{"created":"2023-06-20T13:21:51.333242+00:00","id":2154,"links":{},"metadata":{"_buckets":{"deposit":"449faa52-7964-495c-bff2-b60325ee6437"},"_deposit":{"created_by":21,"id":"2154","owners":[21],"pid":{"revision_id":0,"type":"depid","value":"2154"},"status":"published"},"_oai":{"id":"oai:ir.soken.ac.jp:00002154","sets":["2:426:6"]},"author_link":["0","0","0"],"item_1_creator_2":{"attribute_name":"著者名","attribute_type":"creator","attribute_value_mlt":[{"creatorNames":[{"creatorName":"李, 昌熙"}],"nameIdentifiers":[{"nameIdentifier":"0","nameIdentifierScheme":"WEKO"}]}]},"item_1_creator_3":{"attribute_name":"フリガナ","attribute_type":"creator","attribute_value_mlt":[{"creatorNames":[{"creatorName":"イ, 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この地域における金属器をめぐる交流が始まった時期を紀元前4世紀とみるか、紀元前2\r\n世紀とみるかによって、歴史像は大きく異なってくる。なぜなら、紀元前4世紀に始まって\r\nいたとすれば、秦・漢が成立する以前に今の遼寧省周辺に存在した燕における鉄の生産体制\r\nの枠組みの中で活発化したことになるし、紀元前2世紀に始まったとすれば、前漢が匈奴に\r\n対してとった鉄政策の枠組みの中で活発化したことになるからである。この違いは、西日本\r\nに最初に現れる鉄器が鋳造品か鍛造品かといった材質問題やその後の鉄器製作技術など、鉄\r\n器の国産化にも影響を与える大きな問題である。\r\n 筆者は環朝鮮海峡地域における鉄の問題に深い関心を持っているが、年代が定まらない限\r\nりは真の歴史像を復原することはできない。そこで初期鉄器時代の標識である粘土帯土器を\r\n対象に炭素14年代測定をおこない、当該期の年代を確定することに本博士論文の目的を定め\r\nた。年代が定まれば韓国の考古学界が高い関心を寄せている歴博の新年代観の検証も可能で\r\nある。\r\n 韓半島の当核期の実年代を高精度に求めるためには粘土帯土器と弥生土器との細かな併行\r\n関係を確定し、それを利用して編年を行うことが不可欠であるが、粘土帯土器は弥生土器に\r\n比べて型式学的研究が遅れているため、研究者によって併行関係が微妙にずれているのが現\r\n状である。そこでまず、併行関係に関する研究史を検討して、ズレが生じた背景や問題点を\r\n抽出し、資料の再検討および新出資料の解析を通じて弥生土器と粘土帯土器との細かい併行\r\n関係を確定した。\r\n 次に筆者が採取・処理した試料を中心に、炭素14年代測定の結果をもとに粘土帯土器の実\r\n年代を推定した。対象とした試料は時期比定が確実な粘土帯土器に付着した炭化物、土器と\r\nの共伴関係が確実なウルシや炭化米、時期が確実で海洋リザーバー効果の影響が少ないと考\r\nえられるシカの骨や人骨など、その数は97点にのぼる。先に考古学的に確定した環朝鮮海峡\r\n地域における併行関係と矛盾のない炭素14年代が得られれば新年代観の正しさが証明でき\r\nるので、あとは弥生土器型式ごとの炭素14年代値を参考にしながら、考古学な分析を通じて\r\n実年代をさらに絞りこんだ。\r\n 最後に以下のような年代観を構築するとともに、韓半島の時代区分の問題点を指摘して改\r\n善案を提示した(図1)。\r\n 粘土帯土器のうち、古式に位置づけられる円形粘土帯土器はこれまで紀元前300年頃に出\r\n現したと考えられてきたが、紀元前6世紀ごろに出現した可能性が高まるとともに、紀元前\r\n7世紀までさかのぼる可能性がいまだ否定できないこともわかった。一方、新式の三角形粘\r\n土帯土器はこれまで紀元前2世紀に円形粘土帯土器から変化して成立したと考えられてきた\r\nが、紀元前300年前後には変化していたこともわかった。最終的に粘土帯土器は紀元後2世\r\n紀に軟質土器へと変化する。この年代観は併行する弥生土器の実年代とも矛盾しない整合的\r\nな値である。この結果、歴博の新年代観の妥当性が検証されたといえる。\r\n 確定した粘土帯土器の実年代をもとに、細形銅剣文化は紀元前5世紀後半に成立すること\r\nや、鉄器は紀元前4世紀初~中頃に環朝鮮海峡地域に現れることを確認できた。これは従来\r\nの考えよりも100年以上さかのぼることを意味する。この年代観は墳墓における金属器の副\r\n葬のあり方とも一致し、非常に精度の高い年代と考えられる。\r\n そして、本論文で明らかにした粘土帯土器と金属器の新しい実年代は、韓国で現在使われ\r\nている一般的な時代区分とはあわなくなるので、鉄器の出現を指標に新たな時代区分を設定\r\nした。すなわち初期鉄器時代は紀元前4世紀初~中頃に始まることになり、円形粘土帯土器\r\nの新しい時期に相当する。その結果、鉄器が伴わない円形粘土帯土器の古い部分は初期鉄器\r\n時代から外れて青銅器時代に編入され、松菊里式土器から円形粘土帯土器の古い部分へと推\r\n移することになる。よって現状で青銅器時代後期とされている松菊里式土器を青銅器時代中\r\n期に再編し、円形粘土帯土器の古い部分を後期とした。\r\n\r\n しかし課題もまだ残されている。粘土帯土器の実年代はまだ上限と下限年代の目安が\r\nついたに過ぎず、その間の細かい年代の推移をおさえきれていないので、今後は細別型\r\n式を設定して実年代を付与する必要性がある。また、円形粘土帯土器の上限年代も紀元\r\n前7世紀まで古くなるのかどうかまだ不確定な部分を残している。最低でも弥生土器の\r\n水準まで細分型式を設定した上で高精度の実年代を付与したいと考えている。\r\n本論文では鉄器の出現を指標に、初期鉄器時代を円形粘土帯土器の新しい時期からと\r\nしたものの、青銅器時代の始まりは依然として青銅器が見つかっていない突帯文土器か\r\nらとされている。時代区分は同じ論理で行うのが鉄則であるから、青銅器時代の始まり\r\nも青銅器の出現を指標に設定するとすれば、現在青銅器時代前期といわれている欣岩里\r\n式からとすべきなどの課題もまだ残されている。\r\n将来的にはこの年代観を基礎に、筆者の最終目的である、環朝鮮海峡における鉄器を\r\nめぐる交流の実態とその背景の解明に努めることとしたい。\r\n \r\n(図1 総合編年と新たな時代区分の適用 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