@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000264, author = {緒方, 啓典 and オガタ, ヒロノリ and OGATA, Hironori}, month = {2016-02-17}, note = {分子性固体はその構成分子の電子構造、分子間相互作用の多様性を反映して その電気伝導性、磁性、誘電性、光応答性等の固体物性において多様な振る舞 いを示す。特異な電子構造を持つ分子が集合体を形成すると特異な物性の発現 を期待することができる。また構成分子に化学的修飾を加えたり構成原子を変 えることによってその電子状態を変化させ、物性をコントロールすることも可 能である。また分子性固体の電子状態をコントロールする一つの試みとして分 子内、または分子間に水素結合を導入する方法がある。本研究論文は分子性電 気伝導体、超伝導体を対象とし、第一部で特異な電子構造をもつC60分子集合 体を取り上げ、アルカリ金属C60化合物における超伝導性及び常伝導状態にお ける電子構造を輸送特性を通じて明らかにした。第二部では水素結合による構 造的修飾またはπ電子系への静的、動的修飾を目的として分子間水素結合系電 荷移動錯体を取り上げ、それらの中で交互積層型錯体であるにもかかわらず電 気伝導度の高い3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMBD)およびテトラシアノナフトキノジメ タン(TNAP)の1:1錯体において200K近傍に二量体化に基づく相転移が存 在することを構造解析および電気、磁気、光学的物性測定によって見出した。  以下に本論文の構成にしたがって要点をまとめる。    第0章では序論として分子性伝導体および超伝導体のこれまでの研究および 本研究の目的について述べてある。従来の分子性固体で高伝導性および超伝導 性を示すものは、平面π共役分子を構成分子とする電荷移動錯体と呼ばれるも のである。TTF-TCNQに代表される一次元分子性伝導体は、こうした分 子が柱状に配列してπ電子の重なりによって導電カラムを形成している。しか しこれら一次元金属の多くは電子構造の不安定性に基づいて低温で電子-格子 相互作用を通して二量体化を起こし絶縁体化(パイエルス転移)してしまう。 分子性超伝導体探索の歴史は次元性向上によるパイエルス転移抑制の歴史であ ると言ってもよい。カラム間の弱い相互作用または巧妙な分子配列によって二 次元的な導電シートが形成されるTMTSF塩、BEDT-TTF塩等で超伝 導体が発見された。一方、最近大量合成法が発見された炭素クラスターC60は 三次元π共役系をもっており、この球状分子を集積すると最密構造を形成し、 必然的に三次元的な分子間相互作用が実現しており、伝導体の構成分子として も理想的である。またC60はその特殊な分子の形を反映して特異な電子構造 (高い軌道縮退)を持っているため、集合体を形成すると特異な固体物性の発 現が期待される。1991年にKをドープしたC60固体でTc=18Kという分子性固 体としては最高の転移温度を持つ超伝導体が発見されて以来、種々のアルカリ 金属およびそれらの合金をドープした系で新たな超伝導体が発見され、現在で は転移温度は33Kにまで達している。一方、C60とtetrakis- dimethylaminoethylene (TDAE)との錯体が遍歴電子磁性を示し、16.1Kと いう分子性固体としては最高の温度で(軟)強磁性転移を示すことが報告され ている。これらはC60分子の特異な電子状態を反映しているものと考えられ、 新物質探索のみならずそれらの物性発現機構に多くの関心が寄せられている。 しかし、これらの物質は大気中で極めて不安定であり多くの物性測定を困難な ものにしている。本研究では高伝導性および超伝導性を示す種々のアルカリ金 属C60化合物について電気伝導度および熱電能測定によりその常伝導状態にお ける低エネルギースケールで見たフェルミ面近傍の電子状態、特にドーパント による電子状態の差異を明らかにし、さらにC60系(超)伝導体の特異性を明 らかにすることが目的である。  一方、別の角度からのアプローチとして、やはり新しい機能性、伝導現象の 発現の可能性を探る目的で、有機結晶中の水素結合のプロトン移動とπ電子系 の静的および動的相互作用に着目して物質開発を行ってきた。具体的には各種 芳香族アミン類を電子供与体とする分子間水素結合系電荷移動錯体を取り上げ、 錯体及び単結晶試料を作製し、電気伝導性の高い物質について構造および詳細 な物性を調べることによりその特異性を明らかにし、最終的に固体物性に対す る水素結合の役割を明らかにするという方針で研究を進めてきた。本論文では それらの物質の中で、TMBDとTNAPの1:1錯体の構造および200K近傍 のBOW転移について述べてある。  第一部、第一章では、C60分子およびC60固体の構造、電子状態、および物 性について、またアルカリ金属をドープしたC60固体の超伝導特性についての 概説が述べてある。  第二章では、試料作製方法、アルカリ金属ドーピング方法について述べてあ る。輸送特性測定において特にこれらの試料は試料中の欠陥や粒界の存在に敏 感である。出発試料として真空蒸着膜、加圧成型粉末、およびCS2溶液中から 析出させて得た単結晶試料を選び、ドーピングを行いそれらの電気伝導度特性 を比較した結果、単結晶試料を出発試料としてKまたはRbをドープした試料に おいてのみ室温から超伝導転移温度まで電気抵抗の金属的挙動およびsharpな超 伝導転移が観測された。しかし室温での電気抵抗率の値はMott limitよりも大 きく、この試料では比較的均一性の高い伝導パスが測定軸方向に生じ易いもの の全体としては不均一な層状多層構造になっていることが推測される。  第3章では、単結晶を出発試料としてKまたはRbをドープした試料について 熱電能の温度依存性を測定した結果について述べてある。両試料ともに熱電能 は超伝導転移温度以上の全測定温度領域で負の値をとり、その振る舞いは金属 的な(T-linear)拡散項と約120K以下の温度領域に見られるelectron- intermolecular phonon interactionに関係したphonon drag効果と考えられる 項の和で表すことができる。拡散項から三次元自由電子モデルを仮定してフェ ルミエネルギーの値を見積もると、0.3?0.35eV(K doped),および0.19?0.20 eV(Rb doped)が得られる。  第4章では、単結晶を出発試料として同じアルカリ金属の中でも単-金属ド ーピングによって超伝導にならないとされているNaまたはCsをドープした試料 について、電気伝導度および熱電能を測定した結果について述べてある。Naを ドープした系では低温で不安定であるものの少なくとも室温付近までは安定な 金属相(Na3C60)が存 在することが分かった。 Csをドープした系において、低温(?30K)まで安定な金属相(Cs1C60)が存 在することが熱電能測定により確認された。  第二部、第5章では、分子内、分子間水素結合におけるプロトン電子連動系 についてのこれまでの研究の概要について述べてある。  第6章では、中性-イオン性境界領域にある交互積層型電荷移動錯体の示す 諸物性についての概説が述べてある。  第7章では、本研究において作製された分子間水素結合系電荷移動錯体にお ける電気伝導度の値と、それらのうちで特にTMBD-TNAPの構造および 物性について述べてある。, application/pdf, 総研大甲第46号}, title = {特異な分子性固体の電子物性の研究 -アルカリ金属C60化合物および水素結合型電荷移動錯体-}, year = {} }