@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000014, author = {杉本, 星子 and スギモト, セイコ and SUGIMOTO, Seiko}, month = {2016-02-17}, note = {本論文は、今日の南インド社会における親族について、タミルナードゥ州南西部の農村地帯に暮らす農民カースト、ロング・ヴェッラーラの事例研究を通して考察することを目的としている。  近年のインド史研究は、イギリス植民地統治の諸政策と現地の人々の対応という相互行為の中で近代のカースト制度が創出されていった過程を明らかにしてインド社会像を大きく読みかえようとしている。人類学のインド研究もまた、先行の研究者の資料分析に密かに持ち込まれた近代イデオロギーをも視野に入れ見直しながら、新たな研究の方向性を模索すべき段階にある。本研究はこのような観点にたって、南インドの親族を近代のカースト制度における親族を新たな角度から捉えようとする試みである。  本論文は、序論と4つの章から構成される本論および結論からなる。  序論では、先行の南インドの親族研究を批判的に概観し、親族を実体的な組織としてではなく、親族関係を基盤にした社会的ネットワークを作り出す行為のメカニズムとして捉えるという視点を明らかにしたのち、インド・タミルナードゥ州南西部ロング地方の生態環境と、この地域で社会的に大きな力を持つ農民カーストの一つであるロング・ヴェッラーラについて概説し、ロング・ヴェッラーラの親族を村落から国家まで一貫して捉えるためには、村落を越えた社会的ネットワークを構築する場として重要な役割を果たしている地方の寺院に焦点をあてた研究が有効であることを論じている。  第1章では、フィールド調査をおこなったイーロードゥ県イーロードゥ郡ティンダル村の景観と住民構成、カースト関係の現状を述べてから、中核村民であるコング・ヴェッラーラの親族関係と農業を中心とした生活について説明している。  第2章では、ティンダル村の中核村民の寺院参詣の資料を提示し、村人の信仰圏が農耕暦と組み合わされた寺院への参詣行動を通して村、地域、ナードゥ(くに)という三重の構成をもって拡大していること、そのそれぞれのレベルにティンダル村の人々が特に強い結びつきをもつ中心的な寺院があることを明らかにしている。  第3章では、村、地域、ナードゥ(くに)のそれぞれのレベルの中心的な寺院を取り上げ、寺院祭礼と寺院の管理・運営をおこなう祭肥組織について考察している。村レベルの信仰の中心はマーリャンマン寺院である。ティンダル村のマーリャンマン寺院には、村の土地に世襲の土地権をもつ中核村民の9つのイエ(ワラブ)を中心に祭紀組織が形成されている。ティンダル村の中核村民のクラン寺院があるナシャヌールの町には、ロング・ヴェッラーラの7つのクラン(クーツタム)の人々が集まって祭祁組織を構成するマドゥラカーリャンマン寺院がある。これは祭肥組織の形をとったロング・ヴェッラーラの村連合である。ナシャヌール地域の村連合は、プーンドゥライ・ナードゥという「くに」の都で地方経済の中心であるセンニマライの町のムルガン寺院の祭礼に参加している。センニマライのムルガン寺院のタイ・プーサム祭礼では、寺院を取り巻く山車通りに、ロング・ヴェッラーラの8の村連合とその他12のカースト組織が祭屋を設けている。ここにロング・ヴェッラーラ力瓢親族ネットワークと政治・経済的ネットワーク、宗教的ネットワークが重なり合う地方生活圏を舞台に、村、地域、「くに」の諸寺院との結びつきを介して親族ネットワークを基盤とした社会的ネットワークを拡大している状況が明らかにされる。  第4章では、第3章で提示したロング・ヴエッラーラの親族ネットワークの事例を、1)系譜関係の位相、2)出自集団の位相、3)内婚集団の位相において分析している。  1)系譜関係の位相では、個人を起点とした親族関係や婚姻連帯が連鎖したり重層したり、あるいは分裂することによって拡大・縮小し、2)出自集団の位相では、寺院祭肥のための共同体組織という社会関係の場の形成を起点として特定の権益を共有しつつ独占する共同体の分節として出自集団を形成し、3)内婚集団の位相では、カースト分業によるカースト間関係が内婚集団を形成すると共に内婚集団としてのカーストをも細分化してゆくような、親族ネットワーク構築のメカニズムが分析される。ロング・ヴェッラーラの親族は、寺院を介して形成されるカースト内の親族関係とカースト間関係の歴史のなかで構築と解体を繰り返す運動態である。最終節では、近年のカースト運動の活発化を背景に、ロング・ヴェッラーラのカースト運動組織力瓢地方の生活圏を超えて、国家が確定したカースト全体に内婚範囲を拡大し、独自の祖国と歴史をもつ血統としてのカーストを実体化しつつある現状を報告している。  結論部では、以上の議論を総括したのち、ロング・ヴェッラーラの親族の事例をインド近代のカースト制度におけるカースト内関係としての親族として位置づけ、今日の南インド社会の親族について以下のようにまとめている。近代以降インドが西欧社会の裏返しとして自画像を形成してゆく過程で、生まれを同じくする集団としてのジャーティ(カースト)の血縁意識は、イギリスがインド社会に想定した生物学的な人種あるいは出自としてのカースト観によって強化され、固有の文化と伝統をもつ血統集団としてのカーストが実体化されようとしている。インドの近代に残存した、集団内で平等と民主主義を実現する内婚集団という「伝統的なカースト」像こそまさに、親族と政治、家族と社会、あるいは家族や親族と国家とを「愛の領域」と「闘争の領域」として対立させる近代社会の親族イデオロギーにほかならない。, 総研大乙第55号}, title = {南インドの農村におけるカースト内関係としての親族, -コング・ウ゛ェッラーラの事例研究-}, year = {} }