@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000156, author = {伊藤, 哲二 and イトウ, テツジ and ITO, Tetsuji}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {電荷移動錯体は、電子を他に与えやすい(イオン化エネルギーの小さい)ドナーと電子を受け取りやすい(電子親和力の大きい)アクセプターから成る分子集合体である。この一連の化合物の中で、電荷移動相互作用と共に水素結合相互作用が物性に顕著な影響を与える例として、近年、キンヒドロン錯体の中性一中性ラジカル相転移が見出された。この相転移は圧力の印加により図1に示したようにプロトンと電子が連動的にヒドロキノンからギノンへと移動し、セミキノン中性ラジカルが生成したものであると考えられる。しかしながら、この相転移の発現には30Kbar以上の圧力印加が必要であり、詳細な物性検討を行うにはより穏やかな条件下でこの相転移を実現させる必要がある。  この目的の達成には、電荷移動相互作用を促進させる、あるいは電荷移動相互作用に換わる相互作用を導入することが必要である。具体的には、遷移金属錯体の利用が考えられる。遷移金属錯体を利用することの利点としては次の2点が挙げられる。(1) 同じ配位子でも遷移金属を選択することによって分子のHOMOあるいはLUMOのエネルギーレベルを調節することができる。(2) 金属一金属間あるいは金属一配位子間相互作用を利用できる。以上のことを考慮すると、水素結合相互作用と遷移金属錯体の持つ特徴を組み合わせることにより、穏やかな条件下でプロトンと電子の連動移動が発現し、このものは特異な物性を示すことが期待される。  本研究では、その第一段階として、遷移金属錯体を含み、かつ、水素結合と電荷移動相互作用をもつ分子集合体を合成し、その物性を検討することを目的とした。以下に本論文の構成に従って要点をまとめる。  第1章 序論:  先に述べたように、水素結合と電荷移動相互作用を組み合わせることにより、プロトンー電子連動系に見られるような興味ある挙動を示すこと、また、このような挙動をより穏やかな条件下で発現させるためには、遷移金属錯体の導入が最適であると考察した。さらに、これまでに報告されている遷移金属錯体及び、強い金属一金属間相互作用をもつ1次元高伝導性錯体の構造、物性を顧みることで、目的とする分子集合体の合成への指針を得た。即ち、プロトン及び、電子のドナーとしてはπ共役系の拡張、置換基の導入が比較的容易なグリオキシム類を配位子とする金属錯体を用い、アクセプターとしてはキノン類、TCNQ等の有機分子を用いることとした。  第2章 エチレンジアミノグリオキシム錯体の合成と性質: ジアミノグリオキシム(H2dag)1は、先に述べた指針に合致する有望な配位子てある。しかし、水素結合部位の多さから分子集合体中での水素結合ネットワークは複雑なものとなり、これは物性評価を行う上で大きな障害となる。そこで、水素結合様式を制御するため、二つのアミノ基間にエチレン鎖を導入したエチレンジアミノグリオキシム(H2edag)2を分子設計し、合成を行った。次いで、2を用いて中性錯休であるM(Hedag)2 3(M=Ni, Pd)を.合成し、単結晶のX線結晶構造解析を行い、それらの水素結合様式について検討を行った。その結果、ニッケル錯体では金属錯体間に2種類水素結合が確認された。また、パラジウム錯体では金属錯体間に1種類の、金属錯体と結晶溶媒として含まれているDMSOとの間に1種類の水素結合が確認された。これらはいずれもジアミノグリオキシム錯体に比べ、シンプルな水素結合ネットワークを形成している。これら中性錯体のドナー性は、定量的に表すことができなかった。しかし、DDQ、TCNQ等の有機アクセプターと固相で反応させると電荷移動相互作用に起因するどみられる深色への色の変化が見られることから、これらの金属錯体がドナーとしての能力を持つことを示している。  さらに、スキーム1に従いTCNQとの電荷移動錯体4を合成し、良好な単結晶が得られたパラジウム錯体についてX線結晶構造解析を行った。