@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000254, author = {河尾, 真宏 and カワオ, マサヒロ and KAWAO, Masahiro}, month = {2016-02-17}, note = {研究の背景
 ナノテクノロジーの発展により、新たな素子や物質などが発見され、それら
の情報、素材、医療など様々な分野への技術的応用が期待されている。ナノテ
クノロジーは、その手法からリソグラフィーなどのトップダウンアプローチと
分子などの自己組織化を利用したボトムアップアプローチに分類されている。
トップダウンアプローチは、大面積のものの作成は容易であるが、原子レベル
の精度を実現することは困難である。一方、ボトムアップアプローチは、原子
レベルの精度でものを作れるが、大面積のものを意図通りに作ることは困難で
ある。この二つの手法の欠点を克服できれば、原子レベルの精度で任意の大き
さのものを作成することが可能になり、人類は究極の物質合成手法を手に入れ
ることになる。

研究目的
 著者は、分子の自己組織化で規則性の高い構造体をできるだけ大面積で作成
する手法の開発と、そのようにしてできたものの電気や光物性を研究すること
でボトムアップアプローチの欠点を克服することを目指し研究を行った。小さ
な分子の自己組織化の研究は多いが、小さな分子では組織化体の構造がほとん
どの場合自然に決定されて制御困難である。そこで、ある程度の大きさ(10~100
nm)までは合成的手法で分子を作成し、その比較的大きな分子を表面上で自己
組織化することを考えた。
その研究の手始めとして、1次元の巨大分子=ポルフィリンワイヤの自己組
織化の研究を行った。ポルフィリンワイヤを対象に選んだ理由は次の通りであ
る。(1)π共役した長鎖分子としては、安定で取り扱いやすい、(2)置換基の
変換が容易である、(3)中心金属として様々な原子が導入可能であり、機能化
がしやすい。また、中心に様々な金属原子を導入できるポルフィリンは、その
金属原子を使ってさらに複雑な構造体を作成することができる。さらに、金属
の違いによりポルフィリンの性質も変化させることができる。側鎖を変えるこ
とでポルフィリンの性質も変化する。これにより、自己組織化構造も変化する。
側鎖に機能性部位を付加することもできる。このような性質から、ポルフィリ
ンは分子ナノ構造体の良い材料であるといえる。

実験結果
 今回の研究で著者は、メソ位にジアセチレンを導入したポルフィリンを酸化
カップリングさせることで最大約400量体程度のポルフィリンワイヤを合成し
た。合成したポルフィリンワイヤを分子量ごとに分取し、基板表面への自己組
織化を行った。用いた基板は、マイカ、ガラス、酸化シリコン、HOPGで、ポル
フィリンワイヤのTHF/H2O混合溶液を格基板に滴下し自然乾燥した。その結果、
HOPG基板上でのみ規則正しい集合体を形成することに成功した。ポルフィリン
ワイヤの長さ、濃度の違いにより、3種類の集合体がAFMにより観察された。
しかし、この集合体は、基板表面のごく一部でしか確認されずさらなる応用、
測定が困難であった。
 そこで、広範囲にわたり規則正しい構造体を作製する方法として、基板をポ
ルフィリンワイヤ溶液に浸すという方法を用いた。ポルフィリンワイヤの
THF/H2O混合溶液にHOPG基板を2日浸すことにより、規則正しい集合体を基
板表面ほぼ全体に作製することに成功した。集合体の厚さは約2 nmであり、ポ
ルフィリンワイヤが数層かさなっていると考えられる。集合体は直線状の構造
をしており、絶縁性基板へ転写することにより電気伝導度測定などが容易であ
ると考えられる。
 そこで次に、他の絶縁性基板へ転写を行った。HOPG上の集合体の電気伝導
特性、光特性の測定には絶縁性かつ透明な基板上への転写が必要である。ガラ
ス基板、マイカ基板にHOPGサンプルを押し付け転写を試みたが密着性が悪い
ことなどにより転写は成功しなかった。そこで、エポキシ樹脂を用いて転写を
行った。まず、ガラス基板上に硬化前のエポキシ樹脂を薄く延ばしその上に
HOPGサンプルを乗せ押し付けた。エポキシ樹脂硬化前なのでHOPG基板と密
着が可能である。エポキシ樹脂の硬化後、HOPG基板を取り除きHOPG上の集
合体を転写した。AFMによりエポキシ表面を観察した結果、一部で直線状のワ
イヤが観察された。

まとめ
 著者は、分子の自己組織化で規則性の高い構造体をできるだけ大面積で作成
する手法の開発と、そのようにしてできたものの電気や光物性を研究すること
でボトムアップアプローチの欠点を克服することを目指し研究を行った。本研
究では、合成的手法により1次元の巨大分子であるポルフィリンワイヤの作製
し、この分子を用い基板上に自己組織化集合体を作製することに成功した。合
成的手法と自己組織化を融合しサブマイクロメーターオーダーの規則正しい集
合体を作製するという手法の開発に成功したといえる。さらに、この集合体を
他の絶縁性基板への転写を試みた。これによりHOPG基板上の様々な集合体の
電気伝導度特性、光特性の測定が可能になると考えられる。
, 総研大甲第1119号}, title = {Synthesis and Self-organization of The Giant Porphyrin Wires}, year = {} }