@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001395, author = {宮川, 信一 and ミヤガワ, シンイチ and MIYAGAWA, Shinichi}, month = {2016-02-17}, note = {女性ホルモンであるエストロゲンは、生物の生殖機能を調節しているほか、その受容体は体内の様々な器官に発現しており、ホメオスタシスを調節している。エストロゲンは経口避妊薬や閉経後のホルモン補充療法薬として広く用いられているが、その有用性の反面、乳癌や子宮癌のリスク要因としてよく知られている。実際に1970年代には、それまでヒトに流産防止薬として処方された合成エストロゲン(DES)が胎児期に作用すると、若年での膣癌の原因となることが示されている。DESはヒトで臍帯経由による胎児曝露で発癌が認められた唯一の薬害の例であり、DESを曝露された女性は現在においても同世代の女性よりも発癌のリスクが高いとされている。
 生殖器官の細胞増殖はエストロゲンによって一過性に、つまりエストロゲン依存的に調節されているので、生殖器官の癌とは、いわばエストロゲン非依存の細胞増殖といえる。マウスでは新生仔(ヒトの3~4ケ月の胎児に相当する)にエストロゲンを投与すると、成熟後にエストロゲン非依存の膣上皮の細胞増殖・角質化が誘起され、加齢に伴い腫瘍する。ヒトでのDES曝露を模したこのモデルは、エストロゲンの細胞増殖機構とともに、発癌に至るプロセスの解明を生体レベルで行うことができる有用な系である。この「新生仔マウスDES投与モデル」を用いることによってエストロゲン非依存の細胞増殖について、組織・個体レベルでの解明を目指した。
 一般に、生殖器官の細胞増殖・分化には、エストロゲンと成長因子のクロストークが存在していることがよく知られている。間質細胞のエストロゲン受容体α(ERα)を介して、間質からの分泌性因子(=成長因子)が上皮細胞の増殖・分化を促すというモデルである。本研究では、まず、エストロゲン刺激に応答して発現が誘導される成長因子を探索した。卵巣を摘出したマウスにエストロゲンを投与すると、EGFファミリーの成長因子(EGF、TGFα、ヘパリン結合性EGF様成長因子、アンフィレギュリンなど)のmRNAの発現が上昇することが分かった。新生仔DES投与マウスの膣でも同様に、卵巣を除去して体内のエストロゲンを除去した後も、EGFファミリーの成長因子が高発現しており、これらEGFファミリーの成長因子は主に上皮で発現していた。EGFファミリーの成長因子の受容体(erbB受容体)の中で、マウスの膣上皮に強く発現しているEGF受容体(EGFR;erbB1)とerbB2のリン酸化状態を調べてみると、確かにリン酸化されており、このことは、エストロゲン非存在下でEGF様成長因子-erbB受容体系が上皮組織で活性化されていることを示している。
 次にerbB受容体の下流で活性化する因子の同定を試みた。特に注目したのがERαである。ERαにはリガンド依存的に活性化されるAF-2と、リガンド非依存的に活性化されるAF-1という2つの転写活性化領域が存在する。これまでにERαのAF-1は、MAPKやAkt等の経路によって特定のセリン残基がリン酸化されることで、その転写活性能が上昇することが示されている。卵巣を除去したマウスにEGFを投与すると、EGFRとerbB2のリン酸化とともにERαのリン酸化が起こることが分かった。また、新生仔DES投与マウスの膣でもERαがリン酸化されており、さらにERαをリン酸化する因子(p90RSKやAkt)も活性化されていた。つまりAF-1領域のリン酸化による、ERαのエストロゲン非依存的な転写活性化が、新生仔DES投与マウスの膣で誘起されていることが明らかとなった。また、erbB受容体の阻害剤を投与することによって上皮基底細胞の細胞増殖率の減少とともに、ERαのリン酸化レベルも減少した。このことはerbB受容体とその下流の因子がERαのリン酸化に寄与していることを意味する。さらにERの阻害剤であるICI182,780により、膣上皮層の厚さが減少するほか、成長因子の発現減少、erbBの脱リン酸化が認められた。ERαのリン酸化は膣上皮で起きていることも確認している。したがってERのAF-1の転写活性化が成長因子の発現を誘導し、erbB受容体のリン酸化を制御していることが明らかとなった。
 これまでエストロゲン標的器官の腫瘍化には成長因子やその受容体、そしてERの関与が示唆されていたが、多くの研究が培養細胞での研究であるため、それぞれの因子を関係づけることはできていなかった。本研究では、ERによる成長因子発現、erbB受容体のリン酸化とそれに伴う細胞内シグナル因子の活性化、ERのリン酸化による成長因子発現・・・というアクチベーションループが存在する事実を明らかにした。さらにこの活性化のループは間質組織からの因子に依存せず、膣上皮組織内で完結している。このことはこれまでの生殖器官における間質を介した正常な上皮の細胞増殖・分化の概念と異なっており、この上皮・間質相互作用の破綻が、エストロゲン非依存の異常な細胞増殖の特色であると思われる。また、ERを始めとする核内ステロイドホルモン受容体のリガンド非依存の活性化の研究は、培養細胞の実験系で行われている。本研究では、マウス生体で実際にERがリガンド非依存にリン酸化・活性化されて、それが膣上皮の細胞増殖・分化を制御することを明らかにした。
 さらに、新生仔DES投与マウスの膣ではerbB受容体-ER系だけでなく、IGF-I経路も活性化されていることを明らかにした。IGF-Iを投与すると、マウスの膣でAktが活性化し、また、新生仔DES投与マウスの膣ではIGF-I受容体のリン酸化も認められた。したがって、エストロゲン非依存の膣上皮細胞増殖には、erbB-ERのアクチベーションループのほか、IGF-Iシグナルも寄与していることが明らかになった。, 総研大甲第878号}, title = {Analysis of the Mechanisms of Estrogen-Independent Activation of Cell Proliferation in Mouse Vagina}, year = {} }