@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000283, author = {兒玉, 健 and コダマ, タケシ and KODAMA, Takeshi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {C60の構造は、Ih点群に属する。Ih点群は正20面体が属する点群であり、C60の示す性質は、この高い対称性を反映して独特である。高い対称性は分子軌道にも反映して、例えば、最高被占軌道(HOMO)は5重に縮退しており、また、最低空軌道(LUMO)は3重に縮退している。C60-では1個の余分な電子が3重に縮退したLUMOに入る。この時、電子状態は3重に縮退することになるが、ヤーン・テラー効果により、Ih構造は安定でなくなり、より対称性の低い構造へ変化する。この効果を含めたC60-の電子状態・分子構造を分光学的手法を用いて明らかにすることを目的とし、一つは、気相における孤立状態でのC60-に対して、もう一つは、C60-を含む塩の単結晶中(結晶場のはっきり規定された状態)でのC60-に対して分光測定を行った。  C60-に関するこれまでの分光研究というのは、すべて凝縮相中のものであり、孤立状態での研究例はない。C60-に本来的に備わっている性質を明らかにするためには、気相の実験は、必要不可欠であると考えられ、C60-の気相における吸収スペクトルを共鳴多光子電子脱離(REMPED)法を用いて測定することを試みた。以下にREMPED法の説明をする。C60の電子親和力は約21400cm-1と報告されている。この電子親和力はC60-の電子基底状態から第1電子励起状態への励起エネルギー約9300cm-1の2倍よりも大きな値である。したがって、近赤外領域のレーザー光によりC60-を励起すると3光子を吸収することにより電子が脱離する過程が起こると考えられる。また、励起光のエネルギーが第一電子励起状態への励起エネルギーに適合すれば、共鳴効果により電子脱離の効率が増大することが予想される。ここで共鳴中間状態からの電子脱離の効率が励起波長によらないという仮定をおけば、電子が脱離する3光子過程の効率を支配するのは第1段目の第1電子励起状態への共鳴過程であり、従って電子の脱離した中性のC60をモニターすることにより得られる3光子過程の効率は、結果としてC60-の第1電子励起状態への吸収の効率を見ていることになる。実際に得られたREMPEDスペクトルは、期待されたように近赤外領域に立ち上がりを持つバンドを有した。しかしながら、残念なことに今回の実験条件において得られたC60-のビームの温度が高かったために非常にブロードなスペクトルとなってしまい詳細な分光学的知見を得るには至らなかった。将来的には、ビームの温度を下げることにより、鋭いスペクトルが得られるようになれば、C60-におけるヤーン・テラー効果などについて解明することができるようになるだろうと期待される。REMPED法が気相のアニオン種に対する分光手段として有効であることを次の2例について示した。第1の例として、C60-の場合と同様にしてC70-のREMPEDスペクトルを測定した。その結果、1300nm近辺にブロードなバンドが得られた。このバンドはこれまでに電気還元法、マトリックス法などを用いた凝縮相の実験においても報告されている。このバンドの帰属に関しては、基底電子状態が2A1"か、それとも、2E1"であるかによって議論が分かれていた。電子状態計算においては、二つの状態のエネルギーが近接しているため、どちらが基底電子状態であるかはっきりしたことが分からない。基底電子状態が2A1"であるとした場合は、この近赤外領域のバンドが許容遷移であるためには、溶媒、あるいは、カウンターカチオンといった外場の影響による分子構造の歪みを考える必要がある。しかし、今回の気相の実験においてこのバンドが確認されたことから外場の影響によるものではないと考えられる。一方、基底電子状態は2E1"であるとすれば、そのような外場の影響を考えなくても近赤外領域に許容遷移が存在することを説明できる。第2の例として、レーザー蒸発法によりC70からフラグメンテーションを起こして生成した質量数720ア二オン(実験式ではC60-)に適用した。先に得られたC60-のREMPEDスペクトルと比較して、その分子構造を対称性の高いIh構造と予想した。  以上は気相における孤立状態のC60-について実験であったが、次のC60-を含んだ塩の単結晶[(C6H54P]2[C60][X]x(X=C1,Br,I)に関する実験について述べる。単結晶を用いることは、はっきりと規定された結晶場中でのC60-の分子構造・電子構造を研究する点で有用である。単結晶は電気還元の手法を用いて作成した。得られた単結晶をX線構造解析したところ、ハロゲン元素の種類に関わらず結晶の構造は同じI4/ mであった。C60は、結晶中の4回対称性を持つ位置にあるのだが、C60自体は4回対称要素を持たない。したがって、この結晶中におけるC60-にはC2軸に関して互いに90度回転した2種類の配向が存在することが分かった。一方、極低温(約4K)におけるESRにおいて、2本のピークが見られた。この2本のピークは、二つのg因子テンソルに由来するものであることが、X-バンドとQ-バンドの実験結果より分かった。そこで、サファイアのロッドを用いてセルを自作し、単結晶であることを利用して極低温における角度変化ESR測定を行い、2種類のESR信号それぞれについてg因子テンソルの主値と主軸方向を決定した。その結果、二つのg因子テンソルは、主値が互いに等しい長軸方向に伸びた回転楕円体であり、長軸同士が直交していることが分かった。温度変化ESR測定の結果、2本のピークが温度が上がるに連れて平均化されていき約80Kで1本のピークになることが確認された。このことから、二つのg因子テンソルの間の平均化を生じるような何らかの機構が存在することが推測された。分子全体の回転がこの機構に相当しないことは、約80Kにおける回転の速さが二つのg因子テンソルの異方性を平均化するに足るほど速くないという他のグループの13C-NMRの結果から結論された。代わりに一つの配向において二つの歪み構造が存在し、そのそれぞれの歪み構造に二つのg因子テンソルがそれぞれ対応していると考えることにより、ESRの温度変化とX線構造解析の結果を無理なく同時に説明することができるということを示した。g因子テンソルの主値についての定性的な考察からは、歪み構造についての推測をすることができた。また、この結晶をKBrに分散したものの吸収スペクトルや蛍光スペクトルの振動構造解析の結果も併せて構造について議論した。, application/pdf, 総研大甲第190号}, title = {フラーレンのラジカルイオンの分光学的研究}, year = {} }