その結果、金属錯体とTCNQは分離積層型のスクッキングを形成しており、その方ラ広間に水素結合の存在が確認された。また、これ以外に、隣接する金属錯体力ラム間に水素結合の存在が認められた(図1)が、ジアミノグリオキシム類似体に比べ水素結合ネットワークが単純化されていることが確認できた。  第3章 [M(H2edag)(Hedag)]TCNQの物性: 得られた電荷移動錯体4について電気伝導度、スペクトル等の測定を行った。その結果、TCNQの結合長比、赤外振動スペクトル及びラマンスペクトルからTCNQの電荷移動度は0.6~0.7と求められた。この結晶の電気伝導度を四端子法で測定したところ、サンプル依存性はあるものの室温で数十Scm-1と比較的高い値を示した。温度変化に対する電気伝導度の挙動は、室温付近では金属的もしくは活性化エネルギーの低い半導体的であり、180~120K付近で相転移が見られた。それよりも低温側では活性化エネルギーの大きい半導体的な挙動を示した<図2>。また、電気伝導度の温度依存性にはヒステリシスが見られ、昇温時の電気伝導度は冷却時のそれよりも低いことがわかった。  [[M(H2edag)(Hedag)]TCNQ(M=Pd, Pt)の振動スペクトルをKBrペレットで測定したところ、サンプル依存性があるが、低温において水素結合領域の吸収が著しく増加するのが観測された(図3)。この吸収強度の温度依存性には電気伝導度と同様なビステリシスが観測された。  これらの結果は、低温において水素結合とTCNQの伝導電子間に強い相互作用が生じることを示している。即ち、室温付近ではTCNQの伝導電子はTCNQ力ラム全体に非局在化しており、高い電気伝導性を示す(図4a)。ところが、低温ではTCNQの二量化により、伝導電子がTCNQ力ラム内を移動する速度が低下すると、TCNQ力ラム内で伝導電子が局在化し、TCNQ ̄とTCNQ 0の混合原子価状態が生じる。これに伴いTCNQ ̄の部分と水素結合しているプロトンはTCNQ側に引き寄せられ、TCNQ 0の部分と水素結合しているプロトンは金属錯体側に移動する(図4b)。この状態では、プロトンと電子間の静電引力がさらに強くなり、単なる二量化よりも更なる伝導電子の局在化をもたらし、電気伝導度は著しく減少する。これが電気伝導度測定に観測される相転移であり、このとき、伝導電子の移動速度が水素結合しているN-H伸縮振動の振動速度と同程度になると、電子と水素結合の相互作用によりN-H伸縮振動吸収の強度が著しく増加すると考えられる。  以上のように、エチレンジアミノグリオキシムを配位子とする金属錯体を含む電荷移動錯体において、水素結合と電子との相互作用が観測された。このような相互作用が認められた例はこれまでになく、特異な物性をもつ新規物質として期待される。  第4章 π拡張グリ.オキシム錯体の合成と構造:π拡張グリオキシムとしてジフェニルグリオキシムに水酸基及び、アミノ基を道人したビス(ヒドロキシフェニル)グリオキシム(H2bhpg)5、ビス(アミノフェニル)グリオキシム(H2bapg)6を合成した。また、酢酸ニッケルとの反応によって得られた錯体Ni(Hbhpg)2 7、Ni(Hbapg)2 8の再結晶を行い、得られた単結晶のX線結晶構造解析を行った。その結果、7では隣接する錯体のフェニル基同士が水素結合を件った重なりを持つことが分かった。その平面間距離は3.34Åで、ベンゼン環同士のファン・デル・ワールス接触距離である3.4Åより多少短い(図5)。8においても同様にフェニル基同士の重なりが見られる。この場合は水素結合は存在しないが、平面間距離は3.40Åとベンゼン環同士のファン・デル・ワールス接触距離と同程度である。  このような系では、アクセブターを加えることにより、兵役系での電荷移動及び水素結金の相互作用が、金属錯体のキレート部分でスクッキング様式が制御され得る分子集合体を構築できると期待される。, application/pdf, 総研大甲第176号}, title = {エチレンジアミノグリオキシム金属錯体を用いたプロトン電子連動システムの開発}, year = {} }