@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00003565, author = {八木, 百合子 and ヤギ, ユリコ and YAGI, Yuriko}, month = {2016-02-17}, note = {本論文の目的は、20世紀後半のアンデス農村をめぐる人の移動に着目し、村落における聖人信仰の変容過程を明らかにすることを通じて、現代アンデス農村の文化のダイナミズムについて考察することにある。 アンデス農村地域では近年、村の聖人信仰の成長が著しく、村落の規模に比して巨大な聖人祭礼が執り行われる地域が各地でみられる。そのように農村地域で近年顕著に観察される聖人信仰の隆盛や変容はこれまで、聖人の奇跡や人びとによる聖人への信仰の増大やその変化として理解される傾向にあった。これに対して本論文では、聖人信仰の変容の問題をそうした宗教的な要因だけでは十分にとらえきれない、今日のアンデス農村の聖人をとりまく人びとの社会関係やそれによって織り成される多様な実践に注目し、分析を試みた。 その際に、本論文が焦点をあてたのは、20世紀後半に急増したアンデス農村をめぐる人の移動である。アンデス農村では、1950年代以降人口増大による土地不足や1980年代以降に農村部で激化したテロリズムの影響をうけ、20世紀後半に大規模かつ短期的に農村から都市への人口移動がすすんだ。その結果、都市と農村との人口比率は半世紀のうちに完全に逆転した。 こうした大規模な人の移動は、一部においては村落の聖人信仰の衰退を引き起こしたものの、この都市への移動の動きが逆にその活性化につながっている場合も少ない。そこには、都市を巻き込みながら村落の聖人信仰を活性化させていく人びとの実践が認められる。 本論文では、そうした人の動きに注目し、村の聖人信仰をめぐって農村と都市とのあいだに展開される、人びとの多様な実践をアンデス高地の農村とそこから都市へと移住した人びとを対象に分析した。 本研究が調査対象としたペルー南部の農村では、「サンタ・ロサ(Santa Rosa)」と呼ばれる聖人への信仰が、ここ数十年で急激に拡大してきた。それはまた、植民地時代の教会堂の設立以来、人びとの篤い信仰を集めてきた村の守護聖人を凌駕し、従来の聖人の位置づけを変貌するに至っている。 本論文では、そうした村の聖人信仰の変容を、農村と都市の相互に浸透しあう関係の拡大と深化の過程としてとらえ、サンタ・ロサが村の聖人を凌駕し、拡大していくプロセスに焦点をあて分析を行った。 より具体的には、村落の聖人をめぐる人びとの実践として、聖人祭礼や奉納に加え、聖人信仰の拡大を支える経済的基盤に注目し、それらの変化とそこに関わる人びとの動きを描出し、そうしたなかに農村と都市の相互に交差する二つの関係をよみとった。  論文ではまず、歴史記録をもとに、聖人祭礼と奉納品の変化について分析を行い、村では1970年代末以降にサンタ・ロサが村の守護聖人を凌ぐ人気を獲得してきた点を明らかにした。そして、祭礼に関わる人びとや奉納者など聖人をとりまく人びとの変動からは、サンタ・ロサの拡大の背景に、1980年代以降は都市の移住者の関わりがあることを示した。リマの都市移住者たちは、単に都市から村の祭礼に参加するだけでなく、役職者として祭礼の発展に関わるほか、奉納を通じてもその信仰を活性化させてきた。サンタ・ロサに捧げられた奉納品のなかには、都市で現金を得た人たちにより高価な奉納物が納められてきたことがみてとれる。そのように都市が関わるなかでサンタ・ロサは、また、それまでの奉納品にはみられない要素や国家的な表象も取り込み、その様相を変貌させてきた。今日のサンタ・ロサを特徴づけている一面として、国家の守護聖人としての側面があるが、それを象徴する国旗のような奉納品は、都市の移住者が関わるなかで新たに奉納されたものであり、それ以後、村のサンタ・ロサのイメージとして定着してきた。しかし、サンタ・ロサに捧げられた多様な奉納品からは、そうした国家的なイメージのみに絡めとられていくわけではない点もみてとれる。 一方、都市の移住者のあいだでも1970年代末から、サンタ・ロサ祭礼が行われてきたことが明らかになった。都市でのサンタ・ロサの発展に大きな意味をもったのが、移住者組織の存在でもあった。これが1980年代以降に農村からの多くの移住者を取り込み拡大していった。そこでは、サンタ・ロサの祭礼が、都市の新たな世代を取り込みながら発展するとともに、都市の脈絡では「村の伝統」として再解釈されるだけでなく、「村の主要な祭り」あるいは「村の守護聖人」という新たな意味が付与された。 さらに、こうした都市の移住者の組織化の拡大とともに、村と都市とのあいだには、村の聖人祭礼をめぐる大きな経済基盤が形成されていった。これが、村のサンタ・ロサの発展に大きな役割を果たしたのである。都市では、移住者の組織化が進行するなかで、同郷者間の支援のシステムが形成されていった。それは、村で実践されていた相互扶助にもとづくものであった。村人たちは、そうした都市の移住者たちのあいだに根付いた支援のシステムに積極的に参入し、村の聖人祭礼の支援システムとして移住者たちを取り込んでいった。そのように、祭礼のための支援獲得の様態からは、移住者が村の聖人祭礼に参与するだけでなく、そうした支援のシステムを介して都市と農村が相互に交流し、交渉を重ねることで、その関係を深化させ、村の聖人祭礼を発展させていったことがみてとれるのである。 以上の分析を通じて本研究では、人の移動を背景に、農村と都市とが相互に複雑にからみ合うなかで、村のサンタ・ロサが変容してきた点を明らかにしたと同時に、そこにみられる農村と都市の双方が生み出す還流的な文化の動態を描き出すことを通じて、現代のアンデス農村の文化のダイナミックな側面が浮き彫りになった。とくにアンデス農村における文化動態はこれまで、農村の都市化あるいは近代化として、一方向的な変化の視点から完結的に論じられてきた。これに対して本研究では、農村と都市という互いに異なる文化や空間のあいだを相互に行き来する人の動きをとらえていく視点の重要性を提示した。 また、本研究ではペルーにおける今日の社会や文化動態をみていくうえで、20世紀後半以降に拡大しつつある都市の領域に注目することの意義を示した。この都市とは、20世紀後半の農村からの人の移動によって形成された都市の領域であり、それはまた首都の周縁に位置しながら、国家と農村との接合面になる部分である。20世紀にはこうした都市の領域が急速に拡大すると同時に、国家/地方といった直接的な関係でなく、農村と都市とが相互交流を深化させていくなかで、そうした都市を介して国家的なものが地方の農村にも取り込まれてきた。本研究では、この点を国家の守護聖人であるサンタ・ロサの拡大に着眼し分析することで試みた。, 総研大甲第1533号}, title = {現代アンデス農村における聖人信仰の変容 -人の移動に焦点をあてて-}, year = {} }