@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000033, author = {森本, 利恵 and モリモト, リエ and MORIMOTO, Rie}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {トンガの土地制度の特徴は、「割当地制度」にある。その現状は、第一に、王族地や貴 族地では、割当地の取得や利用に王族もしくは貴族の承諾が必要であり慣習的な面が強い。 第二に、近代化の過程で政府が新たに設けた土地の枠組み、例えば国立公園に関わる現状 をみても、政府の計画は実現されず、農民は翻弄されたままの状態にある。第三に、近年 の急激な人口増加で新たな割当地の取得が困難となり、制度の導入当初には一見明瞭だっ た「割当地制度」は、次第に制度的な問題を生み出し、実際の土地利用を複雑にしている。 本論は、海外移住や国際的な商品作物(カボチャ栽培)の導入をめぐって、グローバル化 の波にさらされるトンガ王国に焦点をあてた。王と政府が導入した土地制度を平民層の視 点から捉え直し、土地制度がどのように伝統的な価値観ともつれあいながら受容されてい ったかを、エウア島を対象に検討した。 第1章序論に続く、第2章では、トンガ王国の建国期から現国王にいたるまでの土地政策 についてまとめた。トウボウ1世は聖職者で書記官のベーカーと共に、封建領主として行 政の確立と土地への権力の組替えを行い、ノーペレ(貴族)称号の創設と従来のチーフ層 の権力の縮小に成功した。ベーカーがトンガを去った後は、王の親族が国王を支え、王と 親族関係を結ぶノーぺレが官僚を務め、王権を維持したトンガ人による独自の国づくりが 行われた。トンガの封建制は、トンガ社会が近代化への移行を採用しても、王族、聖職者、ノーぺレといった運営主体の枠組みの変更がない限り、今後も維持されると予測される。 一方、平民にとって土地制度の導入は、割当地制度の導入と村単位での行政担当人(村長、 地区長、伝統的なチーフの代わりの「土地を世話するチーフ」)の組替えに過ぎなかった。 従来、トンガの土地制度とチーフ制との関係は、トフィア(王族地と貴族地)を対象に行 われてき。本論では、トフィアに加えて政府地にも焦点をあてたことで、ノーぺレのタイ トル(称号)を持たないチーフ(ノーぺレ称号からもれたチーフ=「土地を世話するチー フ」)の存在と、彼らの村の統制の取り方が明らかにされた。 第3章では、土地に対する権力の組替えが平民に与えた影響について検討した。トンガは 世界システムの「最周辺」と称され、赤字の経済状況を移民による送金と外国政府によ る援助金で成立するという「MIRAB経済」の枠組みの中で捉えられてきた。1990年代以 降は、カボチャを中心とする換金作物を介した生活と、国内人口に相当する海外移住者の 増加に、拍車がかかっている。こうした農業をはじめとするグローバル化の影響は、調査 地エウア島のような離島に大きな変化を与え、平民層はその対応におわれている。 本論では、エウア島の平民層の土地利用の実態から、 ・幾つかの割当地では親族集団による共同的な土地利用が行われていること ・近代的あるいは個人主義的とされた割当地制度の下で、農民の土地運営の実情が、慣習  地的なものへと逆行していること ・トンガの土地制度と土地の利用や運用は、割当地制度の施行から今日に至るトンガの歴  史のなかで生み出されてきたものとして理解されねばならないこと ・平民層の慣習に即座に影響を与えたのは、政府の導入した土地制度よりも貨幣経済の浸  透とキリスト教の定着であったこと が明らかとなった。 第4章では、キリスト教の社会介入と土地との関係を検討した。キリスト教の定着は、伝 統的な作業集団を教会信徒で再編成した。平民層の教会活動は献金を捻出するための換金 作物栽培や信徒集団による借地が行われるなど、新たな枠組みがみられるようになった。 