@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000204, author = {熊倉, 光孝 and クマクラ, ミツタカ and KUMAKURA, Mitsutaka}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {レーザー冷却で得られる極低温He原子は、質量が軽いためにド・ブロイ波長が長いこと、内部構造が単純なために理論的な研究が比較的容易であることなどの理由により、極低温での原子の集団運動に関する研究や、原子干渉計への応用、極低温での原子衝突に関する研究等において現在興味深い研究対象の一つとなっている。そこで本研究では、量子統計性の異なる2つの同位体種4He(ボゾン)と3He(フェルミオン)のそれぞれに対してレーザーによる減速と磁気光学トラップへの閉じ込めを行って極低温He原子気体を生成し、さらにそれらのトラップ内で起こる極低温イオン化衝突の速度定数の詳細な測定を行った。その結果、両同位体の速度定数に大きな差を見いだすと共に、理論計算によってその同位体差の由来を明らかにすることが出来た。  He原子のレーザー冷却は、2s 3S1 → 2p 3P2(波長1.083μm)の遷移(以下、冷却遷移と呼ぶ)を用いて行った。この遷移の下準位である2s 3S1状態のHe原子(以下、He*原子と記す)は、励起エネルギーが非常に高い(19.8eV)ためHe*原子同士の衝突によりイオン化(主にPenningイオン化He*+He* →He+ +He+e-)が引き起こされるが、自然放出寿命は非常に長い(~7900秒)ため光学遷移に関しては基底状態の原子と同様に扱うことができる。  He*原子の減速は、冷却遷移に近共鳴するレーザー光をHe*原子線に対向して入射し、減速によるDopplerシフトの変化をZeeman同調法で補償しながら連続的に行った。減速されたHe*原子は磁気光学トラップに導かれ、4He、3Heそれぞれに対して約105個の原子が温度0.5mK密度約10 9cm-3でトラップされた。なお、3He原子のレーザー冷却・トラップは本研究において初めて実現されたものである。このような量子統計性の異なった同位体のトラップは未だ限られた原子種にしか行われていないことに加え、Heのようにド・ブロイ波長が長く且つ理論的にも扱い易い原子において量子統計性の異なる同位体の極低温気体を生成することが出来たことは、今後の量子力学の基礎的研究などにおいて有用な成果であると考えられる。  さて、このような極低温気体中での原子衝突は、衝突エネルギーが常温に比べて非常に小さいため、 (1)常温の衝突では無視できるような小さな内部エネルギー差でも衝突全体に大きな影響を与え得る、 (2)高次の散乱部分波は遠心力障壁によって衝突中心に近づけないために低次の散乱部分波だけが非弾性衝突に寄与する、 (3)衝突時間が長いために衝突中の原子対による光の吸収・放出が可能であり、内部状態間の遷移に近共鳴するような光の存在によって衝突断面積が大きく変化し得る、  などの特徴を持つ。したがって極低温での衝突では、(1)や(2)から、常温の場合とは異なって大きな同位体差が現れることが予想され興味深い。  そこで本研究では、同一温度(0.5mK)の極低温レーザートラップ中の3He*+3He*および4He*+4He*衝突(以下、S-S衝突と呼ぶ)におけるイオン化速度定数k(3He*、4He*でそれぞれ3k、4kとする)を生成イオンの計数や蛍光減衰の観測によって測定し、その同位体差を調べた。その結果、3kが4kの約3倍という、原子の質量と速度の相違のみに起因する同位体差(~1.5倍: 常温の衝突の場合に相当)に比べて著しく大きな同位体差を見い出した。  また、このような極低温非弾性衝突では、(3)に挙げたように冷却遷移に近共鳴するレーザー光によって速度定数が大きく影響されるので、レーザー光照射下の極低温原子衝突においてどのような同位体差が生ずるのかという点にも興味が持たれる。そこで本研究ではトラップに用いたレーザー光によるkの増大効果についても測定を行った。