@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00003101, author = {飯塚, 拓也 and イイヅカ, タクヤ and IIZUKA, Takuya}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {  強相関物質の1つである重い電子系物質群は,フェルミ準位近傍の局在電子と伝導電子の混成効果によって,磁気秩序(局在)状態から量子臨界点を経由して非磁性(遍歴)状態へ変化する。この量子臨界点近傍では非BCS超伝導などの興味深い物性が出現するため,その起源の研究が現在盛んに行われている。本研究で出願者は,量子臨界点近傍での電子状態を直接観測して物性の起源を調べることを目的として赤外・テラヘルツ領域の光学伝導度スペクトルの温度・磁場・圧力依存性を測定した。これらの外部摂動によるスペクトルの変化から,局在から遍歴状態への電子構造変化を明確にした。   重い電子系と呼ばれる希土類を含んだ物質は,伝導電子の有効質量が電子の静止質量のものより,最大で1000倍程度まで重くなる事から名付けられている。これまでの研究によって,フェルミエネルギー近くに現れる局在した4f電子と伝導電子との相互作用(近藤効果)が重い電子(遍歴)の起源であることが分かってきた。一方で,磁気モーメントを持つ希土類の4f電子は,RKKY相互作用と呼ばれる伝導電子を介した超交換相互作用によって磁気秩序(局在)状態に転移する。この近藤効果とRKKY相互作用は,伝導電子と4f電子間の混成(c-f混成)の大小によってどちらが律則になるかが決まる。その境界では,磁気転移温度が0 Kになり(量子臨界点),その近傍では,非BCS超伝導や非フェルミ液体などの示唆に富む物性が出現する。この量子臨界点近傍の物性の起源を明らかにするために,電気伝導度や比熱などのマクロスコピックな測定から,磁気的構造を見る非弾性中性子散乱,四極子秩序などの測定,そして本研究でもちいた光学伝導度スペクトルや光電子分光などの電子構造を調べる手法など様々なアプローチで,世界的に研究が進められている。   量子臨界点での電子構造を調べるためには,圧力や磁場によってc-f混成強度を変化させて局在から遍歴に至る状態を作り出し,系統的に調べることが重要である。c-f混成を圧力で変化させる方法として,元素置換により結晶構造を保ったまま格子定数を変える方法(化学圧力)と,外部から試料に圧力を加える方向(物理圧力)がある。前者は比較的大きな試料を作ることができるため,広く用いられている。しかしながら,元素置換による不均一性の効果を考慮する必要があり,解釈を困難にしている。一方で後者は,実験環境を保ったまま,その場で同一の試料についてc-f混成強度のみをコントロールできるというメリットがあるが,高圧セル内の微小試料空間での測定になるため,高度な測定技術が必要である。   これまでは,電子構造を直接観測する手法の1つである光学伝導度スペクトルの測定は,化学圧力によるアプローチが主流であったが,不均一性の効果が入るため,電子構造変化の解釈を難しくしていた。そこで出願者は,物理圧力や磁場によってc-f混成強度をコントロールし,量子臨界点近傍の電子構造変化を明らかにする事を目的として,高圧下及び磁場下での分光実験を行うことを計画した。   試料は,重い電子系金属のうち代表的なものとして,基底状態が反強磁性秩序(局在)で加圧によって非磁性状態へ転移するCeIn3と,基底状態が量子臨界点の遍歴側近傍に位置する重い電子系YbIr2Si2の二つを取り上げた。この2つの物質について,無摂動状態の電子構造について調べるために,3 meVから30 eVという広いエネルギー領域について反射 率スペクトルを測定した。赤外・テラヘルツ領域については実験室系の装置を用いて測定を行い,金蒸着補正を施すことで精度の高い絶対値を得た。可視-真空紫外領域についてはUVSOR-II BL7Bにおいて放射光を用いて測定した。こうして得られる反射率スペクトルから,Kramers-Kronig解析より光学伝導度スペクトルを導出した。この無摂動状態の結果を踏まえ,それぞれ圧力・磁場による外部摂動に対する光学伝導度スペクトルの変化を測定し,電子構造について議論した。   まず,CeIn3の圧力印加によるc-f混成強度のコントロールに対する電子構造の変化を調べた。この物質は,常圧下では反強磁性転移温度(Néel温度)が約10 Kであるが,圧力の印加に伴ってNéel温度は下がっていき,およそ2.6 GPaにおいて0 Kになり(量子臨界点),それ以上の圧力では非磁性の重い電子状態に移行する。この物性変化を生み出す電子状態の変化を調べるために,低温・高圧下での赤外・テラヘルツ領域の光学伝導度スペクトルの測定を行った。常圧での CeIn3の光学伝導度スペクトルの温度依存性において,30 K以下からc-f混成ギャップとみられる肩構造が,テラヘルツ領域の約20 meVで現れることが明らかになった。この結果はCeIn3の直流伝導度が重い電子の形成によって低温で増大するという報告と一致している。つまり,光学伝導度スペクトルで観測された肩構造はc-f混成の形成に伴って成長する混成ギャップ間の光学遷移が観測されたものであり,直流伝導度の増大は,重い電子特有のフェルミ準位近傍に現れる準粒子の伝導バンドとして説明できる。この肩構造が圧力によって高エネルギー側へシフトすると予想された。   次に,低温・高圧下でのテラヘルツ分光を行うために,光学測定用のダイヤモンドアンビル型高圧セル(DAC),クライオスタット,放射光を用いたテラヘルツ顕微分光装置の開発・改良を行った。また,DAC内の試料サイズは数百ミクロンであり,汎用のフーリエ干渉計では輝度が足りないため測定が不可能であった。そこで,UVSOR-IIの赤外テラヘルツビームライン(BL6B)のテラヘルツ顕微ステーションで実験を行った。測定した領域は[120 cm-1 (14 meV) to 400 cm-1 (50 meV) ]である。こうして,テラヘルツ領域の反射スペクトルの圧力依存性を調べたところ,20 meV近傍に位置する混成ギャップが印加圧力の増加に伴いシフトする様子が世界で初めて観測された。これはc-f混成ギャップの大きさが混成強度の増加によって大きくなることに対応している。また,このc-f混成ギャップは反強磁性状態から表れ,重い電子状態へ連続的に成長する。反強磁性状態での電子状態を記述する理論として,c-f混成が残りながらスピン秩序が現れるスピン密度波(SDW)モデルと,c-f混成が消える近藤崩壊(KDB)モデルが提案されているが,本研究の結果は,SDWモデルを支持するものであることがわかった。   加えてc-f混成をコントロールするもう一つのアプローチとして,YbIr2Si2の低温・高磁場下の電子構造変化を調べた。YbIr2Si2は,量子臨界点近傍に位置する重い電子物質である。この量子臨界点近傍では,c-f混成バンドが大きな磁場依存性をもつことが理論的に予測されていた。そこで,この物質の磁場下の光学伝導度スペクトルの測定を行い,磁場下の電子構造の変化を調べた。その結果,磁場印加によって,準粒子の有効質量の減少(12 ± 5 %)を観測した。この結果は,c-f混成バンドが大きな磁場依存性を持つことを支持している。, application/pdf, 総研大甲第1475号}, title = {強相関電子系の多重極限下電子構造}, year = {} }