@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000265, author = {森, 嘉久 and モリ, ヨシヒサ and MORI, Yoshihisa}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope ; STM)は、原子レベルの分解能を持つ新しい手法による顕微鏡である。この顕微鏡は量子力学的トンネル効果を利用したもので最初は導電性物質の表面観察にのみ限られていたが、その後各分野で応用、改良がなされ、絶縁体表面の観察が可能になっただけでなく、さまざまな雰囲気中(大気、真空、水中、高温、低温・・・)での表面観察や、原子レベルでの物性測定も出来るようになってきた。その応用の一つである走査型トンネル分光法(Scanning Tunneling Spectroscopy;STS)は、STMとトンネル分光法を組み合わせたもので、結晶表面近傍実空間の任意の領域(原子レベル)の電子構造を知ることが可能である。その手法は超伝導物質のフェルミ面近傍のエネルギーギャップ構造の研究に特に有効であるため、未だ十分に開発されていない極低温用走査型トンネル顕微鏡(Low Temperature Scanning Tunneling Microscope ; LTSTM)を試作することは非常に大きな意義がある。本研究の目的は、市販されているSTMをベースとして、さまざまな機能性物質の室温での固体表面構造を調べるとともに、LTSTMを試作し、新規超伝導物質の電子構造を調ベることである。  以下本論文の構成にしたがって要点をまとめる。  第1章は序論としてSTMの原理及びその開発から現在に至るまでの装置改良の経過を中心に述べる。またトンネル分光法についてはトンネル電流と状態密度との関係を理論的に説明するとともに従来のトンネル分光法とSTSの比較を行う。  第2章では装置の原理、操作方法、評価を中心に述べることにする。  試作した極低温用のSTMには3つの大きな特徴がある。(1)顕微鏡部の大きさは20mmφ×100mmと非常にコンパクトな設計になっている。これでユニットの剛性が高くなり液体の発泡などによる振動の影響を抑えることが出来るとともに、先端の細いクライオスタットと組み合わせて低温磁場中(~数T)でのSTM/STS測定も可能な設計になっている。(2)また圧電素子は低温になるとその圧電定数も小さくなり室温と比較すると感度は10分の1程度になってしまうので、室温で動作していたものでも低温では微調機構を改良しないと試料と探針がクラッシュが起こりやすくなる。そこで微調機構にステップモーターと差動式ねじとを組み合わせて、7nm/ステップという微調を可能にし、試料とのクラッシュを回避している。(3)トンネル電流検出回路系においては、試料部(低温)とプリアンプ(室温)が離れることによりS/Nがかなり悪くなってしまうが、二重シールドケーブルによる配線と蓄電池動作の安定なI-Vコンバーターを初段に置くことでかなりノイズを軽減することが出来た。一方トンネル分光法については、自作した高精度の微分回路をそのLTSTMに組み込むことでより安定なSTSの実験が可能になった。またトンネルプローブについては、先端の尖った探針をいかにして得るかということは極めて重要なことであった。実際に用いた探針はPtIr製で、機械研磨したものと電解研磨したものの二種類を用いたが、後者の方がより安定な像が得られた。電解研磨した探針の先端径は50nm程度である。  第3章では室温大気中のSTMを用いて、実際に幾つかの試料表面の観察を行い、その得られたSTM像を、X線構造解析より得られた結晶構造や電子顕微鏡写真などと比較することにより表面構造を調べた。  高配向性焼成黒鉛(HOPG)は炭素六員環が連なる層状構造を持ち、面内は強い共有結合、層間は弱いファンデルワールス結合により形成されている。そのため層間の劈開が可能で容易に清浄表面が得られるので標準試料に適しており、きれいな三角格子像を得ることによりSTMの動作確認を行う。この三角格子像は、第一層の炭素原子の直下に第二層の炭素原子がある場合とそうでない場合との違いによるもので、前者の場合に原子間引力によって第一層の原子が下方に引き込まれ、その結果三角格子になると解釈されている。  (BEDT-TTF)塩は、二次元層状構造を持つ有機超伝導体として知られており、その超伝導状態における局所的電子構造を調べることは超伝導機構を探る上で重要である。まず単結晶について、室温大気中で表面での分子の配列構造を調べ結晶構造解析との比較を行った。実験に用いた試料は、六種の(BEDT-TTF)塩の単結晶で、それらの結晶構造はX線回折よりすでに知られている。有機超伝導体としては10.4Kというかなり高い転移温度をもつ(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2における二次元面のSTM観察においては非常に鮮明な分子の配列が見られた。しかもバイアス電圧を逆転してもほぼ同じ像が得られたのでその電子構造は金属的であり、二次元のBEDT-TTF分子の配列を反映した像であると考えられる。X線回折より求められた結晶構造とSTM像とを重ね合わせると非常に良く一致しBEDT-TTF分子の配列を観察していることが確かめられるとともに、バルクの結晶構造が表面まで現れていることも明らかになった。この二次元面の横方向から観察したSTM像は全く異なっている。それはやはり構造解析の結果とよく一致しており、BEDT-TTFの金属層とCu(NCS)2の絶縁層が交互に積層している様子が確認できた。その他の塩((BEDT-TTF)2MHg(SCN)4;M=Cs,Rb,NH4,K))についても同様の観察を行い、結晶構造と非常によい一致を示す結果を得ている。  C60は炭素の作る5角形と6角形の面の組み合わせから成る分子でサッカーボールの形状をしている。この物質の単分子膜をHOPG基板の上にMBE法で作製しSTM観察を試みると、C60分子が基板上に配列しているのが観察できた。これはC60分子どうしの結合力およびC60分子とHOPG基板との相互作用によりエピタキシャル成長が起こり、一次元的に配列したものと考えられる。  絶縁性の有機物質をSTMで観察することは大変難しい問題であるが、ここではスピンコート法により作製されたフタロシアニン薄膜の観察において、よう素をドープすることで電気伝導度を向上させ、積層構造を確認することに成功した。  第4章では、STMを用いたトンネル分光の測定結果について述べる。  (BEDT-TTF)2KHg(SCN)4の単結晶について、二次元面に垂直な方向に沿ってトンネルプローブを少しずつ移動しながら各点でトンネル分光の測定を行うと、dI/dV-Vのスペクトルが直線的なものからV字型のスペクトルに変化した。1nmを過ぎると今度は逆の変化をし、走査方向の格子定数である2nmのところではほぼもとの直線的スペクトルに戻った。すなわちこれは二次元面に垂直な方向における局所的な電子構造の変化は、結晶構造だけでなく電子構造も金属層と絶縁層とが交互の積層した二次元的構造であることを直接証明したことになる。 90K級の超伝導転移温度を持つY-Ba-Cu-Oの単結晶においては、低温でトンネル分光を行い超伝導ギャップを調べた。Cu-O面内における10Kでのトンネルスペクトルは非常に安定で超伝導ギャップの大きさはΔ=29meV(2Δ/kTc=7.6)と大きな値を示した。今まで報告されてきた値は2~13と大きなばらつきがあるものの、試料の質や転移温度の決定法、そしてエネルギーギャップの測定法を考慮すると、我々の結果はかなり信頼性があると考えられる。  以上本研究においては、さまざまな新規機能性物質について大気中室温でそれぞれの特徴的な表面構造の観察を行うとともに、極低温用STM/STSの試作を行い、それを用いて超伝導状態の電子構造を調べた。, application/pdf, 総研大甲第47号}, title = {走査型トンネル顕微鏡法による機能性物質の表面および電子構造の研究}, year = {} }