@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000262,
author = {本田, 数博 and ホンダ, カズヒロ and HONDA, Kazuhiro},
month = {2016-02-17, 2016-02-17},
note = {(序論)
本学位論文においてOH基を生成する次の3つの素反応、
H + H2O → OH + H2 (1)
O + H2S → OH + HS (2)
H + N2O → OH + N2 (3)
について研究を行った。これらは燃焼反応及び大気圏光化学反応中の重要な素
反応であり、反応動力学的にも非常に興味が持たれる。
本研究において私は、反応体の初期条件(並進エネルギー・反応の配向)を
規定した反応により生成されたOH基の初期回転状態分布をLIF(レーザー
誘起蛍光)法により決定し、十分に知られた分光データを基に反応機構を明ら
かにした。特に反応体の並進エネルギーの変化とともにこれらの反応により生
成されるOH基の内部状態分布がどのように変化するかは、本学位論文におい
て中心課題の一つである。
(実験及び解析)
水素及び酸素原子は、ハロゲン化水素(HI、HBr)及び二酸化窒素(N
O2)の光解離、
hv
HI(HBr) → H + I、Br(2P 1/2.3/2) (4)
hv
NO2 → O(3P0,1,2) + NO (5)
により生成した。レーザー(紫外)光を用いたこれらの過程により生成された
水素及び酸素原子は、並進エネルギーを規定することができる。
H+H2O及びO+H2S二分子反応は、bulk条件下で研究を行った。ま
た、H+N2O及びH+H2O二分子反応は、reactant-pair条件下
で研究を行った。ここで、reactant-pair条件下での二分子反応とは、超音速
分子線中に生成されるファンデルワース(水素結合)分子を前駆体
とした光化学反応であり対応するbulk条件の反応と比較し、衝突径数・反
応の配向が規定され、化学反応の機構を詳細に研究する上で有効であると期待
される。
反応により生成されたOH基は、プローブ光レーザー(306-323nm波
長囲)により電子励起状態に励起し、それからの蛍光を光電子増倍管で検出し、
OH基の振動・回転状態を決定した。得られたLIFスペクトルよりOH基の
内部状態分布・Λ-二重項あるいはスピン-軌道状態に対し有益な情報が得られ
た。
(実験結果及び議論)
1)H+H2O二分子反応
bulk条件下におけるH+H2O二分子反応は、HI及びH2Oの混合系
(Total 60mTorr)に266nm光(Nd:YAGレーザー4倍
波)を照射して反応を起こした。反応生成物OH(V"=0)の初期回転状態
分布は、ボルツマン分布を示し、回転温度は、A'及びA"Λ-二重項成分に対
し800K及び500Kと見積もることができた。これらの温度は、反応のエ
ネルギーが生成物の各内部自由度に対し統計的に分布された場合に期待される
温度よりも低いことが明らかになった。反応の機構を明らかにするため同じポ
テンシャル面で反応が進行すると期待されるH+D2O反応についても同様な測
定を行った。もし、この反応が長寿命の中間体を経由するならば、OH及びO
D両方のLIFスペクトルが観測されると期待される。実験結果は、ODのL
IFシグナルのみが観測され、このことよりH+H2O反応は、ホットな水素が
H2O分子中の片方の水素を直接引き抜く反応であることが明らかになった。こ
の反応において振動励起状態(V"=1)のOHのLIFスペクトルは観測さ
れなかった。このことは、O-Hの結合距離が反応の間殆ど変化していないこと
を意味している。すなわち生成物OHの振動状態に関して"スペクテーター"
モデルで説明することができる。Λ-二重項成分については著しく非統計的分布
を示し、A'成分のOH基が優先的に生成されていることが判った。一方、ス
ピン一軌道成分については統計的な分布を示した。OHの回転分布が水素の並
進エネルギーに依存するかどうか明らかにするためにWolfrum達によるHBr
の193nm光解離による実験結果等と比較した。その結果、反応生成物OH
基の回転状態分布は、水素原子の並進エネルギーに依存しないことが明らかに
なった。
HBr・H2Oクラスターに193nmArFエキシマーレーザー光を照射す
ることによるreactant-pair条件下での反応についても研究を行っ
た。HBr中の水素原子は、H2O分子中の酸素原子と結合しているためこれを
前駆体とした光化学反応は、bulk条件下での直接引き抜き反応に対し不利
な配向を与える。しかし、クラスター内反応で生成されたと思われるOHのL
IFスペクトルが測定された。反応は、分子線中でのファンデルワース分子間
の変角振動との結合のため起こると考えられる。
2)O+H2S二分子反応
bulk条件におけるO+H2S二分子反応は、NO2とH2Sの混合系(To
tal 10-20mTorr)にNd:YAGレーザー3倍波である355
nm光を照射することにより行った。反応生成物OH(V"=0)の初期回転
状態分布は、ボルツマン分布を示し、回転温度は、A'及びA"Λ-二重項成
分に対し370K及び260Kと低い温度を示し、それらは反応エネルギーの
4%及び3%に相当した。これらはエネルギーの非統計的分配を示しておりこ
れから反応は直接酸素原子が水素を引き抜く機構の可能性を示唆した。またO
Hの回転温度が低いのは、遷移状態においてO-H-Sが直線型に近い構造を持
つためと考えられる。この反応においてOHは、新しく"ボンド"を作ること
によって生じるにも関わらずΛ-二重項成分については、非統計的分布を示し、
A'成分のOHが優先的に生成されていることが明らかになった。
3)H+N2O二分子反応
超音速分子線中に生成されたHI・N2Oクラスターに248nmKrFエキ
シマーレーザー光を照射することによるreactant-pair条件下での
反応について研究を行った。得られたOHの回転分布は2つのボルツマン分布
を仮定すると回転温度が、600K、3800Kと見積もることができた。得
られた二つの回転温度の比は、6.3となり、鞍点での二つの水素原子の余剰並
進エネルギーの比6.1とよい一致を示した。つまりボルツマン分布は、直接
引き抜きの反応機構を与えるNNO・・・HI異性体のみを仮定しHIの248
nm光解離で生じる水素原子の二つのチャンネルからの寄与を考慮するとうま
く実験結果を説明できる。OHの二つの回転温度は、反応エネルギーの7%お
よび1%に相当しエネルギーの非統計的分布を示している。これはこの反応が
"直接引き抜き"の機構により起こることを示唆している。
(まとめ及び課題)
化学反応の機構を微視的な立場からより詳細に解明するためには反応の初期
条件を規定した反応系について全生成物の状態分布(回転・振動・並進)を詳
細に知る必要がある。本学位論文においては、LIF法を用いたOHの内部状
態分布の決定のみを行い、反応生成物の内部状態について有益な情報を得た。
今後の課題としては、ドップラー分光法あるいは多光子イオン化法等を用いて
他の反応生成物の内部状態分布の決定を行う必要がある。またreactan
t-pair条件下での二分子反応の研究においては、IRおよびマイクロ波分
光法によりクラスターの構造を実験により決定することは、特に重要であると
思われる。, application/pdf, 総研大甲第37号},
title = {Study on Bimolecular Chemical Reactions under the Bulk and Reactant-pair Conditions},
year = {}
}