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\r\n衝撃を受けた隕石の年代は、K-Ar (Ar-Ar), Rb-Sr, Sm-Nd, Lu-Hf, U-Th-Pb同位体系を用いて決定されてきた。しかしながら、衝撃変成度(岩石・鉱物学的特徴)と同位体年代が持つ地質学的意味については、これまでも議論されてきたが、不明な点も残されていた。衝撃変成作用が岩石・鉱物の組織、化学組成に及ぼす影響を明らかにするために、衝撃溶融したHコンドライトの物質科学的研究をおこない、形成環境を明らかにした(第1章)。Y-791088は、衝撃変成作用により構成相の約60%が溶融し、衝撃溶融により生じたメルトからかんらん石および輝石が晶出していた。LAP 02240は構成相の90%が溶融していた。\r\nY-791088においては、コンドルールの形態を保持したまま溶融した「シュードモルフコンドルール」が確認された。一方、LAP 02240において認められたコンドルールは、変形したものであった。このことから、衝撃を受けた後、Y-791088は「静的環境」、LAP 02240は「動的環境」において形成したと解釈された。
\r\nこれまでに報告されていたY-791088およびLAP 02240の同位体系は、衝撃溶融をもたらした衝撃現象によって乱されていたことが明らかとなった。
\r\n現在、衝撃を受けた火星隕石(シャーゴッタイト)から求められた同位体年代が示している地質学的意味について、議論が行われている。これまでに報告されたシャーゴッタイトのRb-Sr, Sm-Nd, Lu-Hf, U-Th-Pb同位体系の年代(~200 Ma)は、シャーゴッタイトの結晶化年代とみなされてきた。近年、シャーゴッタイトのPb-Pb年代(~4.1 Ga)を報告したグループは、水質変成もしくは衝撃変成により同位体系がリセットした年代が~200 Maであると解釈した。レーザアブレーションを併用した誘導結合プラズマ質量分析計(LA-ICP-MS)もしくは二次イオン質量分析計(SHRIMP II)を用いて、シャーゴッタイトに含まれるバデレアイトのU-Pb同位体年代測定が試みられていたが、衝撃変成による高圧・高温環境下における、バデレアイト中でのU-Pb同位体の挙動については不明な点が多かった。バデレアイトから求められるU-Pb年代が持つ地質学的意味を理解するために、年代\r\n既知のバデレアイトを用いた衝撃圧縮実験および加熱実験によりU-Pb同位体系への影響を評価した(第2章)。
\r\n実験による衝撃圧~59 GPaおよび高温(1300 °C)環境下では、バデレアイトの高圧・高温相への相転移は認められなかった。周囲を取り囲む玄武岩が全溶融した条件下においても、バデレアイトは全溶融せず、U-Pb同位体系がリセットするような変化は認められなかった。このことから、バデレアイトのU-Pb同位体系は、周囲が全溶融する環境においても結晶化年代を保持していることが示唆された。
\r\nシャーゴッタイトに含まれているバデレアイトから報告されたU-Pb年代は、(1)バデレアイトの粒径が小さい、(2)バデレアイト中のU濃度が低いことから、正確な年代データとはいえなかった。シャーゴッタイトが経験した衝撃変成度を明らかにするとともに、結晶化年代を求めることを目的として、衝撃を受けた火星隕石の物質科学的研究を行なった(第3章)。
\r\nレルゾライト質シャーゴッタイトであるRoberts Massif (RBT) 04261においては、構成鉱物が破砕され、斜長石がマスケリナイト化し、メルトポケットが散在していたが、高圧鉱物は確認できなかった。このことから、本研究で用いたRBT 04261の研磨試料の領域では、30 GPaを超える衝撃圧を受けていないと結論された。
\r\n粒径~10 μmのバデレアイトから、U-Pbコンコーディア年代(~200 Ma)が得られた。このバデレアイトから求められたU-Pb年代(~200 Ma)は、ペアのRBT 04262から求められたRb-Sr, Sm-Nd年代とよく一致しており、岩石・鉱物学的特徴を考慮すると、RBT 04261の形成(結晶化)年代を示していると結論された。
\r\n隕石母天体上において、岩石・鉱物が溶融するような衝撃現象を経験した場合には、同位体系が乱され、さらに完全に同位体系が均質化される。閉鎖温度が高く、衝撃による高温・高圧環境下でも溶融しない鉱物(ジルコンやバデレアイト)においては、同位体系は容易に解放系にならず、結晶化年代を保持する。したがって、ジルコンやバデレアイトといった衝撃変成に対して耐性を持つ鉱物を用いることにより、隕石の結晶化年代を得ることができる。
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