@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001431, author = {國分, 亙彦 and コクブン, ノブオ and KOKUBUN, Nobuo}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {南極半島域には、近縁な2種のペンギン類、ヒゲペンギン(Pygoscelis antarctica)ジ
ェンツーペンギン(P. papua)が同所的に生息している。両種は似た体型を持ち、遊泳速度
や体重あたりの基礎代謝速度に大きな違いがないこと、共にナンキョクオキアミ
(Euphausia superba)を主食にすることなど、生理的・生態的に多くの共通点を持つことが
わかっている。このような2種が共存している理由として、両種間には採餌場所・潜水行動
など採餌生態上の違いがあり、異なる生態的地位を占めているのではないかと予想される。
また過去30年にわたる南極半島域のペンギン種ごとの個体数変化データをみると、ヒゲペ
ンギンが減少傾向にある一方、ジェンツーペンギンは増加または安定傾向にあるという違
いが見られる。このような個体数変化傾向の違いは、種による生態的地位の違いを反映し
ている可能性がある。ペンギン類の採餌場所や潜水行動は、近年開発された動物装着型の
GPS-深度ロガーを用いて3次元的に微細な空間スケール(10-100m)で計測することが可
能である。そこで本研究では、南極半島域で同所的に生息するヒゲペンギンとジェンツー
ペンギンについて、両種の採餌努力が狭い範囲に集中する育雛期に、GPS-深度ロガーを用
いて採餌場所や潜水行動を詳細に計測し、両種間で採餌戦略にどのような違いがあるのか
詳しく調べることを目的とする。
 2006年12月から2007年1月にかけて、南極半島沖のキングジョージ島・バートン半島
にあるヒゲペンギン、ジェンツーペンギンのコロニーで、生態調査を行った。そして育雛
中のヒゲペンギン18個体、ジェンツーペンギン14個体から採餌トリップの移動軌跡・潜
水データを得た。またこの他に、親鳥が雛に持ち帰った胃内容物のサンプリングを行った。
 GPSデータから、水平的な採餌場所を調べると、両種は似た行動範囲内で採餌していた
(平均トリップ距離: ヒゲペンギン16. 4±10. 1 km, ジェンツーペンギン12. 4±8. 7
km)。しかしl km黙下の空間スケールで見ると潜水の集中していたエリアはこそれぞれ
ヒゲペンギンが沿岸(海岸から15 km以内)から沖合(15 km以上)にかけての水深の深い海
域、ジェンツーペンギンは沿岸の浅い海域というように分かれる傾向があった。2種の潜
水行動をみると、潜水深度に違いは見られなかったものの、潜水中の潜水ボトム滞在時間、
潜水ボトム滞在中の深度の上下した回数、潜水効率といった潜水パラメータはいずれもジ
ェンツーバンギンの方が値が大きかった。また海中の表層・中層または底層のいずれを利用
していたか調べると、ヒゲペンギンがほとんど全ての潜水(全潜水の95%で、水深の深い
場所で海の表層・中層へ潜つていた一方、ジェンツーペンギンはしばしば(全潜水の26%)
水深の浅い場所で底層(水深の80%以上の深さの層)へ潜っていた。さらに、両種の主な餌
は共にナンキョクオキアミであったが、ジェンツーペンギンはヒゲペンギンに比べて多く
の成熟メスのオキアミを捕食していた。これらの潜水行動や餌の違いは、水平的な採餌場
所の違いと、その場所での潜水の仕方の違いを反映していると考えられる。ここで、この
ように両種の採餌場所の利用の仕方が異なる理由として、両種がそれぞれにとって好適な
餌場を異なる方法で利用しているのか、または、どちらかの種が共通のよい餌場を優占的
に利用しているのか、という疑間が生じる。このことを確かめるには、ベンギンが効率よ
く餌を獲っている場所を調べ、両種が実際にその場所をどのような頻度で利用したかを調
べる必要がある。
 そこで次に、ペンギンの位置データと潜水データを用いて「採餌効率」を計算し、両種
採餌戦略をさらに詳しく解析した。採餌効率は、餌の探索・捕食にかけた時間当たりの
餌の捕食回数として計算した。餌の探索・捕食にかけた時間は、半径500mの円をペンギ
ンが通過するのにかかった時間として計算し、餌の捕食回数は、その円の中での潜水の潜
水ボトム滞在中の深度の上下した総数を指標値として用いた。
 ペンギンの行動から算出した採餌効率の空間分布を調べたところ、ヒゲペンギンの採餌
効率は、海岸から4km以内の沿岸側と、10km以上離れた沖合側の両方の海域で高かった。
そしてヒゲペンギンはそのような採餌効率の高い海域を両方利用していた。またどちらの
海域でも、水深の深い(>100m海域で主に潜水しており、ヒゲペンギンは沿岸から沖合ま
での広い範囲において、表層・中層の採餌効率が高い海域を利用するという採餌戦略を持
っていたと考えられる。一方、ジェンツーペンギンの採餌効率は、海岸から4 km以内の沿
岸側と、15km以上離れた沖合側の両方で高かったものの、実際にはジェンツーペンギン
は主に沿岸側のみを利用していた。また沿岸側の海域では、多くの場合、水深の浅い(≦
100m)の海域で潜水しており、その中でも特に底層への潜水の採餌効率は高かった。したが
って、ジェンツーペンギンは沿岸の浅い海域で底層への潜水を多く行うという採餌戦略を
持っていたと考えられる。なお底層への潜水は、表層・中層への潜水と比べて深度が深く、
潜水中の潜水ボトム滞在時間が長いという特徴があり、ジェンツーペンギンのみが底層ヘ
の潜水をしばしば行っていた。
 ヒゲペンギンが表層・中層の採餌効率の高い海域をよく利用し、一方でジェンツーペン
ギンが底層の採餌効率の高い海域をよく利用していたという面で、2種のペンギンにとっ
て好適な採餌場所は異なっており、彼らはそれぞれにとって好適な餌場を、異なる戦略で
利用していたということができる。またジェンツーベンギンのみが主に底層ハビタットを
利用していた理由は、体重が重く、潜水能力が高いと考えられるジェンツーペンギンの方
が、長い潜水時間を必要とする底層への潜水を、より効率的に行うことができるためだと
考えられる。
 過去に南大洋で調べられた同所的に生息する高次捕食者の採餌生態について総覧すると、
種間の採餌生態の違いは、餌の現存量などといった外的要因と、体重や代謝活性といった
内的要因の両方の要素によって決定されていると考えられる。特に餌の現存量の低下など、
外的要因による制限が強い時には、内的要因の違いによる採餌行動の違いが顕著に現れて
いるように見える。本研究では、ヒゲベンギンとジェンツーペンギンの主な採餌場所は、
それぞれ沿岸から沖合にかけての表層、沿岸の底層に分かれていたが、こうした採餌場所
の違い(重複度合)は、餌条件などの環境の異なる年間で変化しうるのではないかと考えら
れる。このことを検証するためには、同じ調査地において環境の異なる年間でデータを取
得し、それぞれの種について3次元的な採餌場所や餌生物を年間で比較する必要がある。
このような年間比較を行うことにより、ペンギン類が種によって異なる採餌戦略を通じて、
環境変化に対してどのように応答しているのか、より深く理解することができると期待さ
れる。, application/pdf, 総研大甲第1238号}, title = {南極半島域におけるペンギン2種の採餌戦略に関する研究}, year = {} }