@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000334, author = {伊藤, 暁 and イトウ, サトル and ITOH, Satoru}, month = {2016-02-17, 2016-02-17}, note = {タンパク質のフォールディング過程や機能を理解する上で、そのタンパク質の自由エネルギー地形を得ることは非常に重要であり、欠かすことができない。もしタンパク質の詳細な自由エネルギー地形を得ることができれば、そのタンパク質のフォールディング経路を推測することが可能となるばかりか、特定の構造間の遷移状態をも特定することもできる。このような詳細な自由エネルギー地形を実験で得ることは難しく、専らコンピューターシミュレーションが用いられている。そこで、詳細な自由エネルギー地形を得るためのコンピューターシミュレーション手法の開発が必要になってくる。
 従来のカノニカルアンサンブルに基づくシミュレーションでは、タンパク質のような複雑な構造を持つものを扱うのは大変困難である。というのも、構造が複雑になると非常に多くのエネルギー極小状態を持つことになり、従来のカノニカルアンサンブルシミュレーションでは、そのようなエネルギー極小状態に捕らわれてしまい、効率的な構造空間のサンプリングができなくなる。結果的に、間違った自由エネルギー地形を与えたり、詳細な自由エネルギー地形を得るために膨大なシミュレーション時間が必要になったりする。そこで、より効率的に構造空間をサンプリングするシミュレーション手法として、拡張アンサンブル法が開発されている。もっとも有名な拡張アンサンブル法のひとつとしてマルチカノニカル法が挙げられる。この方法はアンサンブルの確率分布を状態密度とマルチカノニカル重率因子と呼ばれる非ボルツマン因子との積で表すことで(カノニカルアンサンブルでは確率分布を状態密度とボルツマン因子の積で表す)、人工的アンサンブルを発生させて、ポテンシャルエネルギー空間上のランダムウォークを実現する。これによりエネルギー極小状態に捕らわれることなく、効率的に構造空間のサンプリングが可能となり、自由エネルギー地形を得るためのシミュレーション時間が大幅に短縮された。しかし、この方法は自由エネルギー地形の全体像を見るのには優れているものの、タンパク質のある特定の構造まわりの詳しい自由エネルギー地形を得るのには向いているとは言えない。そのため、遷移状態を求めるシミュレーション手法として、マルチオーバーラップ法が最近考案された。
 マルチオーバーラップアンサンブルでは、確率分布を状態密度とマルチオーバーラップ重率因子との積で表すことで、オーバーラップと呼ばれる量に対して得られる確率分布を一定にする。オーバーラップは指定した構造に対し、現在扱っている対象の構造がどれだけ似ているかを示す指標となる。このオーバーラップの空間内をランダムウォークさせることで、極小状態に捕らわれることなく、特定の構造に重点を置いたシミュレーションを行うことができる。つまり、マルチオーバーラップ法はタンパク質の特定の構造あるいは特定の構造間に重点をおいた効率的サンプリングを実現する方法であり、その構造あるいは構造間の詳細な自由エネルギー地形を求めるのに適している。一般に、タンパク質等の分子をモンテカルロ法で扱う場合、その二面角を動かすことが多い。これは、分子の共有結合などの構造を壊さないようにするためであるが、扱う分子が大きくなると、二面角の微小な変化により分子の構造が大きく変わる。この結果、そのような二面角の微小な変化ですら、大きなエネルギー変化を伴うことになる。このため、多くのモンテカルロステップは採用されず、シミュレーションが非効率的になってしまう。このことは水中のタンパク質分子等を考える場合に、さらに顕著になってくると考えられる。このような問題を解決するために分子動力学法によるシミュレーションは重要である。よって、マルチオーバーラップ法はもともとはモンテカルロ法として考案されたものであったが、本論文では今回新たに開発した本方法の、この分子動力学法版を示す。さらに、本論文では、複数の構造とのオーバーラップを扱う多次元マルチオーバーラップ法への一般化も行う。
 本手法の有効性を確かめるために、カノニカル分子動力学法、マルチカノニカル分子動力学法、及びマルチオーバーラップ分子動力学法のそれぞれを真空中の小ペプチド(Met-enkephalin)に適用し、それらの結果の比較を行う。この比較により、カノニカル分子動力学法では、このような小ペプチドでさえ、その極小状態に捕らわれて、効率的なサンプリングができないことがわかる。また、マルチカノニカル分子動力学法に比べマルチオーバーラップ分子動力学法では、実際に特定の構造間のサンプリングが効率的になされていることがわかる。この特定の構造間における効率的サンプリングの結果、マルチオーバーラップ分子動力学法ではその他の方法に比べて、その特定の構造間のより詳細な自由エネルギー地形が得られることが確かめられる。さらに、そのマルチオーバーラップ分子動力学法から得られた詳細な自由エネルギー地形から、その小ペプチドの2つの極小構造に対する遷移構造を求め、かつ極小構造から極小構造への構造変化の過程を追うことに成功した。, application/pdf, 総研大甲第832号}, title = {Development and application of the multi-overlap molecular dynamics methods}, year = {} }