@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000333, author = {高田, 正基 and タカダ, マサキ and TAKADA, Masaki}, month = {2016-02-17}, note = {ここ数年、有機分子を用いた発光素子やトランジスターに関する研究が活発に行われ、素子特性の高性能化のためには、金属電極と有機分子の接合界面の理解と制御が不可欠になっている。清浄表面における分子の吸着構造および吸着に伴う電子状態の変化に関する研究は、1980年代の超高真空技術の発展とともにさまざまな系について研究が行われてきた。特に1982年の走査トンネル顕微鏡(STM)の発明以降、原子・分子レベルでの界面の研究が飛躍的に進展している。STM像は探針下にある領域の、フェルミ準位からバイアス電圧までの範囲にある局所状態密度(LDOS)の重ね合わせである。バイアスを変化させるか、トンネル電流の電圧微分(dI/dV)を測定する走査トンネル分光法(STS)により、LDOSに関する知見を得ることができる。また、STSでは、探針位置を変えて測定することにより、LDOSの空間分布を明らかにすることができる。特に極低温環境下においては分子の拡散が抑えられ、有機分子を安定して観察することができるため、極低温STM/STSによる構造とLDOSの測定より、分子と表面の結合状態の原子レベルでの知見が期待できる。
 極低温STM/STSを用いた吸着分子の研究は、貴金属表面上の一酸化炭素やアセチレンについて、吸着構造および振動構造を主として報告されている。多原子分子の電子状態については、貴金属表面上のCの電子状態に関して報告例があるのみであり、端緒についたばかりである。本論文では、極低温STM/STSにより、表面に吸着した金属フタロシアニン分子(MPc)の構造と電子状態に関する研究を行った。
 MPcは耐熱性に優れ、昇華性を有することから、古くから真空蒸着による薄膜作製が行われてきた。電子線照射にも比較的強い耐性を示すため、透過電子回折による構造解析が古くから報告されている。蒸着膜の構造は、作製条件によって様々な多形を示すが、最も多く発現する構造はα型と呼ばれる結晶型である。MPc分子は4回対称性を有する平面型分子で、対向するベンゼン環を結ぶ「分子軸」を直線で表すと、クロス「+」で簡易表記できる。従来、α型の結晶構造は、個々の分子が、「+」の斜め45度方向に積層する(×型と呼ぶ)とされていたが、ごく最近、電子回折像の再検討により、0度(または90度)の分子軸方向に積層している(+型と呼ぶ)ことが報告されている。本研究では、まず実空間でこのことを明らかにするため、STMを用いて多層膜の配列状態を調べた。
 分子としては、中心にコバルトを有するコバルトフタロシアニン(CoPc)を用いた。マイカ上に金を蒸着して作製したAu(111)22x√3再構成表面を基板とした。10-7Pa以下の超高真空でCoPcを蒸着し、78KでSTM観察を行ったところ、分子は下地基板の原子配列の影響を受けたエピタキシャル構造をとることを確認した。1層目の分子は分子面を基板に平行にして稠密にパッキングしている。個々の分子の配向はすべて揃っており、分子軸は基板の[11〓]軸に平行である。エピタキシャル構造の単位ベクトルは、Au(111)22x√3再構成表面の単位ベクトルと整合しており、この整合性による安定化がエピタキシャル成長の要因になっていると思われる。2層目および3層目の分子は、下地の分子の真上に配置し、基板に対し[1〓0]方向にそれぞれ3度および4度傾いていた。分子軸は[11〓]軸に平行であり、STMの結果は、分子の積層は「+型」であるとの結果を支持した。
 2層目および3層目の分子では、1層目の分子で確認されなかった分子の内部構造を鮮明に確認することができた。また、バイアス電圧を変化させると、2層目および3層目のSTM像のコントラストが大きく変化した。このことは、1層目の分子の電子状態は基板の影響を受けているのに対し、2層目、3層目の分子は孤立しており、離散状態にある分子軌道のバイアス依存性が顕著に現れたものと考えられる。
 1層目の分子が金属基板の影響を大きく受けることから、金および銅表面上に吸着したCoPcを対象として、5Kの極低温においてSTMおよびSTSにより、金属基板との相互作用を議論した。
 AU(111)面上のCoPc分子のdI/dVスペクトルでは、バイアス電圧-2Vから+2Vの間に4つのピーク(-0.75eV、-0.5eV、-0.35eV、+1.1eV)が確認できた。紫外光電子分光や分子軌道計算の結果と比較することにより、-0.5eVのピークは占有軌道(HOMO)に対応し、1.1eVのピークは最低被占有軌道(LUMO)が観察されたと考えられる。また-0.75eVのピークはHOMO-1軌道、-0.35eVのピークはCoに由来するものと判断された。
 一方Cu(100)面上のCoPcのdI/dVスペクトルでは、-1.0VにHOMOに対応するピーク、+1.0VにLUMOに対応するピーク、-0.5eVのコバルト由来のピークの他に、0.1eVにピークが確認された。STM像と同時に観察したdI/dV像から、この0.1e!)のピークは、ポルフィリン環からの寄与が大きいことがわかった。第1原理を用いたエネルギー計算を行ったところ、この軌道は、分子のLUMOと銅の原子軌道の混成により生じた軌道であることが示唆された。0.1eVのピークは、分子が銅表面に吸着することにより生じた新しいLDOS(adsorption induced LDOS:AI-LDOS)に対応していると考えられる。このようなAI-LDOSは、銀上のC60のSTSの他、金属上のアルキル分子の光電子分光においても存在することが最近報告されており、キャリアの入出力を担う電極/分子界面の特性に重要な役割を持っていると思われる。, 総研大甲第831号}, title = {極低温走査トンネル分光法を用いた金属表面上の有機分子に関する研究}, year = {} }