その結果、3Heと4Heでそれぞれ32倍と55倍という大きな増大が観測されたが、レーザー光照射下でのイオン化速度定数 〓(3He、4Heでそれぞれ3〓、4〓と記す)の同位体差に関しては、3〓は4〓の約1.7倍であり、kに見られたほどの大きな同位体差は無いことが分かった。  そこで次に、これらの同位体差の原因や増大効果の大きさを決める要因を明らかにするために、速度定数k、〓の理論計算を行った。  S-S衝突では主に遠心力と短距離力であるvan der Waals力とで衝突ポテンシャルが決まるが、その遠心力障壁の高さは、最も低いp波の場合でも衝突エネルギー(0.5mK)より十分高い(4Heで10mK、3Heで15mK)ため、衝突イオン化は単一の散乱部分波(s波)のみによって引き起こされる。したがって、量子統計対称性から許されるイオン化チャンネルの電子状態は同位体間で明確に異なる。この事実と、イオン化においてスピン保存則が良く成立することを合わせて考慮すると、イオン化チャンネル数に6倍もの同位体差があることがわかった。この結果から計算された速度定数の同位体差は4.7倍で、これは実験結果とかなり良く一致しており、kの同位体差は両同位体の量子統計対称性の違いの直接の現れであることが明かとなった。  このような量子統計対称性の相違によるイオン化衝突の同位体差の研究としては、これまでにスピン偏極したKr原子やXe原子の極低温イオン化衝突についての報告があるが、これらの実験ではボゾン同士の衝突の方が速度定数が大きく、Heの場合とは大小関係が逆となっていて興味深い。この大小関係の相違は、KrやXeの実験の場合には電子スピンが偏極した原子の衝突イオン化を観測しているのに対して本研究のHeの場合には偏極していないこと、およびKrやXeではイオン化におけるスピン保存則が成り立たないのに対してHeではそれが良く成立することに起因していると考えられる。すなわち、Heの衝突ではスピンがすべて揃った状態(5Σg+)からはスピン保存則によりイオン化が起こらず、それ以外のスピン状態のみからイオン化が起こるのであるが、これは、スピンをすべて揃えたKrやXeの実験の場合とは完全に相補的な状況となっており、このことが互いに逆の同位体差をもたらしたものと考えられる。  次に、レーザー光照射時についてであるが、この場合には、S-S衝突の他に、He(2s3S1)+He(2p3P2)衝突(以下、S-P衝突と呼ぶ)とHe(2p3P2)+He(2p3P2)衝突によってもイオン化が引き起こされる。このうち後者では原子間相互作用がS-S衝突の場合とほぼ同様であるため速度定数の大きさもほぼ同程度であると考えられるが一方S-P衝突では、原子間相互作用が主に遠心力と遠距離まで働く双極子 双極子相互作用であるため、角運動量が6までの高次の部分波に対しても、遠心力障壁が存在しないかまたは衝突エネルギーより低いチャンネルが多数存在し、速度定数がS-S衝突に比べて1~2桁大きいことが分かった。このようなS-P衝突のために3〓が3kの13倍、4〓が4kの50倍になると計算されるが、これらは実験結果をほぼ再現している。また〓の同位体差については3〓が4〓の約1.2倍と計算され、これも実験結果をよく再現している。このようにkでの同位体差が〓のそれよりも小さいのは、極低温での衝突にも関わらず常温の場合と同様に偶・奇両パリティーを持った高次の多数の部分波がイオン化に寄与するために、量子統計対称性から許される電子状態の同位体間の相違が全体として相殺されることに起因している。この事実は、S-S衝突の場合とは極めて対照的である。  以上のように、本研究では、極低温He原子衝突におけるイオン化速度定数の同位体差を初めて観測するとともにその原因を明らかにすることができた。これらの実験結果は、He原子でのBose-Einstein凝縮の実現など将来の興味深い研究においても重要なデータであると考えられる。, application/pdf, 総研大乙第73号}, title = {準安定ヘリウム原子のレーザー冷却と冷却原子の極低温, イオン化衝突}, year = {} }