腹軸決定,骨形成などにおいて多彩な生理活性を示す。TGF-βスーパーファミリーの作用機構は線虫,ショウジョウバエ,アフリカツメガエル,マウスなどで詳細に研究されており,その基本経路は種を越えて良く保存されていることが明らかとなっている。TGF-βシグナル伝達を担う分子は,細胞外にあるリガンド,細胞膜十に存在するtype I およびtype II の2種類の受容体,そして受容体によって活性化されてシグナルを核内へ伝達するSmad分子である。これらのように種を越えて共通に使われるシグナル伝達分子の他に,最近ではシグナル特異性を決定するような修飾分子や種特異的な分子もクローニングされており,シグナル伝達系の全貌が明らかになりつつあるとともに,種間の多様性を議論するこども可能になりつつある。彼はTGF-βシグナル伝達に関わる新規分子を取得することを目的として,yeast two-hybridスクリーニングによりBRAM interacting protein(BRAM)に結合する因子,BRAM interacting protein(BIP)をクローニングした。元来BRAMはBMP type I A受容体の細胞内ドメインおよびTAB1(TAK1 binding protein 1)に結合するシグナル伝達因子であり,これに結合する因子はTGF-βシグナル伝達系に関与することが予想され,初期発生においても重要な役割を果たしているものと期待された。
 最初にyeast two-hybridスクリーニングによってアフリカツメガエルのcDNAライブラリからBIPをクローニングし,その配列をもとに相同タンパクを検索したところ,BIPホモログはヒト,アフリカツメガエル,線虫C. elegansに存在していた。線虫においては既にBRAMホモログとしてBRA-1,BRA-2がクローニングされており,C. elegans BIPがこれらと相互作用することが期待されたので,C. elegansをモデル動物としてBIPの機能解析を行うこととした。完全長cDNAの塩基配列から,C. elegans BIPは733アミノ酸をコードしており,シグナル配列は持たないことから細胞内タンパクであると推定された。モチーフ検索の結果,oxysterol binding protein モチーフ(E-[KQ]-x-S-H-[HR]-P-P-x-[STACF]-A)に極めて似た配列(EQVSHHPPVSS)が存在したが,C末端側の1アミノ酸がアラニンではなくセリンに置き換わっていたため,C. elegans BIPがコレステロール代謝などに作用を有するかどうかは今のところ不明である。また,C. elegans BIPの遺伝子はX染色体上に存在し,11エクソンから成ることが明らかとなった。次にC. elegans BIPとBRAMの線虫ホモログであるBRA-1,BRA-2の相互作用を検討するために免疫沈降とウエスタンブロッティングを行ったところ,C. elegans BIPはBRA-1,BRA-2の両者と結合することが明らかとなった。BRA-1,BRA-2の結合部位はC末端側であり,この部分はhumanも含めBRAMホモログで相同性が高い部分であることから,BIPがBRAMホモログのC末端側と結合することは種を越えて保存されているものと考えられた。次にC. elegans BIPの組織発現を検討した。BIPプロモーター領域にGFP遺伝子を結合させたプラスミドを構築し,野生型の線虫に強制発現させたところ,咽頭筋とhypodermisで強い発現が見られたほか,尾部の神経細胞にも発現が認められた。尾部神経での発現は,線虫のdafシグナル伝達経路(線虫の生育環境が悪化した場合などにdauer larvaと呼ばれる耐性幼虫へ移行する際のシグナル伝達経路)のtype I 受容体であるDAF-1およびそれに結合するBRA-1の発現部位とオーバーラップするものであり,また,咽頭筋とhypodermisでの発現は,smaシグナル伝達経路(線虫の体長を制御するシグナル伝達経路)のtype I 受容体であるSMA-6およびそれと相互作用すると考えられるBRA-2の発現部位と重なっていた。前述のBIPとBRA-1およびBRA-2が結合するという結果と,組織発現がオーバーラップするという結果からC. elegans BIPはBRA-1あるいはBRA-2を介してdaf経路あるいはsma経路に関与している可能性が考えられた。
 次にC. elegans BIPの機能解析のため,double stranded RNA interference(dsRNAi)という手法を用いてBIPの機能欠失(loss of function)を検討した。野生型の線虫にBIP dsRNAをインジェクションし,F1を観察したところ体長の短い個体が認められた。測定の結果,野生型の体長は1.18±0.09mm(平均士標準偏差)であるのに対し,BIP dsRNAをインジェクションした群では1.00±0.09mmと,BIPの機能欠失によって体長の短いsma(small)の表現型を示すことが明らかとなった。このことがらBIPはBRA-2と相互作用してsma経路を調節している可能性が示唆された。そこで次にBIPがsma経路に関与していることを確かめるために,sma経路のリガンドであるDBL-1の過剰発現変異体dbl-1(++)に対するBIP dsRNAiの作用を検討したところ,dbl-1(++)の体長は1.53±0.06mmであったが,これにBIP dsRNAiをインジ平クションした群の体長は1.33±0.08mmと顕著に短くなっていた。このことは,リガンドDBL-1の過剰発現によりシグナル伝達が過剰になっているsma経路に対して,BIPの発現をdsRNAiで抑制したためにシグナルが正常に戻ったことを示すものと考えられた。さらに,sma経路の標的遺伝子の1つと考えられるlon-1の機能欠失変異体についてdsRNAiを行ったが,この変異体に対しては作用が全く認められなかったことから,C. elegans BIPはsma経路においてリガンドDBL-1より下流かつ標的遺伝子であるLON-1より上流で機能することが確認された。先に述べたようにBIPがBRA-2と結合することと,type I 受容体であるSMA-6およびBRA-2と組織発現が一致することを考えると,BIPはBRA-2に作用してSMA-6を介したsma経路を調節しているものと思われた。今後のさらなる課題としては遺伝学的解析および分子生物学的解析にょるC. elegans BIPの作用メカニズムの詳細な検討,oxysterol binding protein様モチーフの機能の解明およびdaf経路におけるBIPの役割などを明らかにしていくことが重要であると考えられた。, application/pdf, 総研大甲第536号}, title = {BIP(BRAM interacting protein)のクローニングと線虫 C.elegans における機能解析}, year = {} }