@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00002671, author = {林, 海福 and リン, ハイフ and LIN, Haifu}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {   本研究は,日本の高等教育機関における工業デザイン教育方法論の課題を明らかにし,その解決方法を実証的に提示することを目的としている。デザインの考え方が製品開発において社会的に導入された1950年代以降,日本の高等教育機関では主に形態や色彩に関する機能主義的な教育が進められてきた。工業製品の開発過程におけるデザインの重要性が高まるにつれて,工業デザイナーに求められる能力も大きく変化している。諸外国のデザイン教育では,経営覚を育成する教育への転換が進められているが,日本ではまだそれに十分対応できていない。このような状況において日本の高等教育機関におけるデザイン教育が取り組むべき課題と,その解決に有効な学習法を明らかにする必要がある。
   第1章では,製品開発における工業デザインに対する社会的ニーズの歴史的変化と,それに伴うデザイン教育の変遷について論じた。産業と社会の発展によって企業がデザインに求めるものが広範化・高度化したため,それに対応できる人材育成の必要性が高まっている。しかし,このような社会環境に対応した人材の教育方法論の検討は,日本の高等教育機関では十分に行われていい。このために,現代社会で求められているデザイン能力がどのようなものであるかを明確にする必要性を指摘した。
   第2章では,工業デザイナーに必要とされるデザイン能力群とそこに含まれる各能力間の関連性を分析し,それに基づいて現行の工業デザイン教育の問題点を明らかにした。現場のデザイナーを対象として行った自己史年表を用いた回顧的半構造化インタビュー結果を修正版グラウンデッド・セオリー法で分析し,実践現場が必要とするデザインに関する能力群と個々の能力間の関連性を構造化したデザイナー成長プロセスモデルを構築した。そこから,工業デザインに関する全般的業務をこなせる水準のデザイナー(以下,プロフェッショナルデザイナー)に最も必要とされる能力は,市場調査や情報収集を踏まえて創造的なアイディアを創出する能力とプレゼンテーション能力であることを抽出した。前者には,意匠・技術・機能などの面から既存製品の特徴を分析できる能力(以下,製品分析能力)が必要不可欠である。米国,英国等のデザイン教育では,経営感覚を持つデザイナーの育成が重視されており,各製品の成長性や競争優位性を強化するための実施施策や製品構成最適化の検討を含む「製品分析」が重要な要素として含まれることが多い。ただし,その扱われ方は知識教育的であり,技能教育的ではない。そこで, 2010 年度時点で工業デザインコースがある全四年制/二年制短期大学でのデザイン教育において製品分析能力の育成がどのように行われているか,シラバス等をもとに授業内容を精査した。その結果,造形能力やプレゼンテーション能力の育成は多くの大学で取り組まれている一方,製品分析能力の育成に焦点をあてた教育内容が圧倒的に不足していることを見出した。製品分析能力を育成する具体的な教育方法を確立することは日本のデザイン教育の喫緊の課題といえる。
   第3章では,プロフェッショナルデザイナーとしての創造的なアイディア発想の基盤となる製品分析能力を育成する方法論を構築し,その効果を検証した。製品分析は多視点から効率よく行う必要があることを考慮し,分析項目リストを活用した学習法を考案した。これまでに提案されている数々の分析項目リストの中から,包括的かつシンプルで初心者の利用に適すると思われるMunari(1981)の分析項目リストを選択した。Munari は正確な分析結果を得るには客観性が重要であると指摘しているが,分析リストをデザイン教育に適用する方法は具体的に示していない。本研究では,少人数のグループによる学習により客観的な分析が促進されることを期待して,協調学習法を組み入れる方法を検討した。その効果を検証するために,デザイン学部の大学生を対象に,分析項目リストの有無と協調学習の有無という2要因を組み合わせた比較実験を行った。その結果,分析項目リストと協調学習を採用することによって,1)初心者である学習者でも多視点から製品を分析することが可能になり,製品分析のユニーク度が有意に高まる,2)製品の意図を理解することができ,製品改良の方向性が有意に明瞭になる,3)分析項目リストにより分析視点をガイドすることができ,協調学習によって製品に対する理解が深められることを実証した。
   ;第4章では,第3章で構築した学習法をより高度化するために,分析視点の提供と学習者の主体的な分析思考との相乗効果による学習効果の向上を目指した。そこで,学習への導入方法や分析項目リストの提示タイミングを検討し,学習法を改良した。大学生を対象に行った模擬授業によって実践評価を実施した結果,事前に学習法の目的を学習者が理解したうえで,学習者に十分な思考時間を与えた後に分析項目リストを提示することによって,製品分析の視点および分析の質がともに高まることを見出した。さらに,製品分析の実施は,製品に関する問題点の発見だけでなく,新規のアイディア創出にも効果があることを見出し,創造的アイディア発想における製品分析能力の重要性を明らかにした。
   第5章では,これまでのまとめを行い,今後の課題を検討した。デザイン教育に製品分析学習が含まれていない日本の現状において,本研究の成果を高等教育のカリキュラムの中にどのように具体的に取り入れていくかは今後の課題である。また,製品分析では,分析対象となる製品の性格によって分析視点が多少異なるため,分析対象に応じたカスタマイズ方法の検討も必要である。また,高度化・複雑化していく工業デザインにおいて,本研究での対象以外の「調整力」や「マネジメント力」などの育成が重要なこともいうまでもない。したがって,工業デザインにおける学習法は,社会のニーズの変化に応じて繰り返し見直していく必要があり,それに対応しうる柔軟性が工業デザイン教育には重要と考える。, application/pdf, 総研大甲第1447号}, title = {日本の工業デザイン教育における製品分析学習法に関する研究}, year = {} }