@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00001702, author = {佐藤, 千恵 and サトウ, チエ and SATOU, Chie}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {生物の様々な動きは、個々の筋肉がその動きに適した収縮・弛緩を行う事によって生じている。筋肉の活動は、運動ニューロンの活動により引き起こされている。そして、脊椎動物においては主に脊髄内神経回路の働きにより、動きに適した運動ニューロンの活動パターン作り出されている。しかしながら、哺乳類の脊髄内神経回路網の詳細については不明な点が多く、運動を作り上げている神経回路網の実体について調べていく研究にはまだ多くの困難がある。本研究では脊椎動物の中でもより単純な神経回路を持つゼブラフィッシュを用い、各種の神経細胞を蛍光タンパク質で可視化する事によって、脊髄神経回路網に関する解析を行った。本論文においては、様々な脊髄神経細胞の中でも、特に左右の情報のやり取りに重要であると考えられる交叉型神経細胞に着目した。
 第一章は、脊髄V0神経細胞についての研究を記す。
 発生期の脊椎動物の脊髄においては、背腹軸に沿って転写因子の発現がドメイン状に起こることが知られている。そして、これら転写因子の発現によって神経前駆体細胞に異なった性質が付与され、それぞれのドメインから異なった性質をもつ神経細胞が誕生すると考えられている。これらのドメインのうち、dbx1という転写因子を発現することで規定されるV0ドメインからは、主に交叉型神経細胞が生じることが哺乳類において示されていた。しかし、それら神経細胞(以下、V0ニューロンとよぶ)のさらなる詳細については不明な点が多く残されていた。このような背景のもと、本研究では、ゼブラフィッシュV0ニューロンの詳細な解析に取り組んだ。Cre/loxPシステム、トランジェント発現システム等を含むさまざまな手法を用いてV0ニューロンを蛍光タンパク質で可視化した。それにより詳細な形態学的解析を行い、(1) V0ニューロンはすべて交叉型神経細胞であること、(2) V0ニューロンは興奮性のものと抑制性の双方が存在すること、(3) 興奮性の神経細胞は形態学的に多様であること、(4) 抑制性ニューロンは形態的には概ね一様であることを明らかにした。次に、特に抑制性のV0ニューロンに注目して電気生理学的に解析を行った。その結果、V0抑制性ニューロンは、仮想遊泳運動中に、近傍の運動ニューロンと概ね同期して発火することを見いだした。この結果は、遊泳運動においてV0抑制性ニューロンが、脊髄の反対側の運動ニューロンの活動を抑え、収縮している筋肉と反対側の筋肉の活動を抑制(相反抑制)している可能性を強く示唆している。ゼブラフィッシュにおけるV0抑制性ニューロンに関する本研究成果は、哺乳類のV0抑制性ニューロンの機能を考える上でも有用な情報を与えうるものと考えられる。
 第二章は、逃避運動に重要な役割を果たす、CoLoとよぶ神経細胞の解析を記す。
 魚の逃避運動は後脳に一対あるマウスナー細胞によって引き起こされることが知られている。マウスナー細胞は、聴覚などから直接刺激を受け取り発火する。その軸索は正中線で交叉し、細胞体とは反対側の脊髄を下降する。そして脊髄内で運動神経とシナプスを作っている。このシンプルな神経回路の配置により、魚は刺激とは反対側へ素早く逃避するが可能となっている。本研究ではまず、東京大学武田研で作成されたエンハンサートラップラインのコレクションから、脊髄内のきわめて少数の神経細胞でGFPの発現が見られるラインをスクリーニングした。選び出されたライン(以下、Tol-056ライン)内におけるGFP発現細胞の形態学的解析を行い、GFP発現細胞は交叉型であり、極めて短く(約1体節長)、かつ太い軸索を持つ神経細胞であることを明らかにした。その特徴から、Commissural Local neuron (CoLoニューロン)と名付けた。電気生理学的な解析を行い、CoLoニューロンはマウスナー細胞から電気シナプスを介してシグナルを受け取り発火すること、および、反対側の運動ニューロンに抑制性シナプスを作っていること、を明らかにした。また、仮想運動時の発火パターンを調べることにより、CoLoニューロンは逃避運動時にのみ発火する事を明らかにした。このCoLoニューロンの逃避運動時における機能を明らかにするために、CoLoニューロンをレーザーで破壊した幼魚において行動解析を行った。その結果、音・振動刺激に対して幼魚が逃避運動を示す際に、しばしば両側の筋肉が硬直するという表現型を示した。硬直した表現型を示した際には、逃避の指令を出すマウスナー細胞が、相反する指令、つまり、右側への逃避命令と左側への逃避命令の両方をほぼ同時に出したのではないかという仮説を立て、その仮説を検証する行動実験を行ったところ、この仮説を強く支持する結果を得た。以上より、CoLoニューロンはマウスナー細胞が同時に発火した際にでも正常に逃避行動が行えるようにするために、反対側に抑制をかける逃避行動時に重要な役割を果たしていることが明らかになった。一連の結果は、(1) 脊髄内には、特殊な運動に特化して役割を果たす神経細胞が存在すること、(2) 脊髄内神経回路には、上位中枢からの下降性のコマンドを取捨選択して適切な行動に結びつけ能力が存在することを示している。
 上記のように、V0抑制性ニューロンとCoLoニューロンは、共に抑制性交叉型神経細胞で、運動時に反対側に抑制を送る神経細胞であったが、行動という文脈でとらえると、その神経回路における役割は、大きく異なったものであった。このように蛍光たんぱく質で神経細胞を可視化する事で、さまざまな形態・電気生理学的特徴をもつ神経細胞が存在すること、また、それらが生物の協調的な動きにおいてそれぞれに重要な働きをしている事を示唆することができた。, 総研大甲第1356号}, title = {Functional Analysis of spinal commissural neurons in zebrafish}, year = {} }