@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000315, author = {石内, 俊一 and イシウチ, シュンイチ and ISHIUCHI, Shun-ichi}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {近年のレーザーの進歩により赤外領域の強力な波長可変パルスレーザーが使用可能となってきた。本研究はこの波長可変赤外レーザーと波長可変紫外レーザーを組み合わせた多重共鳴レーザー分光法を開発して、従来測定困難であった孤立分子の高振動状態及び孤立クラスター内反応の反応中間体の赤外スペクトルの測定を可能とし、分子内振動緩和(IVR)及び反応機構を明らかにしたものである。  化学的に興味のある大きな分子を振動・電子励起した場合、IVR過程は励起分子の時間発展初期過程として極めて重要である。又、電子励起状態、基底状態の低振動領域を中心に超音速ジェット中の孤立分子に対する分光学的研究が行われてきた。一方、近赤外領域に観測される高振動状態では、振動エネルギーが1つの化学結合に局在化したローカルモードと呼ばれる状態が存在しており、レーザーによる反応制御という観点から古くより注目されてきた。しかし、ベンゼン誘導体などの大きな分子に関して、衝突や分子間相互作用がない超音速ジェット中の孤立分子状態で観測した例は極めて少ない。これは高振動状態の吸収断面積が極めて小さいため、直接吸収のような従来の赤外分光法では希薄な超音速ジェット中での測定が困難だからである。著者らはNID-IR(Nonresonant Ionization Detected InfraRed)分光法を独自に開発し、これを用いて超音速ジェット中のフェノール分子の高振動状態を初めて観測し、IVR機構を明らかにしている。  もう1つのテーマである反応過程として、最近可能性が指摘されたフェノール・アンモニアクラスターにおける水素原子移動反応が取り上げられている。フェノール・アンモニアクラスターはこれまで電子励起状態におけるプロトン移動反応のモデルとして研究されてきたが、最近、水素原子移動反応も競合している可能性が指摘された。著者は新しいIR-UV多重共鳴分光法を開発し、反応生成物の振動スペクトル及び電子スペクトルの測定に適用した。これにより、水素原子移動反応を実証した。  以下、論文の内容について簡単に説明する。本論文は6章及び付録より構成されている。  第1章では研究の目的及びその意義、学問的位置づけについて述べられている。第2章では超音速ジェット(分子線)中での赤外分光法の概略が述べられている。著者が用いた分光法(NID-IR分光法及びIR-UV多重共鳴分光法)がこれまで用いられてきた分光法と比較してどのような利点があるかを解説している。また、最近開発された他の分光法についても述べられている。第3章では実験方法について詳論している。実験装置はレーザー装置、超音速ジェット及び分子線発生装置、質量分析装置の3つの部分から構成されている。特にレーザー装置では、まだあまり一般的ではない波長可変赤外レーザーが用いられており、この発生原理及び方法について詳細に解説されている。第4、5章で各研究の経緯と実験結果及び考察が述べられている。第6章では総括及び今後の展望について論じている。  第4章ではNID-IR分光法を用いた孤立フェノールの高次倍音におけるIVRについて論じられている。NID-IR分光法は以前に著者らが開発したIR-UV二重共鳴法の一種で、極めて高感度な赤外分光法である。これは、赤外レーザーで生成した振動励起分子のみを選択的に紫外レーザー2光子でイオン化し観測するという方法である。ポイントとしては振動励起分子のイオン化効率が高くなるような条件を作ればよく、例えば紫外レーザーの波長をイオン化ポテンシャルの半分よりもわずかに小さいエネルギーに固定する。すると、零振動状態の分子は紫外レーザー2光子ではイオン化されないが、振動励起分子は初期エネルギーをもっているため紫外光2光子を吸収してイオン化ポテンシャルを越えることができイオン化される。ところが実際には、紫外レーザーの波長をイオン化ポテンシャルの半分よりも大きいエネルギーに固定し零振動状態の分子が2光子吸収でイオン化されないようなレーザー強度にしておいても、やはり振動励起分子のイオン化効率が高いことが明らかになった。