とはいえ、それらは宗教的行為の形式が変化したに過ぎず、従来の伝統的なチーフのもと で行われていた奉仕(「贈与=交換」と交換に伴う義務)のあり方と変らない。むしろ、所 属宗派への借地手続きを熱心に行う聖職資格者で役人の事例が示すように、教会側も土地 を財および力として必要としており、土地制度の運営と存続に影響を与えている。 第5章では、近年の平民層の土地についての様々な対応を示した。平民層の土地をめぐる 紛争の解決手段とその選択、あるいは土地をめぐる戦略を明らかにした。平民は王族や政 府の行いについて、公の場で不満を口にすることはない。それは平民が不満を口にしても 問題解決にはならないことを承知しているためである。王族による換金作物栽培への参加 や土地の確保は、村人を無視して一方的に行われる。土地裁判という公的な機会があって も、平民の申し出を納得させる判決でない限り、平民の不満の解消には至らない。それよ りも、平民の土地への執着や行き場のない不満に対する反抗は、彼らの行動に反映される。 平民層の様々な対応の事例は、「土地制度」が単に土地の割り当てや土地裁判の規定を定め た法に留まることなく、人々の間で「生きる法」として受けとめられ、読み替えられたこ とをあらわしている。 以上から、第6章ではまとめと考察を行った。トンガの土地制度の設置は、「土地」とい う共通項を介して、平民の土地に刻まれる「記憶」の組替え作業であったといえる。土地 を介して成立する負債関係の現状を、エウア島(トフィアと政府地で構成される)の調査 結果からまとめると、 ・領主である王よりも日常的に繰り返される教会との関係に傾斜しながら成立すること ・平民は王の来島によってその関係を一時的に再認識する。しかし、日常的な王の不在が  平民の記憶の薄れに繋がり、そのことが負債関係を希薄にさせていること ・村長や地区長といった近代的な行政官は機能しておらず、それと並立して全ての村に存  在する「土地を世話するチーフ」(ホウェイキ・タイプイフォヌア)がその仲介役を務める  こと が明らかとなった。つまり、王という強制的な権威(非相互的な性格をもつ)による土地 制度を通した記憶の組替え作業は、相互的な性格をもつ平民の日常的な社会生活には定着 せず、平民にとっての土地を介した負債関係は、人々の伝統的な価値観と実践される義務 行為によって読み替えられ、成立している。 その際、負債関係の担い手は、個人ではなく集合体(氏族・部族)であり、その契約に現 れるのは「道徳的人物」である。トンガの場合、それが親族集団の長であり、教会グルー プの長である、各村に存在する「土地を世話するチーフ」にあたる。王によって創設され た「土地を世話するチーフ」は、かつての政治的権威を保持する伝統的なチーフとトーキ ング・チーフの体系を維持すると同時に、各村の核となる親族集団の長と教会の幹部の 3 役を兼任する。彼らは、教会(宗教的権威)と王国(政治的権威)の村レベルの紐帯であ り、彼らは今後の王国と土坤制度の維持を左右する最も重要な要素として位置づけられる。 トンガでは経済制度の発達も十分ではないうちに、近代社会を成立させるための制度複合 の要素の一つとして、土地制度が適用された。このため、社会の近代化(=経済制度の発 展)を無視して施行されたこの近代的制度は、平民層に対して本来の機能(割当地制度や 土地裁判の規定)を果たしていない。むしろ、近代化に伴う「個人化」から生じる旧来の 形式や制度からの脱落者は、親族制度を基盤とする「土地を世話するチーフ」という伝統 的守護者の存在によって、少なく抑えられている。また、近年の平民層の新たな動向から、 土地制度が社会変動と深い関係を持ち、その中心要因が貨幣経済の浸透のために王族も新 しい土地の使い方を始めたことであると指摘できる。, 総研大甲第915号}, title = {トンガ王国の土地制度 -グローバル化のなかの伝統-}, year = {} }