@article{oai:ir.soken.ac.jp:00001726, author = {テラダ, ヨシタカ and 寺田, 吉孝 and TERADA, Yoshitaka}, journal = {神奈川新聞}, note = {Kanagawa Shimbun, グローバル化の最も顕著な現象の一つに、大規模な人の移動が挙げられる。これまでにない数の人々が、移民、難民、契約労働者、留学生、国際企業の従業員などとして母国や生地から離れて暮らしており、そのような人の移動に伴って音楽も移動している。人の移動の増大により、移動する音楽の種類や量も増えているが、近年それによって音楽を取り巻く状況に質的な変化が表れ始めているようだ。南インドの古典音楽を例に考えてみよう。  海外に移住するインド人が増えるにつれ、インド音楽の国外での需要も増えている。米国では、1965年の移民法の改正によってアジアからの移住が容易になると、IT技術者を中心にして、高学歴のインド人が多数移住し、その人口は200万人を超える勢いだ。インド音楽へかかわるのは、母国への郷愁だけが理由ではなく、インドを知らない子どもたちの教育の一環としてインド音楽を習わせる親たちが非常に多い。ロンドン(英国)やトロント(カナダ)には、スリランカの民族紛争から逃れたタミル人が大きなコミュニティーをつくっており、彼らも南インド音楽の習得に熱心だ。  在外インド人たちは、欧米各地に音楽団体を組織し、インドから演奏家を招いて公演を企画する。演奏家にとっても実入りのいい海外ツアーは魅力的だ。人気演奏家はツアーが増えるにつれ、まとまった期間国外で過ごすようになる。需要があれば活動の本拠地を欧米に移して、音楽祭が開かれる冬場にだけインドに帰国する。このような世界を駆け巡るミュージシャンは、全体から見ればまだ少数かもしれないが、急速に増えていることも事実である。  インド音楽の国外における需要の増大は、音楽の学び方にも大きな変化をもたらしている。インターネットでスカイプ(無料のビデオ通話機能)を用いてレッスンを受ける方法だ。インドに住む師匠が、1万キロも離れた欧米に住む弟子の表情をモニターで見ながら、リアルタイムで音楽を教える。この教授法では、音楽の精神性を伝えにくい、師匠への尊敬の念が薄れるなどの批判はあるが、国外に住んでいてもインドの一流演奏家から定期的にレッスンを受けることができるため人気が高まっている。今年に入ってインターネットでの教授を組織的に取り入れる音楽学校も現れた。  在外インド人コミュニティーは豊かな経済力を背景にして、盛んにインドの演奏家たちと交流するだけでなく、寄付などを通して「母国」の音楽文化への発言力を強めている。南インド古典音楽の中心地であるチェンナイ市では、毎年12月に有名な音楽祭が開かれるが、その遂行も彼らのサポートなしには継続が危ぶまれるまでになっている。音楽面でも、在外コミュニティーで人気のある演奏スタイルや演目などが母国の新しい伝統として慣習化される例も出始めている。インド音楽はグローバルな人的、経済的ネットワークに不可分に組み込まれており、人や音楽は単に移動するのではなく、「環流」しているのである。 てらだ・よしたか 国立民族学博物館・民族文化研究部教授。 総合研究大学院大学比較文化学専攻長。専攻は民族音楽学。 インドをはじめとするアジア地域の音楽文化および北米における アジア系音楽の研究に従事している。, 2010年11月22日掲載 [総合研究大学院大学 比較文化学専攻長]}, title = {[先端科学 総研大の現場から]グローバル化とインド音楽-「環流」する母国の伝統} }