@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00002478, author = {藤井, 陽介 and フジイ , ヨウスケ and FUJII, Yosuke}, month = {2016-02-17}, note = {薬剤は有効性と安全性のバランスを考えながら使用されるべきであり,そのための適切な情報が備わっていてはじめて薬剤本来の役割を果たす.治験(市販前の臨床試験)のみでは不十分である情報を収集するために,医薬品として市販された後に,市販後安全性対策としてさまざまな対策が施されている.しかし,レポーティング・バイアスなどによって,これらの制度を以っても正確なエビデンスを得るには限界がある.よって,これらの制度は仮説を創出する役割を担っているとされている.創出された仮説を検証し,そのエビデンスをより正確なものにするためには,市販後安全性対策の現行のものに加えてさらなる薬剤疫学研究が求められる.
欧米を中心として薬剤疫学研究に利用できる数百万から数千万人規模のデータベース(以下,DB)が数多く構築されている.こうしたDBに基づく薬剤疫学研究の研究事例が枚挙に遑がないほど実施されており,市販後安全対策がDBを重要な情報基盤にして展開されつつあることは周知の事実である.一方,本邦において利用可能なDBは不十分であり,それを前提とした統計的手法の開発が極めて遅れている.しかし,直ちに欧米のようなDBを構築することは不可能であり,まず構築の可能性を探ることから始めなければならない.
そこで,本研究の一つ目の目的を,臨床試験の計画・実施から結果の公表までの管理を第三者として行ってきた組織(コントローラー委員会)によって管理されていた各薬効分類に関する臨床試験データのうち,降圧薬に関する市販前の臨床試験のDBを構築することとした.
降圧薬の臨床試験では,降圧薬の単独使用に関する試験(単剤試験)に加え併用使用(上乗せ)に関する試験(併用試験)が同時に並行して行われることがある.本研究で構築したDBにもこれらが登録されている.単剤と併用という二つの治療法がある状況における臨床的な興味は,被験薬の有効性と安全性のみならず,二つの治療法間の有効性と安全性の相違にもある.この相違は治療法(単独療法と併用療法)と薬剤(被験薬と対照薬)の間の交互作用に相当する.しかしながら,同一の被験薬に関する臨床試験であっても,各試験への被験者の登録は無作為ではない.よって,被験者の背景や特徴から選択的に試験登録されてしまうかもしれない.一方,試験登録後の各試験における薬剤の割付けは無作為である.試験登録が無作為ではないという事実を無視して評価を行うとバイアスが混入する恐れがある.そこで我々は,傾向スコア(propensity score)を用いたバイアスの調整に注目した.ここでいう傾向スコアとは共変量で条件付けたもとでの併用試験への登録確率である.ただし,本研究の対象となるデータの構造は,試験登録と薬剤割付けという階層構造を成していると考えることができ,従来の傾向スコアの方法論をこの構造に適したものに改変する必要がある.しかし,このような議論はこれまでなされていない.
本研究の二つ目の目的は,構築された臨床試験DBの一部の試験を用いて,単剤もしくは併用試験への登録に影響を与えうる共変量を傾向スコアにより調整を行うことで,治療法と薬剤に関する統計的交互作用を評価する方法を提案することである.
本論文は5つの章から構成されている.以下に各章の概要を記す.
第1章は本研究の背景と目的,論文の構成を与えている.
第2章では,一つ目の目的である降圧薬に関する市販前の臨床試験DBの構築について解説している.構築対象はコントローラー委員会が管理しているデータであった.紙媒体の電子化,項目の名寄せ,統合DBの定義,プロトコールレビュー,統合バッチ処理,ロジカルチェック,バリデーションチェックを経てDBを構築した.DBは13のデータセットから成り,試験数は56,被験者数は12,389である.薬剤機序ではβ遮断薬が41試験(被験薬)と最も多く,同一薬剤機序の比較試験は43試験あった.さまざまな仮説に対して定量的評価を行う基盤となるDBが完成した.患者個別データを用いたメタアナリシスなど,大規模DBの特徴を生かした解析が可能である.
第3章において,目的の交互作用を評価するための理論的背景として,因果推論,傾向スコア,交互作用について解説している.
第4章では,二つ目の目的である構築したDBの一部の試験を用いた,治療法と薬剤に関する統計的交互作用の検出について述べている.強く無視可能な割付け(strongly ignorable treatment assignment:SITA)は傾向スコアを用いた解析に必要な条件であるが,試験登録と薬剤割付けという階層構造を適切に考慮した条件を示している.この条件が成立するもとで一致性を持つ,二種類の治療の割付けに関する逆確率による重み付け(inverse probability of treatment weighted:IPTW)推定量と高い有効性を有する二重にロバストな(doubly robust:DR)推定量を提案している.また,臨床的には試験に登録された患者のうち特定の集団にのみ興味が生じることがあるが,それに対応する平均的因果効果の推定法についても議論している.提案した各推定量の性能をシミュレーション実験で比較し,いずれも統計的に優良な性質を持っていたが,被覆確率や標準誤差の点でIPTW推定量に対するDR推定量の優位性を確認した.さらに推定に用いる共変量の増加や試験登録の傾向性の強化によって推定量の精度が低下することを明らかにし,DR推定量がより敏感にその影響を受けることを指摘した.最後に各推定量を事例に適用した結果を,クロス表から計算される粗オッズ比と比較を行いながら示した.
最後に第5章で,本論文のまとめと今後の課題を与えている.本邦には薬剤疫学研究に利用可能なDBが不十分であるという背景から,本研究では降圧薬に関する市販前の臨床試験のDBを構築した.56の臨床試験のデータを統合したこともあり削減した項目があったが,統一的なフォーマットに当てはめた利用可能なDBが完成している.またDBの情報公開も既に行っている.本DBがベネフィット・リスクのバランスを科学的根拠に基づいて最適化さらには推進する一翼を担えることを期待している.一方,我々が提示した統計的交互作用の評価法は,階層構造を成している状況であれば適用可能であり応用範囲は広い.本研究では第二の階層(薬剤の割付け)が無作為である場合を考えたが,それが無作為でなく選択性がある状況も想定される.このときは,選択性の原因である要因を特定し,SITAの条件を適当な形に書き換えることによって,バイアスの無い推論を構成できる.また,本研究の対象は1組2試験の交互作用を評価するものであり,56試験から構成されるDB全体を対象としたものではない.DBには単剤試験と併用試験が並行して行われている試験が他にもあることから,統計的に統合してより精度の高い解析を行うことも可能かもしれない.今後,このような課題に対して取り組まれることが望まれる.
, 総研大甲第1421号}, title = {臨床試験大規模データベースの構築とそれを基にした傾向スコア法による統計的交互作用の検出}, year = {} }