@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000150, author = {長澤, 裕 and ナガサワ, ユタカ and NAGASAWA, Yutaka}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {1.緒言  電子移動は酸化還元反応やそれに付随した化学反応、また植物における光合成の基礎と なる重要な素過程であり、古くから盛んに研究が行われてきた。極性溶媒分子は電荷に配 向して溶媒和状態を形成する。そこで、溶液中で電子移動が起こると溶媒の配向も変化し なくてはならない。この再配向過程は溶媒分子の拡散運動によるので、その応答時間は有 限の値を持つ。反応系と生成系がadiabaticな相互作用を行っている場合、電子移動の反 応時間は溶媒和時間に依存しなければならない。実際にこのような例はアルコール等の極 性の高い溶媒中で観測されている。これに対し、低極性溶媒中では溶媒和によるエネルギ ー緩和の影響が小さいため、溶媒和過程より速い電子移動が観測される可能性がある。そ こで、低極性溶媒自体が電子供与体(ドナー)となるアニリン(AN)、N,N-ジメチルアニリ ン(DMA)と種々の色素の間の電子移動の研究を行った。この系においてはドナー溶媒中に アクセプターとなる色素が溶質として存在するので拡散に律速されない超高速の電子移動 が観測できる。 2.非線型分光法によるフェトム秒蛍光減衰測定  用いた色素の蛍光寿命は通常の溶媒中では数ナノ秒程度あるが、ドナー溶媒中では光励 起に伴う電子移動により数ピコ秒から数百フェトム秒にまで短縮される。そこでこの蛍光 減衰を和周波発生法で測定し、その寿命の逆数を反応速度とした。光源としては同期励起 型色素レーザー、もしくはT1:sapphireレーザーを用いた。色素レーザーの発振線として ローダミン6Gの605nmとスルフォローダミン101の675nmの2つを用いた。オキサジン色 素の実験には主に605nmの光を利用し、励起波長依存性の実験では675nmの光も使用した。 Ti:sapphireレーザーの発振線は790nmであり、クマリン色素の励起にはその倍波である 395nmを用いた。 3.実験結果 A.温度依存性  色素オキサジン1(0X1)はDMA中で?280fsの指数関数的な蛍光減衰を示し、7℃?80℃ の間で温度変化しないことを見いだした。AN中では非指数関数的な減衰を示し、これに3 成分の指数関数をあてはめ、460fs(40%),1.6ps(57%),18ps(3%)の減衰時間を得た(室温)。 OX1/ANの反応の第1成分は温度変化を示さなかったが、第2成分以降は変化を示し、1.0 kcal/mol程度の活性化過程があることがわかった。これら2つの溶媒中での反応の相違 は溶媒のイオン化ポテンシャルに起因する。DMAのほうがANよりイオン化ポテンシャル が0.17ev低いと考えられる。 B.励起波長依存性  605nmの光はOX1の吸収ピークの短波長側を励起するが、675nmの光はエネルギー的に 0.21eV低い吸収ピークの長波長側を励起することになる。この励起波長を用いた実験を行 った。その結果は3成分の指数関数で、400fs(42%),1.7ps(51%),>10ps(7%)となり、先に 述べた605nm励起の時とほとんど変わらぬ結果を得た。このことにより反応は分子内振動 緩和に影響されないことがわかる。 C.動的ストークスシフト  OX1/ANについてその蛍光減衰を680,700,725,775,および830nmの5点の波長について 測定したが、ほとんど変化は見られず、蛍光のdynamic Stokes shiftはないことがわかっ た。 D.分子間電子移動の置換基効果  クマリン色素はその置換基を変えることにより電子移動の反応時間がフェムト秒からピ コ秒領域まで極めて大きく変化することを見いだした。4位の置換基は-CH3<-H<-CF3の順 に反応を速くする。7位のアミノ基は-NH2>-N(CH3)2>N(C2H3)2の順に炭素鎖を長くしてい くと反応が遅くなり、アミノ基を6員環で固定するとさらに遅くなる。1番遅いのは両側 から6員環で固定したものであった。アミノ基の何らかの振動が反応に影響を及ぼしてい る可能性がある。1番速い組み合わせの-NH2基と-CF3基の組み合わせを持つクマリン151 (C151)はDMA中で~210fs程度の反応を示したのに対し、1番遅い組み合わせを持つC102 はDMA中でも2.8nsの寿命があった。 E.溶媒和過程の測定  クマリン色素C102を用いてAN,DMAの溶媒和時間の測定を行った。10程度の異なる波長で 蛍光減衰を測定し、log normal関数を用いて時間分解蛍光スペクトルを再構成し、そのピ ークのシフトより時間相関関数を求めた。この相関関数に2成分の指数関数をあてはめる と、C102/DMAについては7.9psと18.7ps、C102/ANは6.7psと13.3psというそれそれ2つ の溶媒和時間が得られた。つまり、電子移動のなかには溶媒和過程より40倍も速く起こっ ているものもあるということがわかった。 4.結論  測定した電子移動はフェムト秒からピコ秒までの幅広い領域で起こっており、なかには 溶媒和過程の40倍も速く起こっているものもある。このような電子移動を説明するには溶 媒の効果だけではなく、分子内振動の効果も取り入れた新しい機構を考えねばならない。  この新しいモデルにおいては電子移動の反応座標を2つに分割して考える。1つは 溶媒和過程を記述する溶媒座標であり、もう1つは分子構造の変化を記述する分子内核座標で ある。溶媒配向によるエネルギー緩和の大きい極性溶媒中では溶媒座標が重要となり、反 応は溶媒の緩和速度に依存するようになる。ところが、低極性溶媒中では溶媒配向の影響 は小さくなり、反応は主に分子内核座標で記述できるようになる。分子構造の変化は原子 の振動によって起こるので、反応は溶媒和過程より圧倒的に速く起こることができるよう になるのである。, application/pdf, 総研大甲第79号}, title = {溶媒和過程より速く起こる新しい型の電子移動に関する研究}, year = {} }