@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001368, author = {加藤, 大和 and カトウ, ヒロカズ and KATO, Hirokazu}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {鉄は生体に必須の元素であり地球上で豊富に存在するが、その化学的性質のため生物は常に十分な鉄を利用できるわけではない。そこで生物は様々な方法で微量の鉄を有効に利用し、また鉄欠乏条件下でも生存できるようにその形態や生理を変化させる能力を発達させてきた。光合成微生物の鉄欠乏ストレスに対する応答機構は古くから研究されてきたが、鉄輸送体遺伝子の同定はされていなかった。本研究はゲノムの全塩基配列が決定された単細胞性ラン藻Synechocystis sp. strain PCC 6803を用いて、逆遺伝学的手法により光合成微生物において初めて鉄輸送体遺伝子を同定し、またPCC 6803の鉄輸送機構を分子レベルで解析したものである。

1.Synechocystis sp. strain PCC 6803の輸送体遺伝子の機能解析
 推定アミノ酸配列内にATP結合モチーフを持つ32個の輸送体遺伝子に着目し、各遺伝子の破壊株を作製してそれらの表現型の解析を試みた。種々の栄養素欠乏培地上での生育実験の結果から、sll1878(futC)を含む4つの遺伝子について機能を推定することができた。特にΔsll1878株は鉄欠乏培地上で生育が非常に抑えられたことから、この株を用いて野生株と三価鉄の輸送活性を比較したところ、明らかに三価鉄輸送活性が低下していた。以上の結果からsll1878(futC)がABC型の三価鉄輸送体のATP結合タンパク質サブユニットをコードしているであろうと考えられた。野生株において細胞を鉄欠乏処理することにより三価の鉄輸送活性が上昇することも示された。また、PCC 6803の三価鉄輸送において光は必要でないことが示された。

2.Synechocystis sp. strain PCC 6803の鉄輸送体遺伝子と鉄輸送機構
 本ラン藻には、非光合成生物で同定された鉄輸送体の相同体遺伝子が多数存在する。PCC 6803の鉄輸送機構においてこれら相同体遺伝子がどのような役割を持っているか解析するために、各遺伝子の破壊株を作製して、細胞の生育特性と鉄輸送活性を調べた。第2章で得られたΔsll1878 (ΔfutC; M1)株と同様な生育特性及び鉄輸送活性を示した変異株は、Δslr0327(futB; M2)、Δsll1878Δslr0327(ΔfutCΔfutB; M5)、Δslr1295Δslr0513(ΔfutA1ΔfutA2; M6)であった。この結果と推定アミノ酸配列の解析結果から、これら4つの遺伝子が単一の三価鉄輸送体をコードしていると推定された。また、Δslr1392(feoB; M10)株は、生育特性は野生株と同じだがアスコルビン酸で化学的に還元した二価鉄の輸送活性が明らかに低下していることが示された。したがってPCC 6803は二価鉄輸送体を持っており、slr1392(feoB)が膜貫通領域とABC領域を持つサブユニットをコードしていることが示された。また、ssr2333がslr1392(feoB)と共転写されることから、E.coliのfeoA遺伝子の相同体であろうと考えられた。これらの結果とRT-PCR法によるmRNA発現パターンの解析から、本ラン藻は三価鉄輸送体(Fut輸送体)に加えて二価鉄輸送体(Feo輸送体)を持ち、Fut輸送体は通常のBG-11培地上で発現し、鉄欠乏ストレスによって発現量が増加すること、またFeo輸送体は鉄欠乏ストレスに応答して発現することが示された。さらにATP合成阻害剤を用いた実験から、どちらの鉄輸送体もATP加水分解エネルギーを必要とするABC型輸送体であることが示された。また、各種金属による輸送活性阻害実験から両輸送体はそれぞれ三価鉄あるいは二価鉄に対する親和性が高いことが示された。

3.鉄輸送体タンパク質FutA1の鉄結合活性の解析
 バクテリアのABC型輸送体は一般に基質結合タンパク質を必要とする。推定アミノ酸配列からfutA1/A2がFut輸送体の鉄結合タンパク質サブユニットをコードすると推定された。そこで、リコンビナントFutA1タンパク質(rFutA1)を作製して分光学的手法によりFutA1の鉄結合活性を解析した。溶液中で鉄と結合したrFutA1は波長453nmに吸収のピークを持つスペクトルを示し、鉄イオンとrFutA1タンパク質がモル比1:1で結合することが示された。rFutA1の鉄に対する会合定数はクエン酸を競合剤として用いた実験条件下でおよそ1×1019程度と見積もられた。アミノ酸一次配列の比較からFutA1およびFutA2はH. influenzaeの鉄結合タンパク質HitAとよく似た機構で鉄イオンを配位することが推定された。これらの結果からFut輸送体はHit/Fbpファミリーに属する高親和性のフリー鉄イオン輸送体であることが明らかになった。
 培地中のクエン酸は細胞の鉄輸送活性および生育に複雑な影響を与えることが示された。これはPCC 6803の鉄輸送機構においてFut及びFeo輸送体以外の他の因子の関与を示唆するものであり、更なる解析が必要とされた。, application/pdf, 総研大乙第98号}, title = {ラン藻の鉄輸送機構の研究}, year = {} }