@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001390, author = {大西, 誠 and オオニシ, マコト and ONISHI, Makoto}, month = {2016-02-17}, note = {アサガオの花弁の色は、2次代謝産物であるアントシアニンに主に由来し、アントシアニンは細胞質基質で合成され、液胞内へ輸送されて蓄積するので、その呈色は液胞内の環境および液胞内のアントシアニンの形態に左右される。著者は本論文で、H+を液胞から排出することにより液胞内のpHを変化させる液胞膜型Na+/H+アンチポーターであるNHXおよび、アントシアニンの凝集体であるアントシアノプラストに多量に含まれる蛋白質であるVP24について解析を行った。

 野生型アサガオの花弁の色が開花直前の数時間に赤紫色から青色に変化する現象は、アントシアニンの呈色が液胞内のpHの上昇により変化することに由来し、液胞膜型Na+/H+アンチポーターであるInNHX1が深く関与することが易変性変異系統を用いた実験により示されている。アサガオのInNHX1遺伝子は、開花約12時間前の花弁で転写産物が著しく蓄積する一方、根・茎・葉では蓄積量が少なく、さらにNaCl処理によって転写が誘導されないという他の植物で同定されたNHX遺伝子とは異なる特徴を持つ。しかし、InNHX1の同定に用いたpurple-mutable系統においても、開花時に花弁搾汁液のpHが上昇し、花弁の色が赤紫色から紫色に変化するので、InNHX1以外にも開花時に花弁のpHを上昇させる遺伝子が存在すると予想されていた。今回、アサガオの花のcDNAライブラリーから新たにInNHX遺伝子のクローンが得られたのでInNHX2と名付け、解析を行った。

 また、アントシアニンの形態も呈色に影響し、その一例としてアントシアノプラストが挙げられる。アントシアノプラストは、水溶性のアントシアニンが液胞内で凝集してできる構造物であり、アントシアノプラストが存在するアサガオの花弁の色にはくすみが生じる。アントシアノプラストに大量に含まれる蛋白質については、VP24についてのみ解析されている。VP24は、サツマイモの培養細胞から最初に単離され、アミノペプチダーゼ活性を持つ。しかし、アミノペプチダーゼはアントシアニンを分解しないと考えられ、さらにアントシアニンを生産しない生物にもVP24と相同性の高い蛋白質が存在することから、VP24とアントシアノプラストの関係は不明である。サツマイモと同じヒルガオ科に属するアサガオの花のcDNAライブラリーからVP24 cDNAと思われるクローンが同定されたのでInVP24と名付け、解析を行った。

 本研究では、InNHXについては5種類の実験を行った。第1に、InNHX2 cDNAから推定されるアミノ酸配列およびゲノム配列を解析した結果、InNHX2は、InNHX1およびAtNHX1とアミノ酸配列が約70%一致し、InNHX2遺伝子はInNHX1と同様に15エキソンを持ち、第1イントロン以外の位置が同一であった。第2に、InNHX2がNa+,K+を輸送することが、酵母菌のΔnhx1変異体を用いた相補性検定により示された。第3に、InNHXの発現をノーザンブロットにより解析した結果、InNHX2は、根・茎・葉・花で一様に発現していたが、開花時の花弁のリムでmRNAが最も多く蓄積していた。さらに、実生へのNaCl処理によりInNHX2の転写が誘導されることも確認された。InNHX1については、ウェスタンブロットにより開花時における翻訳産物の増減を調査した結果、完全に開花した時点で翻訳産物が最も多く蓄積していた。第4に、花弁を用いたin-situハイブリダイゼーションを行った結果、InNHX1は花弁表皮細胞で比較的多く発現していたのに対し、InNHX2の発現に偏りは見られなかった。さらに、タマネギ表皮細胞で発現させたInNHX-GFP融合蛋白質の蛍光はInNHX1、InNHX2とも液胞膜で観察された。第5に、InNHXの発現により液胞内のNaおよびK含量が上昇すると考えられるので、開花前後の花弁のリムおよび筒におけるNaおよびK含量を放射化分析により測定した。その結果、リムでは、Na吸収量の増加割合が、新鮮重の増加を上回ったのに対して、開花前後におけるK吸収量の増加割合は新鮮重の増加割合を下回った。

 以上の結果から、InNHX2遺伝子は2種類の機能を持つ点において、第1に塩ストレス処理により転写が誘導される点、第2にInNHX1が機能していない系統の赤紫色の花弁を紫色に変える程度に、花弁の青色化に関係する遺伝子群の一つであると考えられる点において、これまでにはない型のNHX遺伝子であることが示された。InNHX1は、開花時に活発に発現することが翻訳レベルで裏付けられ、花弁のとくにリム表皮細胞の液胞膜において、組織特異的に発現することが強く示唆された。

 InVP24については、2種類の実験を行った。第1に、InVP24 cDNAから予想されるアミノ酸配列をサツマイモのIbVP24と比較した結果、約80%のアミノ酸配列が一致した。遺伝子構造を明らかにするためにゲノミッククローンを同定した結果、InVP24は13エキソンから構成されることが示された。また、VP24と相同性の高いゲノミッククローンが3コピー同定され、そのうちの2コピーは縦列重複であったが、アサガオの花のcDNAライブラリーからは、1コピーのVP24 cDNAしか同定されなかった。第2に、InVP24の発現をノーザンブロットにより解析した結果、開花9時間前の萼および筒におけるmRNAの蓄積量は、それぞれリムの10倍以上、約0.6倍であった。雌しべ・成熟した葉・若い茎・若い根ではリムよりもInVP24の発現が多かった。開花時のリムでは開花36時間前にInVP24 mRNAの蓄積量が最も多く、筒では、開花21時間前に蓄積量が最も多かった。

 以上の結果から、クローン化された3コピーのInVP24遺伝子のうち、花では1コピーが強く発現し、その発現は、開花36時間以上前のリムで最も強いと予想される。また、VP24のアミノペプチダーゼ活性は、萼・雌しべ・成熟した葉・若い茎・若い根においてアントシアニン・アントシアノプラストに関係のない何らかの役割を果たしている可能性がある。

 アサガオ花弁細胞の液胞内に存在するアントシアニンの呈色は、液胞内の環境およびアントシアニンの形態の影響を受け、InNHX2遺伝子の発現は、InNHX1と同様に液胞内のpHの上昇に伴うアントシアニンの青色化に寄与すると考えられる。また、アサガオの花弁の色にくすみを生じさせる構造体であるアントシアノプラストは、VP24を主要な蛋白質の一つに含み、花弁のリムにおけるVP24の発現は、開花36時間以上前に最も強いと予想される。, 総研大甲第873号}, title = {アサガオ花弁の液胞に存在するInNHXおよびInVP24の発現とアントシアニンの呈色}, year = {} }