@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000277, author = {鈴木, 厚志 and スズキ, アツシ and SUZUKI, Atsushi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {序論  サッカーボール構造を示すC60と強い電子供与体であるTetrakis(dimethylamino)-ethylene(TDAE)との電荷移動錯体が転移温度T=16K以下で磁化率の急激な上昇を示すことがWud1らのグルーブによって初めて報告されたが、強磁性体特有の現象であるヒステリシスや自発磁化は存在しないのではないかと言われてきた。また、この強磁性体の磁化機構について幾つかの研究グルーブによって遍歴強磁性体、超常磁性体、スピングラスなど様々なモデルが提案されているが、どれも結論に至っていない。そこで本研究では、この系の磁性の本質を明らかにするために、まず磁性測定上の問題点として特に非常に低い磁場下の挙動を明らかにすること、及び試料そのものの問題点として従来の粉末試科に代わる単結晶試料を作製することを試みた。即ち、十分な弱磁場下での等温磁化曲線及ぴDC/AC磁化率を精密に測定すること、さらには十分注意深く設定された電磁場下での自発磁化の観測を行った。又、単結晶試料は二成分溶液の拡散法を用いて育成することを行った。  C60(TDAE)錯体では、電子が一個TDAEからC60へ移動した電荷移動錯体を形成していると考えられるから、金属的な導電性ををもついわゆる遍歴性強磁性体の可能性が指摘されてきた。ところが、導電性に関する本格的な研究はなされておらず、初期的段階の実験として粉末試料による結果が二例あるのみである。そこで、本研究では、上述の拡散法により育成されたC60(TDAE)結晶を用いてその導電性、特に抵抗率の温度依存性に着目した実験を行った。  一方、電子供与体(ドナー)を変えることによってその錯体の磁気的挙動がどのように変化していくかを調べるために、TDAEをそれよりもさらに電子供与性の強いTetramethyl-bi‐imidazole(TMBI)に変え、構造評価や磁気測定を行った。 実験  C60錯体の粉末試料は、Ar雰囲気下でC60(15mg)と過剰のTDAE(東京化成)又はTMBIトルエン溶液とを一晩反応させて行った。得られた黒色の反応物をへキサンで洗浄を行い、未反応のTDAE又はTMBIを取り除いた。反応物をAr雰囲気下で石英管に移し、40時間以上真空(1x10 6Torr)下で排気した後に封管した。  磁性測定はSQUlD型マグネトメーター(Quantum Design社MPMS-2)を用いて弱磁場(分解能0.4G)下、電磁場下で行った。また、この装置を用いて、低周波数(17.0Hz)の交流磁化率の測定も行った。標準試料(CuSO4-5H20)を用いて超伝導磁石自身の残留磁化のチェックも行った。育成されたC60(TDAE)の単結晶の形態、結晶性および構造評価は実体顕微鏡(40倍)とX線振動写真法(理学電機製)を用いて行った。C60(TDAE)単結晶の電気抵抗率の測定は二端子法で行った。 結果及び考察  本研究では、C60(TDAE)錯体の磁化が大変小さいことから自発磁化や保磁力は非常に小さいであろうと考え、今まで報告されてきたものよりも非常に弱い磁場領域での測定を行った。即ち、温度T=5K、磁場領域(~20G)の等温磁化曲線を精密に測定した結果、磁場領域10G以下において非常に弱いながらもヒステリシスが存在していることを見い出した。この曲線から残留磁化Mr=1.7251xl0:-2emu g1、保持力Hc=1.6Gの値が得られた。保磁力の値からこの強磁性体は磁化されやすく消磁されやすい強磁性体であるといえる。等温磁化曲線のヒステリシスの大きさや傾きは温度の上昇と共に小さくなり、ついには温度T=15Kでヒステリシスのないわずかな傾きしかもたない直線となり、典型的な常磁性体に転移する。また、この挙動は交流磁化率の測定によってもはっきりと示された。即ち、交流磁化率の実数項m’(ヒステリシスの電磁場近傍における磁化の傾きに対応する)は温度T=16Kで急激に増加し、温度T=10K近傍で極大値を示した後に徐々に減少した。交流磁化率の虚数項m’(ヒステリシス損失に対応する)も同じように温度T=16Kで急激に増加した。従って、温度T=16K以下で磁気相転移が存在し、その温度以下においてヒステリシスが存在することが初めてはっきりと示されたいえる。さらに本研究では自発磁化の決定的な証拠を得るために電磁場における磁化の温度依存性の測定も行った。その結果、電磁場下での磁化及び、無残留磁化ともに温度T=13Kで急激に変化し、この温度以下で自発磁化が生じることが分かった。以上の結果から、C60(TDAE)錯体は温度T=13K以下でヒステリシス、自発磁化、無残留磁化、保磁力を有することが初めて明らかとなった。  また、相転移点以上の電子スピンの挙動を明らかにするために高温領域(常磁性相)の磁化率xについて詳しい解析を行った。その結果、磁化率の温度変化は、温度に依存しない磁化率x。(Pauli常磁性的挙動)と負のWeiss温度(θ=26.2K)を持ったCurie‐Weiss則に従う磁化率との和で表されることが明らかとなった。なおCurie定数から求められるスピン濃度はNc=1.0x1023spins mol1であった。  一方、C60(TMBI)の磁化率の逆数x1の温度変化は、C60(TDAE)の場合と異なり非常に直線的であり、Weiss温度θ~-2Kを示している。解析を行った結果、温度に依存しない磁化率x0とC60(TDAE)よりも弱い負のWeiss温度θ=-1.85Kを持ったCurie-Weiss磁化率との和に従うことが分かった。Curie定数からスピン濃度4.2781xl021spins mol 1が得られた。この錯体の温度T=5Kの等温磁化曲線は高磁場、低磁場領域ともにヒステリシスを示さず、強磁性体にはならないことが示された。従って、このようなC60錯体において電子供与体の種類を変えることによってその磁気的挙動は著しく変化することが分かった。  拡散法によって育成された“結晶”について実体顕微鏡を用いてその形態を観察したところ針状と板状の二種類の“結晶”が存在し、中には針状のものが集まりブロック状の塊を示すものがあった。これらの“結晶”のX線振動写真にけ、広角側に弱いストリークが出ているが、強いスポットも数多く観察され結晶であることが分かった。従って、この方法を用いることによってC60(TDAE)の単結晶を作成することが可能となり、現在ではさらに良質のサイズの大きい結品を作成するために溶媒、温度等の作成条件について検討を行っている。  この強磁性体が遍歴強磁性体であるかどうか明らかにするために先の方法にて育成したC60(TDAE)単結晶を用いて二端子法によりその導電性を測定したところ室温の抵抗はρ~105Ωを示し、その温度依存性は半導体特性を示した。従って、C60(TDAE)は遍歴強磁性体とはいえない可能性がある。, application/pdf, 総研大甲第126号}, title = {C60電荷移動錯体の特異な磁性の研究}, year = {} }