@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00002456, author = {大橋, 崇行 and オオハシ , タカユキ and OHASHI, Takayuki}, month = {2016-02-17}, note = {    本研究は、近代文学成立期における山田美妙について、言文一致の問題を中心として分析、考察を行うものである。
    従来の研究において、美妙の言文一致は、主に国語学や日本語学の立場から行われてきた。そこでは、「です」「ます」を基調とした文末によって示される、待遇表現の問題が重要だとされてきた。また、文学研究の側からは、国語学、日本語学の研究を踏まえた上で、美妙は坪内逍遙『小説神髄』(明治18~19)の絶対的な影響下に出発しており、基本的には逍遙によって示された枠組みに沿って小説を書いた作家だとされてきた。
    しかし、美妙が行った試みには、このような研究で指摘されてきたことにとどまらない、多様な問題が含まれていると考えられる。そこで本研究では、美妙が明治二十年代に書いた文章を実際に読み解いていくことで、この時期に美妙が行った文学的な営為について考えるためにはどのような問題意識が有効なのか、また、そこで立ち上がった問題点から考えた場合、美妙の言文一致をどのように意味づけることができるのか、といった点について考察をすすめたものである。
    以下、章ごとに扱った、具体的な問題点を示す。
    第一章「山田美妙の文末表現と文意識」では、美妙についての研究史を概括した上で、その中で文末の問題として扱われてきた、「です」「ます」を基調とする表現の問題を扱っている。その際、特に中心として取り上げたのは、明治二十年代から三十年代にかけて、文(sentence)という概念がどのように扱われていたのかという点である。
    現代の日本語では、句点によって文を区切り、それをひとつの単位として文章を構造化することが定着しており、このように文章を書こうとする枠組みは、一般に文意識と呼ばれている。美妙は新保磐次とともに、婦人雑誌『以良都女』誌上で日本語におけるパンクチュエーションの問題をさかんに取り上げ、実際に日本語の文章にそれを積極的に導入しようとした。しかし、美妙が考えていたのは、文章を句点によって区切ることで読みやすくしようという程度の位相であり、たとえば同時代の英語学や英語の文法書に記述されていたように、主語と述語を単位として陳述(syntax)の関係を構造化し、その構造をもって文と認めようとする発想は希薄だったと考えられる。日本語に文意識が編成されるのは、やはり明治三十年代の国語教科書における談話体の本格的な採用を待たなくてはならないのである。その意味で、美妙が言文一致に採用した「です」「ます」を、現代の視点から単純に文末表現として扱ってきた国語学、日本語学研究や、それに基づいた文学研究を検証し、その正当性を確認しようというのが、この章における目的である。
    第二章「文法と言文一致」では、第一章での考察を受け、美妙の言文一致論をどのような位相で考えればいいのかを明らかにしている。その中で特に、明治初年代から二十年代にかけて用いられた文体、文典、文法という三つの用語に着目した。同時代において、文体は作文教科書を中心に学ばれていた文章の様式を指す。また、文典は、学校教育におけるひとつの教科として、主語と述語によって構造化される文を単位とした文章の書き方を教える、規範文法の書籍を指す用語である。これに対して文法は、文体と同じ意味、文典の中に記述される言葉の法則という意味、言語全体が持つシステムそのものという意味と、さまざまな位相が混在する用語だったと考えられる。
    美妙が言文一致において問題化していたのは、このうちの文法という位相である。このことにどのような意味があったのか、また、文法に注目したことが、言文一致において用いられるフィギュール(話色)の問題とどう関係するのかについての考察を通し、美妙の言文一致におけるひとつの目的が、文法に基づいて文章を書いていくことで、それ以前の文体や文典といった言語の規範とは異なる枠組みで、言語表現を作りあげようとしていたことにあったという問題について論じている。
    第三章「小説というジャンル」は、「小説」というジャンルをめぐる問題や、美妙の小説に現れる語彙の問題から、美妙の言文一致小説にどのような特徴があり、それが坪内逍遙『小説神髄』や、同時代に日本に入ってきていた英語圏の修辞学から考えた場合に、どう位置づけられるのかを考察している。
    特に「蝴蝶」や「武蔵野」「いちご姫」といった時代小説に注目し、小説に衒学的な調査によって得られた知識を反映させたり、翻訳語を用いたりすることの意味について分析することを通して、美妙の言文一致小説においては、ある言葉によって表される概念や、ある特定の観念から、小説全体を構築していくという方法があったことを指摘している。
    第四章「美妙の言文一致」では、第三章を踏まえた上で、美妙の言文一致小説における語りの分析を行い、それらが具体的にどのような書かれ方をしていたのかを考察している。その中で、美妙が言文一致小説においてもっとも重要視したのが、地の文にどうやって口頭語を持ち込むかという問題であったことに着目した。結果として美妙は、自由間接話法のような小説の書き方を手に入れている。すなわち、語り手が作中人物と語りとのあいだを自由に往還するという語りによって小説を書くことが、美妙の言文一致におけるひとつの到達点だったのである。またここには、新体詩と小説との関係をどのように捉えるかという問題、さらには、言葉を用いて表現するという営為をどのように考えるかという、文学の根幹にかかわる問題が含まれていると言える。
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