@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000326, author = {坪内, 雅明 and ツボウチ, マサアキ and TSUBOUCHI, Masaaki}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {<序> 時間分解光電子分光法は、高速反応の最も強力な研究手段の一つとして近年発展してきた。光イオン化はあらゆるスピン多重度の電子状態ならびにあらゆる核座標から許される、化学反応の万能な検出手段である一方、発生する光電子のエネルギー及び角度分布は電子状態や核波動関数の詳細を反映する。本論文で用いたフェムト秒時間分解光電子画像観測法では、三次元的に散乱する全光電子を同時観測することで速度角度二重微分散乱断面積を一度に得ることができる。そのため定量性の高い光電子エネルギー角度分布を効率良く得て、微細な時間変化を定量的に解析できるようになった。本論文では、ピラジンのS1状態からの電子位相緩和を光電子画像の時間変化として可視化し、一連の画像から得られた光電子エネルギー及び角度分布の時間変化に現れる回転波束の影響を詳細に解析して、(1)項間交差及び(2)S1状態やRydberg状態からのイオン化動力学を明らかにすることを目的とした。 <実験> よどみ圧500Torrの窒素中に2%ピラジンを混合させ、真空中に分子線として噴出させた。323nmのフェムト秒励起光パルスによりピラジンをS1状態ゼロ振動準位に励起後、遅延時間をおいて200nmまたは401nmのイオン化光パルスを照射し、[1+1'],[1+2']共鳴多光子イオン化(REMP I)によって光電子画像を観測した。 <項間交差> [1+1']REMP Iでは、励起光とイオン化光の遅延時間が短い場合、光電子エネルギー分布はS1状態のゼロ振動準位とイオン状態との間のFranck-Condon重なりを反映した。この振動構造は遅延時間と共に減衰し、広い幅を持つ低エネルギー成分が立ち上がった。後者はT1状態からのイオン化に対応する。T1状態はS1状態に比べ4056cm-1低エネルギー側にあるため、そのイオン化はカチオンの高振動準位に対して起こり、光電子エネルギーは低エネルギーとなる。  [1+2']REMP Iで観測された光電子散乱分布には、三つの強い異方性を持つ輪が観測された。高エネルギー側の二つの輪が時間と共に減衰する一方、最低エネルギーの輪は同じ時定数で立ち上がった。前者はS1状態からのイオン化、後者はT1状態からのイオン化に対応する。これらエネルギー幅が狭く鋭い角度異方性を持つ散乱分布は、[1+2']REMP Iのイオン化過程においてRydberg状態に偶然共鳴が起こっていることを示唆する。高エネルギー側の二つの輪はそれぞれ一重項3p2(1B1u)、3s(1Ag)Rydberg状態を経由したイオン化と帰属され、一方エネルギーの低い輪は三重項3s(3Ag)Rydberg状態からのイオン化である。[1+2']REMP Iスキームにおいて光電子画像を500fs毎に観測し光電子散乱分布の細かな時間発展を精査したところ、電子緩和に伴う減衰及び立ち上がりに加えて、鋭い強度変化が82ps間隔で観測された。この構造は、超短パルスによって複数の回転状態がコヒーレントに励起され発生する回転波束の再帰運動を表しており、82ps周期で生じる分子軸の整列に起因したイオン化強度の変動が現れた結果である。イオン検出による回転波束観測はこれまでにも行われているが、光電子画像観測法によって初めてイオン化過程の異なる成分の分離や一重項、三重項両者の回転波束の観測が実現された。またT1状態からのイオン化で観測された強度変動はS1状態で観測された変動より弱く、これは項間交差の際に回転波束の強度減衰が生じていることを示唆している。  この回転波束の動力学を理解するために、実験から得られた分子軸分布の時間発展を理論計算で再現することを試みた。S1状態の単一の回転状態とT1状態の複数の振動回転状態からなる部分系について、スピン軌道相互作用行列要素を摂動項に含む有効ハミルトニアンを対角化し、分子固有状態の組を計算した。次に、これらの状態をコヒーレント励起した後の位相緩和と、分子軸整列の時間発展を計算した。スピン軌道相互作用の大きさ及びT1状態の振動状態密度は位相緩和寿命の観測結果(τ~110ps)を再現するように選んだ。S1状態での分子軸整列の時間発展は、観測結果をほぼ完全に再現した。一方T1状態での分子軸整列の計算結果は、S1状態に比べて弱い再帰強度を定性的に再現することができた。しかしT1状態での分子軸整列を定量的には完全に再現することはできなかった。その原因の一つとして、計算ではピラジンを対称コマ分子として取り扱ったが、実際は非対称コマ分子であるためK準位の量子ビートが生じている可能性が考えられる。 <イオン化動力学> 実験室系で観測される光電子角度分布(LF-PAD)は、イオン化動力学及び 分子軸の空間分布の二つの要因に依存する。イオン化動力学は分子固定系(MF)で定義される量であり、LF-PADの観測では分子軸分布による平均化のため情報が減少する。イオン化動力学を理解するためには分子軸が空間に固定された状態での観測が理想であるが、光励起直後の弱い分子軸整列状態をうまく用いれば、定性的ではあるが分子固定系での動力学を解釈することができると期待される。[1+1']REMP Iにより遅延時間0psで観測されたLF-PADには、イオン化光の偏光に沿った成分(分子面外散乱)だけでなく垂直な成分(分子面内散乱)が観測された。遅延時間2.8ps後には分子軸分布はほぼ等方的になるが、この時観測されたLF-PADでは面内散乱の成分は消え、偏光に沿った二次の異方性の成分しか観測されなかった。一方[1+2']REMP Iでは中間Rydberg状態から電子が散乱されるため、観測される角度分布は[1+1']の場合とは大きく異なった。特に3s Rydberg状態からのイオン化ではレーザー偏光方向への強い異方性のみがみられ、またそのLF-PADの構造は遅延時間に対して大きく変化しなかった。[1+1']REMP Iでは、ピラジンS1状態のHOMO軌道であるπ*軌道から直接電子がイオン化連続状態に散乱されるのに対し、[1+2']REMP IではRydberg電子軌道を経由してイオン化される。Rydberg軌道のような原子状軌道からのイオン化では、偏光軸に対する分子回転の効果に鈍感であると考えられる。また軌道角運動量lに対する選択律〓l=±1が近似的に成立することから、3s(l=0)Rydberg軌道からはl=1のp散乱波が主に発生すると考えられ、この推論は観測された偏光方向への強い異方性と一致する。  さらに観測された光電子角度分布の時間発展と、その時間発展に対応する分子軸分布の計算結果とを比較することによって、任意の軸分布をなす系から散乱するLF-PADを計算した。散乱波の部分波展開を用いたモデル計算から、部分波間干渉がLF-PAD及びMF-PADに与える影響を考察した。時間分解しF-PADの観測から分子固定系でのイオン化動力学を決定することは原理的に可能であるが、数学的に許容な複数の解から物理的に意味のある解を抜き出すこと、多光子励起と複数のレーザー偏光の採用が不可欠であることが明らかになった。, application/pdf, 総研大甲第666号}, title = {時間分解光電子画像観測法によるピラジンの項間交差及びイオン化動力学の研究}, year = {} }