@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000306, author = {山本, 晃司 and ヤマモト, コウジ and YAMAMOTO, Kohji}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {タンパク質のフォールディング・アンフォールディング構造転移ダイナミクスの解明は、重要な問題のひとつである。この構造転移ダイナミクスを研究する方法として、ミックスト・フロー法やストップト・フロー法を用いた、温度ジャンプ・pHジャンプ・濃度ジャンプなどが反応スタートトリガーとして用いられてきた。しかし、従来の方法では、装置限界として、サブミリ秒の不感時間が存在し、ナノ秒からマイクロ秒での速い時間領域での構造転移に関する情報を得ることができなかった。この問題の克服には、高速な反応スタートトリガーとしてレーザー誘起温度ジャンプを用いる方法が有効である。レーザー誘起温度ジャンプの時間分解能は、レーザーのパルス幅と励起(電子または振動)分子の熱平衡化に要する時間により決定する。このため、構造転移開始後、数十ピコ秒の追跡が可能である。最近、この方法がポリペプチドやタンパク質に適用され、熱フォールディング・アンフォールディング構造転移反応の初期過程追跡が行われてきた。しかし、これらの研究は、タンパク質中のトリプトファン残基の蛍光測定や骨格の振動に由来するアミド I の赤外吸収測定に限られている。このため、タンパク質の構造安定性に強く関係するジスルフィド結合などの側鎖の構造変化は未だに不明なままである。  本研究の目的は、近赤外レーザー誘起温度ジャンプによりタンパク質の構造転移を開始し、時間分解ラマン分光法を用いて構造転移ダイナミクスを解明することである。ラマン分光法の第1の特色は、ほぼ全ての波数領域で水中のタンパク質の測定が可能なことである。ラマン散乱測定において、水のラマン散乱強度は非常に弱いため水の妨害を受けにくい。このことは赤外吸収測定において、水の強い吸収による妨害により測定できる波数領域が限られることと対照的である。第2の特色は、タンパク質側鎖の変化を直接観測することが可能なことである。ジスルフィド結合やメチオニン側鎖は、ラマン散乱に特異的かつ構造に敏感なバンドを与える。また、チロシン側鎖は水素結合性に敏感なバンドを与える。それぞれのバンドの情報を、一度に測定することが可能である。これらの特色に加えて、ストークス光とアンチストークス光の散乱強度比から試料の温度上昇を直接測定することが可能なことが挙げられる。近赤外レーザー誘起温度ジャンプ法と時間分解ラマン分光法を組み合わせた手法は、タンパク質の構造転移ダイナミクスの追跡に限られた手法ではなく、広く熱励起反応ダイナミクスの追跡に応用できる手法である。  本研究において、(1)時間分解ラマン分光法に適用可能な温度ジャンプ装置の製作および装置の性能評価と(2)この装置をウシ膵臓リボヌクレアーゼAに適用し、熱アンフォールディングの初期過程の追跡を行った。これは、この手法をタンパク質への適用に成功した世界で初めての報告である。 温度ジャンプ装置の製作と性能評価  水の近赤外吸収を利用して、近赤外パルス光を入射することにより水の加熱を行った。以後、レーザー誘起温度ジャンプに用いる近赤外光をビート光と呼ぶ。ビート光として、Q-スイッチ Nd:YAGレーザーの基本波を水素ガスまたは重水素ガスでラマンシフトした波長1.89μm、1.56μmのパルスを用いた。水素でシフトしたビート光は、通常用いられる単一パス法により温度ジャンプに必要な強度を得ることができた。一方、重水素でシフトしたビート光は、単一パス法では十分な出力を得ることができず、誘導ラマンシード増幅法によりはじめて温度ジャンプに必要な強度を得ることができた。試料を均一に加熱するため、ビート光を試料の双方向から入射した。さらに、試料の厚さは水の吸光係数により制限されるため、1.89μmビート光では100μm,1.56μmビート光では2mmの厚さにした。温度プローブ分子として1.5Mのモリブデン酸水溶液を使用し、ラマン励起光にはもう1台のQ-スイッチ Nd:YAGレーザーの2倍波を用いた。ビート光とラマン励起光の遅延時間を変えて時間分解スペクトルを測定し、ストークス光とアンチストークス光の散乱強度比から試料の温度を計算した。この結果から、ビート光による温度ジャンプが、ビート光のパルス幅(9ナノ秒)で達成されることを直接確かめることができた。温度ジャンプ幅は、1.89μmビート光では30℃、1.56μmビート光では9℃であった。温度ジャンプ測定の長時間限界は熱拡散によらず、加熱された試料の交換により決まることが分かった。 ウシ膵臓リボヌクレアーゼAの、アンフォールディング初期過程の追跡  ウシ膵臓リボヌクレアーゼAは熱フォールディング・アンフォールディングが可逆的に起こることで知られている。熱アンフォールディングに伴い、リボヌクレアーゼAのラマンスペクトルはS-S伸縮振動バンド、C-S伸縮振動バンド、チロシンダブレット、活性部位についた硫酸イオンのバンドが大きく変化する。S-S伸縮振動のバンドシフトはジスルフィド結合の立体配座の転移、C-S伸縮振動バンドの強度減少はC-C-Sの立体配座の転移、チロシンダブレットの強度比変化はフェニル水酸基への水素結合の強さの変化、硫酸イオンのバンド強度増加は硫酸イオンの活性部位からの遊離による。これらをタンパク質構造のマーカーバンドとして、リボヌクレアーゼAの熱アンフォールディング過程の追跡を行うことができる。  まず、温度ジャンプに1.89μmビート光を用い、リボヌクレアーゼAのラマン測定を試みた。しかし試料の厚さが100μmであるため、タンパク質の十分なラマン散乱強度を得ることができなかった。そこで、試料を2mmの厚さで測定を行うことができる1.56μmビート光を用いて、温度ジャンプを行った。時間分解ラマン測定は、59℃、pH 5.0のリボヌクレアーゼA水溶液に9℃の温度ジャンプを行い、遅延時間200 ns、100μs、5 msで行った。温度ジャンプ後5 ms以内の時間分解ラマンスペクトルでは、S-S伸縮振動およびチロシンダブレットのバンド変化は観測されなかった。一方、C-S伸縮振動のバンド強度減少は200 nsで、また硫酸イオンのバンド強度増加は100μsで観測された。これらの結果は、リボヌクレアーゼAの熱アンフォールディング過程が二状態転移で起こるのではなく、タンパク質の部位により異なった複数の転移から成ることを示す。X線により得られた立体構造との比較から、熱アンフォールディング初期過程で変化した残基は活性部位の近くに存在し、変化しなかった残基はジスルフイド結合の近くに存在すると推察される。このように動き易さの異なる部位がタンパク質分子内に存在することが、活性に深く関係していると考えられる。, application/pdf, 総研大甲第448号}, title = {Construction of a Novel Nanosecond Temperature Jump Apparatus and Its Application to Time-Resolved Raman Studies on Protein Dynamics}, year = {} }