@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000191, author = {後藤, 義夫 and ゴトウ, ヨシオ and GOTO, Yoshio}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {【序論】ヘム(ポルフィリン鉄錯体、図1)を反応中心に持つヘム蛋白質は生体内に多種存在し、その多様な機能と高い触媒活性のメカニズムに関する様々な研究が行われている。これらヘム蛋白質の中でも、シトクロームP450は酸素分子を還元的に活性化し、通常困難とされる有機分子(薬物、ステロイドホルモン等)の水酸化を行うことから、その分子レベルでの反応機構に注目が集まっている。P450の触媒サイクルは図2のように考えられている。すなわち、休止状態の鉄(III)に基質を取り込むことによりこの触媒サイクルはスタートし、1電子還元、酸素分子結合、さらに1電子還元を経てパーオキソ鉄(III)を与える。次いで、酸素 - 酸素結合がイオン的に解裂し、水1分子を遊離してオキソ鉄(IV)ポルフィリンπ - カチオンラジカル(compound I )を生成する。酵素系ではパーオキソ鉄(III)状態以降は観測されていないが、前述のべルオキシダーゼやカタラーゼの場合にはcompound I が観測可能であることから、P450においてもこのcompound I が反応活性種であると考えられている。 (図1、図2省略)  こうした生化学的重要性からcompound I には興味が持たれ、その構造に関する研究がペルオキシダーゼのcompound I や合成モデル錯体を用いて行われてきたが、compound I の反応性に関する定量的な議論は立ち後れている。本研究ではこうした問題点を踏まえ、compound Iと各種基質との反応過程を直接観察することによって定量的に評価することを試みた。そのために、過酸化水素や有機過酸との反応により比較的安定なcompound I を生成させる以下の3つの系を用いて、compound I と基質との反応を直接観察し、その反応機構についての詳細な検討を行った。すなわち(1)西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、(2)合成鉄ポルフィリン錯体、そして、(3)ミオグロビン(Mb)変異体H64Sである。  一方、シトクロームP450の一般の反応の活性種は前述のようにcompound I による1酸素原子添加反応であると考えられているが、P450反応の中にはcompound I を活性種とすると説明の付かない反応もいくつか存在する。胎盤中に存在するシトクロームP450アロマターゼはその代表例であり、図4に示すように男性ホルモンであるandrogenのメチル基を3段階の反応で脱離させ、女性ホルモンのestrogenに変換する。第3段階目でアルデヒドの脱ホルミル反応を行っているが、通常compound I はアルデヒドを2電子酸化によってカルボン酸に変換することがわかっており、この反応はcompound I を活性種としたのでは説明が付がない。そこで本研究では、パーオキソ鉄錯体の反応性に着目し、パーオキソ鉄錯体のモデル錯体を合成し、アルデヒド化合物との反応を比較検討した。 (図3省略) 【第1部】ヘムを有する酵素における高原子価中間体の反応性  シトクロームP450の触媒する3級アミンの脱アルキル化反応及びスルフィドの酸化反応については生化学的見地からも興味が持たれている反応である。第1部では、上述の3つのcompound I を用いて、3級アミン及びスルフィドとの反応を検討し、反応機構について考察する。 [第1章] 3級アミンの脱メチル化機構について  P450による3級アミンの脱アルキル反応は、compound I によりメチル基が水酸化され、引き続き加水分解による脱メチル化反応によって完結するが、この水酸化反応のメカニズムが未だに議論の対象となっている。提案されている反応メカニズムは、アミンからの1電子移動/プロトン引き抜き、及びアミンからの直接水素原子引き抜きという2つの説である(図4 path AおよびB)。そこで本研究では、合成モデル錯体のcompound I とジメチルアニリン(DMA)を用いた反応を直接観察した。さらに、反応速度の基質の酸化電位に対する依存性、および2)速度論的重水素効果を検討した。その結果、compound I によるアミンの脱メチル化のメカニズムは、上述のいずれでもないことを明らかとした。