そこでまず、振動励起分子の高いイオン化効率の原因、つまりNID-IR分光法のイオン化メカニズムについて実験結果を交えて考察されている。次にIVRの考え方について概観し、時間領域と振動数領域の関係、Bixon-Jortoner理論、階層モデルについて解説されている。その後、フェノールのOH伸縮振動の高次倍音のNID-IRスペクトルについて考察している。OH伸縮振動の4倍音までの観測に成功したが、OH振動のバンド形状を調べると、振動量子数の増加に伴いバンド幅が減少することが分かった。緩和先である暗黒準位(光学遷移不活性準位)の状態密度は振動エネルギーに伴い指数関数的に増加していくので、高次倍音では速いIVRが予想され、バンド幅が広がるものと考えられるが、実際にはこれとは逆の現象が観測されたのである。このような一見理解しがたいIVRのメカニズムを理解するために、各種のフェノール重水素置換体のNID-IRスペクトルを測定し、OH(OD)伸縮振動のバンド形状を調べた。その結果、置換位置によってバンド幅の変化の仕方が異なることが分かった。またいずれの場合でも、高次倍音における急激なブロードニングは観測されなかった。これはOH振動が限られた数の暗黒準位とカップリングしていることを示している。重水素置換体の結果を基にどのような状態がOH伸縮振動と強くカップリングしているのかが考察された。その結果、OH伸縮振動1量子が他のモード2量子或いは3量子に転換する過程が重要であり、このような状態にはCH振動が関与しているものが多く、CHの重水素置換に対してIVRが敏感に変化することが明らかにされた。  第4章後半でNID-IR分光法によるカテコールのIVRに関する研究について述べられている。カテコールはオルソ位にもう1つのOH基をもつフェノール誘導体であり、2つのOH基の間で分子内水素結合を形成している。つまり、この分子が取り上げられた理由はIVRに対して分子内水素結合がどのような効果を引き起こすかを解明するためである。この場合も各種の重水素置換体に対して実験が行われている。振動量子数の変化に伴うバンド幅の変化はフェノールと同様のメカニズムで説明できることが明らかになった。一方、いずれの振動量子数においても、低振動数側にある分子内水素結合に関与するOH(OD)伸縮振動のバンド幅の方が広くなることが明らかにされた。これは同じメカニズムでは説明できず、水素結合形成に伴うポテンシャルの歪みが原因であると考えられている。さらに実験結果から、水素結合が高次倍音への遷移確率を低下させることが判明した。このことについても議論されている。  第5章ではIR-UV多重共鳴分光法によるフェノール・アンモニアクラスタ一の水素原子移動反応の研究について述べられている。はじめにこれまでの研究経緯の概略、本研究の目的及び意義が述べられている。続いて反応生成物の電子スペクトル及び振動スペクトルについて述べられている。これまでクラスター内反応による反応生成物の振動スペクトルは観測されたことがなく、3つのレーザーを用いるIR-UV多重共鳴分光法が新たに開発された。方法は第1の紫外レーザーで特定のサイズのフェノール・アンモニアクラスターをS1に励起し、生成した反応物に赤外レーザーを照射し波長掃引する。反応生成物のポピュレーションを第2の紫外レーザーによって生じるアンモニウム・アンモニアクラスターのイオン量としてモニターしておく。赤外レーザーの波長が反応生成物の振動遷移或いは電子遷移に共鳴すると、励起された反応生成物は前期解離するのでポピュレーションが減少する。つまり振動遷移或いは電子遷移をアンモニウム・アンモニアクラスターのイオン量の減少として観測できる訳である。このようにして測定された振動スペクトル及び電子スペクトルから反応生成物が水素原子移動反応で生成した水素付加アンモニアクラスター・ラジカルであることを確定させている。さらに、最近この系に関する理論計算が行われており、これらと比較し、帰属や計算の問題点が議論されている。最後に、反応のメカニズムや励起状態プロトン移動反応との競合を明らかにするために今後どのような実験をすべきかが議論されている。, application/pdf, 総研大甲第515号}, title = {IR-UV多重共鳴法によるフェノール及びその誘導体の分子内振動緩和とクラスター内反応の研究}, year = {} }