@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001354, author = {杉田, 耕一 and スギタ, コウイチ and SUGITA, Koichi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {形質転換植物は、急速に進む人口増加や飼料用作物の需要増加に伴う食料不足を解決できる手段として注目されている。1996年に開始された形質転換植物の商業用作付は、1999年には世界耕地面積の2.5%にも達する急速な進展を遂げている。現在までに商品化されている形質転換植物は、害虫耐性や除草剤耐性が付与されている。これら形質転換植物により効率的で安定的な収穫が実現されている。しかしながら、最近では、ヨーロッパ諸国や日本を中心とする先進諸国の消費者の間に、形質転換植物に対する漠然とした不安感が広まりつつある。その1つの原因は、現在までに商品化されている形質転換植物のメリットを消費者が実感できないからだと推測されている。害虫耐性や除草剤耐性は、生産者サイドにメリットが大きい第一世代の形質転換植物であった。したがって、高栄養化や健康増進機能が付与された形質転換植物や、医薬品や工業製品を生産できる次世代の形質転換植物などの消費者にメリットが感じられる次世代形質転換植物の商品化により消費者の不安を払拭できると考えられている。
 また、形質転換植物を推進するためには、有用遺伝子自体の性質だけでなく、有用遺伝子の導入技術を含む第二世代の形質転換植物作成システムの開発も重要である。現在商品化されている形質転換植物は、有用遺伝子と共に細菌由来の抗生物質耐性遺伝子などの選抜マーカー遺伝子が残留し発現している。そのため、食品としての安全性や、抗生物質耐性遺伝子の自然界への伝播を危惧する報告もある。彼らは、このような問題点を解決するため、選抜マーカー遺伝子は削除され有用遺伝子のみが残留した選抜マーカー・フリー組換え植物(MF植物)を作成するためipt型MATベクターシステムを開発した。
 従来の形質転換システムでは、抗生物質耐性や除草剤耐性遺伝子が選抜マーカー遺伝子として用いられてきた。それに対し、ipt型MATベクターシステムでは、サイトカイニン合成酵素isopentenyl transferase(ipt)遺伝子を選抜マーカー遺伝子として用いていることが特徴である。ipt遺伝子は、未だ植物からは単離されておらず、ipt型MATベクターではアグロバクテリウムのT-DNAから単離したipt遺伝子が利用されている。ipt遺伝子は、植物の傷口に感染し根頭癌腫病を引き起こす土壌細菌アグロバクテリウムのTi-plasmidのT-DNA上に存在する腫瘍化遺伝子のーつである。CaMV 35Sプロモーターによりipt遺伝子が過剰発現すると、植物ホルモンフリー培地で不定芽分化が生じ、それらは発根せず頂芽優性が崩壊した芽の集合体(多芽体)となる。すなわち、ipt型MATベクターシステムでは、ipt遺伝子と共に有用遺伝子を導入し、植物ホルモンフリー培地で形成された多芽体を肉眼で選抜すれば、有用遺伝子が導入された形質転換芽を選抜することができる。さらに、ipt型MATベクターシステムの第2の特徴は、ipt遺伝子をDNA除去因子により除去することにより、発根する正常形態の芽を出現させることである。この際ipt型MATベクターでは、有用遺伝子がDNA除去因子外に配置されているため、選抜マーカーipt遺伝子が除去されても有用遺伝子は形質転換植物染色体に保持されたままとなる。すなわち、ipt型MATベクターシステムにより、交配を経由することなくMF植物を作成することが可能になった。本論文では、タバコ及び樹木アスペンを材料として用い、ipt型MATベクターシステムの有用性が報告されている。
 第1章では、ipt遺伝子の除去因子としてトウモロコシの転移因子Ac/Ds系を利用したipt型MATベクターが構築され、タバコ及び樹木アスペンで有用性が検討された。その結果、Ac/Ds系によるipt遺伝子の除去によりMF植物が得られることが判明した。しかしながら、その作成効率は極めて低く実用化レベルに達しなかった。
 第2章では、ipt遺伝子の除去因子として酵母由来の部位特異的組換え系R/RSを利用したipt型MATベクターが構築され、タバコで有用性が検討された。R/RS系の組換え酵素遺伝子Rのプロモーターとして、CaMV35Sプロモーターが利用された。その結果、高効率でMF植物が出現し、R/RS系がipt型MATベクターシステムに適した組換え系であることが示された。しかし、R/RS系の高効率が、逆に有用遺伝子(T-DNA)の多コピー化を引き起こすということも判明した。
 第3章では、R/RS系の組換え酵素遺伝子Hのプロモーターとして、トウモロコシ由来のGST-II-27 プロモーターを利用したGST-MATベクターが構築され、タバコで有用性が検討された。GST-II-27 プロモーターは、除草剤解毒剤"safener"により誘導される誘導型プロモーターである。その結果、効率よくMF植物が出現し、しかも有用遺伝子が低コピーで導入されていることが判明した。
 また、MF植物作成システムは、同一選抜マーカー遺伝子を用いた遺伝子導入の繰り返しを可能にする。現在商品化されている形質転換植物の大部分は、一つの有用遺伝子が導入されている。しかしながら、今後は様々な有用遺伝子の組合せや、複雑な2次代謝系遺伝子群の改変のため、遺伝子多重導入システムが必要不可欠と考えられる。
 そこで第4章では、ipt型MATベクターシステムによる遺伝子多重導入システムの有用性が検討された。第2章におい)てipt型MATベクターによりモデル遺伝子であるGUS遺伝子とKm r 遺伝子が導入されたMFタバコ植物に対し、GST-MATベクターによりGFP遺伝子が多重導入された。その結果、GFP遺伝子が多重導入されたMF植物を作成することに成功した。
 以上の結果から、ipt型MATベクターシステムは交配が不必要な実用的MF植物作成システムであることが示された。また同時に、同一の選抜マーカー遺伝子を用いた遺伝子多重導入システムとしても有用であることも報告された。また、モデル植物であるタバコだけでなくアスペンでも実用性が示されたことから、様々な植物種に適用できると考えられる。特に、非交配のシステムであることから、ポテトなど栄養繁殖植物への応用が期待される。, application/pdf, 総研大乙第89号}, title = {MATベクターシステムによる選抜マーカー・フリー 形質転換植物の作出}, year = {} }