@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001385, author = {初谷, 紀幸 and ハツガイ, ノリユキ and HATSUGAI, Noriyuki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {植物には病原体の感染に対して生体を防御するための過敏感反応と呼ばれる誘導性の防御機構が存在する。過敏感反応の誘導により感染細胞は急速な細胞死(過敏感細胞死)を引き起こし、病原体を封じ込める。これにより植物は感染の拡大を抑え、全身感染から免れる。過敏感細胞死は植物における代表的なプログラム細胞死である。動物のプログラム細胞死では、カスパーゼを実行因子とする細胞死機構が知られているが、植物におけるプログラム細胞死の機構は全く解明されていない。植物においても過敏感細胞死を含む多くのプログラム細胞死の過程でカスパーゼ様の活性が検出されており、その細胞死がカスパーゼの阻害剤により抑えられることが報告されている。このことから植物のプログラム細胞死にもカスパーゼ様の活性をもったプロテアーゼが関与していることが示唆されてきた。しかし未だに植物におけるカスパーゼ様活性の実体は明らかにされていない。最近、本研究室におけるシャジクモ(Chara corrallina)を用いた研究から、カスパーゼ-1様活性が液胞に局在していること、またシロイヌナズナの液胞プロセシング酵素(vacuolar processing enzyme、VPE)にカスパーゼ-1様活性があることが明らかとなった(黒柳、2002)。VPEは液胞の機能タンパク質を成熟型や活性型に変換する酵素として本研究室によって発見されたプロテアーゼである。そこで本研究では植物のプログラム細胞死機構の全貌を解明することを目指し、過敏感細胞死の過程で誘導されるカスパーゼ-1様活性の実体がVPEであること、VPEは植物特有の液胞主導型細胞死機構を制御する重要な鍵酵素であることを証明した。
 実験ではTMVに対する抵抗性遺伝子「N」を持つタバコ(Nicotiana tabacum)を用いた。温度依存的なN遺伝子の機能を利用して、過敏感細胞死の指標となる病斑を同調的に誘導した。この病斑形成が、カスパーゼ-1の阻害剤によって抑えられることを見出した。この結果は、TMV感染による過敏感細胞死にカスパーゼ-1様活性をもつプロテアーゼが関与していることを示唆している。
 カスパーゼ-1様活性をもつプロテアーゼを同定するために、ビオチン標識した非可逆的なカスパーゼ阻害剤を用いて、酵素-阻害剤の複合体を検出するためのインヒビター・ブロット法を開発した。この方法により阻害剤を浸潤させた感染葉から、カスパーゼ様活性をもつ40 kDaと38 kDaの複合体タンパク質を検出することができた。次にこの複合体タンパク質を同定するための実験を行った。その結果、(1)複合体形成はVPEの阻害剤によって競合的に阻害された、(2)VPEの特異抗体を用いたイムノブロット解析でもインヒビター・ブロット法で検出された複合体タンパク質と同じ分子量のタンパク質が検出された、(3)VPE抗体を用いて免疫沈降を行った後の上清でインヒビター・ブロット解析を行ったところ、複合体タンパク質のシグナル強度が減少した。(4)VPE活性がカスパーゼの阻害剤で顕著に抑えられた。(5)過敏感細胞死はカスパーゼ-1の阻害剤と同様にVPEの阻害剤によっても抑えられた。これら五つの実験結果を総合して、カスパーゼ-1様活性をもつプロテアーゼがVPEでありVPEが過敏感細胞死に関与することが強く示唆された。この仮説をin vivoで証明するために、ウィルス誘発性遺伝子サイレンシングにより内在性のVPE遺伝子の発現を抑制させた植物体を用いて解析を行った。VPEサイレンシング植物ではVPE活性だけでなく、カスパーゼ-1様活性も顕著に低下していた。この結果は植物におけるカスパーゼ-1様活性の実体がVPEであることをin vivoで証明したものである。またVPEサイレンシング植物ではTMV感染による過敏感細胞死が顕著に抑えられることを見出した。この結果は液胞内のプロテアーゼであるVPEが植物のプログラム細胞死において重要な機能を果たしているということを端的に示している。
 次にウイルス感染葉の細胞を電子顕微鏡で観察したところ、葉に病斑が形成されはじめる前に、液胞膜が部分的に崩壊されることが分かった。この液胞膜の崩壊は時間経過に伴って広範囲に広がり過敏感反応の開始後24時間で完全に崩壊した。しかしVPEサイレンシング植物では24時間後も液胞膜の崩壊は全く起こっていなかった。この結果からVPEは植物の細胞死過程で液胞膜の崩壊に関わることが示唆された。液胞膜の崩壊により、液胞内の加水分解酵素が細胞礎質に漏出することが予想され、その結果、細胞死の進行が促進されるのではないかと考えられた。また植物におけるプログラム細胞死の過程で液胞内のヌクレアーゼ活性が上昇することが報告されている。そこでウイルス感染葉における核DNAを調べたところ、過敏感反応の開始後24時間で50 kbpに断片化していた。しかしVPEサイレンシング植物では核DNAの断片化が全く起こっていなかった。この結果からVPEを介した液胞膜の崩壊が核DNAの断片化に深く関わっていることが示唆された。
 本研究により、植物には動物とは異なる液胞主導型の細胞死機構が存在し、VPEはその細胞死過程で機能する重要な鍵酵素であることが明らかになった。植物細胞独自のVPEを介した細胞死機構の解明は、様々なシグナルにより誘導される植物の細胞死の研究に新規の知見をもたらすと期待される。, application/pdf, 総研大甲第810号}, title = {植物の過敏感細胞死における液胞プロセシング酵素の機能解明}, year = {} }