@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000337, author = {谷村, あゆみ and タニムラ, アユミ and TANIMURA, Ayumi}, month = {2016-02-17}, note = {界面近傍に吸着した分子やイオンはバルクとは異なる構造を形成することから非常に興味深い系である。多孔質物質-溶液界面の構造と物性は古くからイオン交換樹脂や「分子ふるい」など工学的に重要な問題であるが、最近では、大気環境におけるアエロジェル中での光化学反応や燃料電池などの工業的応用においてもその重要性が認識されつつある。特に、炭素細孔内に電解質溶液を充填した電気二重層キャパシタは電気自動車や携帯電話への応用が有望視されており、実用化が急速に進められている。一方、この問題は溶液化学や統計力学にとっても極めて挑戦的な課題を提供している。例えば、活性炭のようにランダムに分布した細孔をどのようにモデル化するか、それらと平衡にある溶液系をどのように取り扱うかなど、従来の統計力学の方法論をはるかに越えた理論的枠組みを要求する。
本論文ではスピングラスの分野で開発されたレプリカ理論と分子性液体の統計力学(RISM理論)を組み合わせた新しい方法論に基づき、細孔内に限定された電解質溶液の構造および電気二重層キャパシタ(スーパーキャパシタ)の電気容量に関する物理化学的研究を報告している。
本研究ではランダムに分布した細孔内の溶液を取り扱うために平田グループで開発したReplica RISM理論を用いる。Replica理論はスピングラスの分野で開発された理論的方法であるが、この方法により多様な配置をもつ多孔質物質と平衡にある溶液系の自由エネルギーの(多孔質の配置に関する)平均値を求めることができる。この理論をRISM理論と組み合わせたものがReplica RISM理論であり、細孔内に限定された水溶液などリアルな物質系に応用することができるようになった。
第III章では、多孔質炭素のモデルについて述べられている。例えば、活性炭のように細孔が不規則に分布した多孔質物質のモデルを構築することは、本研究にとって本質的な意義を持っている。ここでは、2成分液体混合系により多孔質炭素をモデル化した。すなわち、多孔質炭素を炭素部分と空隙部分の液体混合系とみなした。炭素部分は溶液分子と相互作用を行うが、空隙部分は溶液分子と相互作用を行わない。このようにして、空隙部分を溶液分子が存在する細孔とみなすことができる。さらに、第III章では、細孔中の電解質溶液の構造について考察した。平行板コンデンサの電極を1つの炭素の球(Single carbon sphere; SCS)で模擬し、その周りの電解質溶液の構造をPVDC細孔中のものと比較することで、溶液構造に対する細孔内への制限の影響を明らかにした。はじめに、平衡条件を満たすために、細孔中とバルクの電解質溶液の水およびイオンの化学ポテンシャルが等しくなるように調節した。その結果、SCS周りの水や電解質溶液の濃度はバルクとほぼ同じであるのに対して、PVDC中の水の密度は約1/3、電解質溶液の密度は約1/106となり、細孔内では電解質溶液は超臨界に近い状態で存在していることが分かった。細孔内の水やイオンの密度が非常に低いことは、動径分布関数にも表れており、PVDC内の水-水の動径分布関数は密度の高い気体のそれと似た形状となった。動径分布関数から、以下のような細孔内構造が描ける。細孔内にイオンはほとんど存在せず(炭素球周りの配位数106程度)、カチオンは周りにいるわずかな水分子を強く引きつけ、アニオンは逆にあまり水和されない。水和水以外の水分子は細孔表面を覆うように吸着し、小さなクラスターを形成している。また、イオン種の違いによる水和および細孔壁への吸着構造を調べるために、NaCl、KCl、CsCl、KBrの各水溶液について計算を行った。その結果、NaCl、KCl、CsCl水溶液では、カチオンのサイズが大きくなるに従って第一ピークは高くなった。細孔中では水和殻のためにどのイオンも壁表面に近づけず、バルクではNaイオンのみが水和しており他のイオンはほとんど単独で存在していることが分かった。一方、アニオンではバルクでも細孔中でもイオン種による構造の違いは見られず、どのアニオンも水和殻を持たずに細孔壁表面上に存在していることが分かった。
最近、炭化ポリ塩化ビニリデン(PVDC)を電極としたキャパシタの電気二重層容量が、これまでのキャパシタよりも格段に大きいことが示された[T. Takeda,M. Endo,TANSO,189,179(1999)]。電気二重層キャパシタとは、電極と電解質溶液の界面に形成される電気二重層に電荷を蓄える蓄電装置であり、電極には広大な界面を有する炭素が使われている。炭素電極を用いた電気二重層キャパシタはこれまでのコンデンサの100万倍もの容量を持つことから、次世代のエネルギー貯蔵デバイスとして注目されている。
第IV章では、電気二重層容量の支配因子を明らかにするために、帯電電極細孔中の電解質溶液の構造について考察した。炭素-イオンの動径分布関数から、陽極、陰極ともに、細孔内ではカチオンは水和殻で覆われており、アニオンは水分子との相互作用が弱く細孔壁に接することができることが分かった。第III章と同様に、NaCl、KCl、CsCl、KBrの各水溶液について水和および細孔壁への吸着構造を調べ、それぞれの容量を算出した。その結果、PVDC電極の高い電気二重層容量を再現することができた。電気二重層キャパシタの容量が巨大である理由については以下のような考察を行った。この蓄電デバイスの特長は電解質溶液(イオン)の化学ポテンシャルとしてエネルギーを蓄えることにあり、バルクの溶液に比べて細孔中の化学ポテンシャルが高いほど多くのエネルギーを蓄えることができる。すなわち、電極を充電する際に、例えば陽極の細孔にはアニオンが吸着し、そのアニオン間のクーロン反発力とエントロピーの減少によって細孔内のイオンの化学ポテンシャルが増大する。電極から仕事や熱としてエネルギーを取り出すとイオンはバルク中に拡散することによってその化学ポテンシャルを減少させる。第III章で述べた結果によると、細孔中では水の密度がバルクに比べて減少し、その結果、イオン間の相互作用に対する遮へい効果が減少し、充電に伴って細孔内の同種イオンの濃度が高くなるとその化学ポテンシャルを増加させることになる。この化学ポテンシャルの増加こそが電気二重層キャパシタの高容量の原因であると結論した。
以上のように、細孔に吸着した電解質溶液の水和構造および電気二重層キャパシタの容量の発現因子をReplica RISM理論で明らかにすることができた。細孔内では水分子やイオンの密度が低く、このことが特異な水和構造やイオンの化学ポテンシャルに大きく影響していると考えた。また、ヘルムホルツ層の容量が二重層全体の容量を支配しているという従来の説と異なり、電気二重層容量の決定因子は両電極間の化学ポテンシャルの差であることが分かった。, 総研大甲第835号}, title = {Structure of Electric Double Layer in Carbon Nanopores and Supercapacitor}, year = {} }