すなわち、アミンからの1電子移動/水素原子の引き抜きである(図4 path C) (図4省略) [第2章] スルフィドの酸素添加反応機構について  compound I によるスルフィドのスルホキシ化反応のメカニズムは、1)協奏的な硫黄原子上への酸素原子の移動反応、および、2)スルフィドからの電子移動/酸素のカップリングという2つの考え方がある(図5)が、明らかにされていない。本研究では、Mb変異体のcompound I とチオアニソール誘導体の反応を直接観察によって検討した。Mb変異体のcompound I はチオアニソールとの反応によってFeIIIの状態へと変化したが、スルフィドの酸化電位に対する反応速度の依存性がみられた。さらMb変異体のcompound I と1.8-Dithiacyclooctane(DTCO)との反応過程でcompound I から1電子還元を受けたcompound II(FeIV=О)が中間体として観測されたことから、compound I によるスルフィドへの酸素添加反応が上述の電子移動/酸素の力ップリングにより進行することが示された。 (図5、図6省略) [第3章] 反応性に基づいた酵素の機能 - 構造相関  前2章で明らかにされた、各compound I の反応性から酵素機能の構造との相関について考察した。HRPのcompound I はアミン脱メチル化においてもスルフォキシ化においても、本来の機能である1電子酸化の反応性を基本的に示したのに対し、合成モデルのcompound I はいずれの反応においても2電子酸化プロセス(酸素原子移動)を示した(図6)。最近報告されたHRPのX線構造解析によれば、HRPのヘムは芳香族性のアミノ酸残基によって囲まれており、基質のオキソ酸素へのアクセスが困難になっている。この基質のアクセサビリティーの差が、HRPと合成モデル系のcompound I の反応性の差異をよく説明していると考えられる。一方、Mb変異体のcompound I は酸化電位の低いDMAやDTCOとの反応ではHRPのような1電子酸化の反応を示したが、酸化電位のより高いチオアニソールとの反応では、合成モデル系のような2電子酸化プロセスを示した(図6)。したがって、ミオグロビン変異体の活性中心は、HRPと比較するとかなりアクセスしやすくなっており、酸素添加反応を行うことが可能であるが、合成モデル錯体ほどアクセスしやすくはないので、1電子酸化電位の低い基質に対しては電子移動による1電子酸化を行うものと考察される。これに対し、合成モデル系では、中間に生成していると考えられる[基質カチオンラジカル・FeIV=О]複合体の再結合が早いため、何ら中間体が観測されなかったと結論された。 【第2部】パーオキソ鉄(III)ポルフィリン錯体の反応性  序論で記したように、パーオキソ鉄(III)ポルフィリン錯体はいくつかのP450反応で活性種と考えられており、その反応性に興味が持たれている。アロマターゼの反応に関して言えば、compound I が求電子性のキャラクターを持つのに対し、パーオキソ錯体は求核性を有することが予測されることから、アルデヒド炭素への求核攻撃が可能となり、脱ホルミル反応という特異な反応を起こすことが可能になると考えられる。もしそうであれば、図2に示したP450の触媒サイクルにおいて、酸素 - 酸素結合の解裂に至る前にパーオキソ錯体と基質であるアルデヒドが反応するという筋書きがなりたつ。しかしながら、この中間体を酵素系で観測した例はなく、したがって反応性は未知である。そこで本研究では、このパーオキソ(III)錯体のモデル錯体を合成し、アルデヒドとの反応性を検討し、compound I のモデル錯体とアルデヒドとの反応と比較検討を行った。パーオキソ錯体のモデル錯体の合成はValentineらの報告にしたがって合成した。この錯体は水分に対して非常に敏感なため、反応等についてはすべて不活性ガス雰囲気下で行った。その結果、compound I のモデル錯体はアルデヒド類を対応するカルボン酸へと変換したのに対し、パーオキソ錯体はアルデヒド類を脱ホルミル化し、オキソ化合物を与えた(図7)。この反応を吸収スペクトルやESRスペクトルの変化により検討すると、パーオキソ錯体がアルデヒドを求核攻撃し、生じたパーオキシヘミアセタールアニオンを中間体とする複雑な反応であることが示唆された(図8)。反応メカニズムの決定にはさらに詳細な検討を要するが、compound I では起こらない反応がパーオキソ錯体では起こりうるということ、また、パーオキソ錯体によるアルデヒドに対する求核攻撃が進行することを示す興味深い結果を得た。 (図7、図8省略), application/pdf, 総研大甲第375号}, title = {Reactive Intermediates in Catalyses by HemeEnzymes}, year = {} }