@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000036, author = {飯國, 有佳子 and イイクニ, ユカコ and IIKUNI, Yukako}, month = {2016-02-17}, note = {本研究は、上ビルマ村落において展開される宗教的実践を、ジェンダーの視点から民族 誌として記述し、ビルマの宗教研究を再考することを目的とする。具体的には、先行研究 において、研究対象として十分に取り上げられてこなかった女性に焦点をあて、その宗教 的実践を明らかにすることで、従来、ビルマ宗教研究において広く流布してきた仏教/精 霊信仰という二元論を問い直すことを目的とする。  まず第1章では、先行研究を概観し、問題の所在を明らかにする。東南アジア大陸部の 上座仏教社会に関する宗教研究の多くは、仏教/精霊信仰、男性/女性といった二元論的 枠組みを用い、しばしば男性は仏教に、女性は精霊信仰にかかわるといった単純な図式で、 当該社会の宗教的現実を説明してきた。これに対し本論文では、当該社会の人々の宗教観 を、個々の実践に着目しながら問う必要があることを指摘し、そのために、女性の宗教的実践の視点を導入する必要性を述べる。なぜなら、女性の宗教的実践は、諸々の二元論的 枠組みの中で、研究対象として幾重にも周辺化されてきたため、女性への着目は新たな視 点をもたらすものと考えられるからである。この仏教中心主義的な二元論的図式の影響力 は大きく、宗教研究のみならず、ジェンダー研究にも及んでいる。そこで、2節3項では、 上座仏教社会におけるジェンダー研究を概観することによって、二元論に基づく仏教決定 論をできるだけ排した議論を展開するための視座を模索するとともに、2節4項では、一 般の女性の宗教的実践に着目した数少ない研究を取り上げることで、論点をより明確にす る。  このように宗教研究における二元論の再考を目的とした本論文は、具体的には、上ビル マの一村落における女性たちの宗教的実践に着目するものである。このため、その調査村 の歴史的背景、地理的位置づけなどの概況を示し、続いて、政治、経済、世帯における諸 活動を、ジェンダーの視点から明らかにする。さらに、次章以下で扱う諸儀礼の位置づけ を明らかにするために、調査村における宗教的側面の様態について概観する。  上記のように、これまで男性は仏教、女性は精霊信仰にかかわるという図式の流布によ って、女性の仏教徒としての側面は、十分に議論されてこなかった。そこで、3章ではま ず仏教の側面における女性の宗教的実践を見ることで、女性が仏教徒としての確固たる認 識を持ちながら、仏教にかかわる様々な宗教的実践を行っていることを明らかにする。ま ず、実践局面に目を向ける前に、仏教経典における女性に関する表象をみることで、経典 に基づく仏教イデオロギーが、男性中心主義的なジェンダー観を有することを示す。そし て、経典から派生した女性性の不浄視、危険視は、宗教的空間のみならず、家屋等の日常 的に使用する空間においても適用されていることから、社会的にも再生産され、規範とな っていることを示す。次に、女性たちの宗教的実践を見ていくと、彼女たちは、儀礼か日 常か、世帯レベルか村落レベルか、いかなる年齢や婚姻条件にあるかなどを問わず、皆何 らかのかたちで、仏教にかかわる宗教的実践を行っていることが浮かび上がる。そして女 性たちは儀礼への参加などの実践を通して、仏教徒であるという確固たる認識を獲得して いることも明らかになってくるが、このことは同時に彼女達が男性中心主義的な仏教イデ オロギーを内面化していることも意味している。  一方、既存の研究において、女性は精霊信仰にかかわるものとされてきたが、第4章で は、精霊祭祀の実施をめぐって繰り広げられる人々の実践や語りに着目することによって、 その図式を再考する。1節では、世帯レベルでの精霊祭祀は、女性が行うものとされてい るにもかかわらず、男性が関わる場合もあることを明らかにする。次に、精霊祭祀を行う ことに対する人々の語りの事例を示すことで、男性と女性とでは、精霊に対する見方や、 精霊へのかかわり方が異なることを指摘しながら、女性が精霊祭祀に関わる理由は、仏教 的力がないために、男性以上に祭祀にかかわらざるを得ないと彼女達自身が考えているこ とを指摘する。しかし、同時に彼女達は、仏教徒であるという認識を持つため、祭祀を「敬 意を示す」ことと読み替えることで、精霊祭祀に対して、男性とは異なる見方を有してい ることも明らかにした。つまり、本来精霊祭祀の実施は、それ自体ジェンダーとは直接か かわらないものであるが、規範レベルにおいて男性中心主義的な仏教イデオロギーが存在 するために、祭祀の実施がジェンダーの問題へと帰されていること、そして、それゆえに 精霊に対する見方には、行為主体のジェンダーによって若干ながら差が認められることが わかった。  これまで、女性の視点を入れることで、単純な二項対立的図式では捉えられない現実の あり方を示してきた。しかし、女性も男性中心主義的な仏教イデオロギーを内面化してい るため、精霊祭祀にはやはり女性が関わることが多く、男性の関与はほとんど見られない。 そのため、このままでは従来の二元論に関する議論を若干修正したに過ぎない。そこで、 第5章では、雨乞い儀礼の実施をめぐって起こった事件を取り上げることで、仏教と精霊 信仰が、彼ら自身によってどう解釈され、いかなる現象として立ち表れてきたのかをみて いく。この事例は、本来の主催者ではない女性たちが、精霊祭祀による雨乞いを提唱した ところ、村長ら男性はそれを黙認する一方で、僧侶による雨乞い儀礼を、精霊祭祀に先行 して同じ日に開催することを急遽決定したというものである。この2つの雨乞い儀礼の実施過程において見られた、人々の具体的なやり取りを分析していくと、仏教/精霊信仰、 男性/女性という二項対立的図式を単純に組み合わせた構図は、村内のさまざまな権力関 係が交錯する中で利用され、その図式がさらに強化されるかたちで再生産されたものであ ることが明らかになる。 最後に、結論として以下を提示したい。これまでの研究では、女性の宗教的実践は、精 霊信仰との関連において捉えられ、仏教的な側面はあまり重要視されてこなかった。しか し本論文の記述からは、女性は仏教徒であるという明確な認識を持ちながら、仏教にかか わる宗教的実践と精霊祭祀の双方を行っていることがわかった。また、仏教との対立にお いて捉えられてきた精霊信仰を見ると、男性中心主義的な仏教イデオロギーが社会的規範 となっているために、行為主体のジェンダーに基づく差異が生じ、その結果、本来ジェン ダーとはかかわらない精霊信仰が、ジェンダーの問題へと還元されてきた。こうしてみる と、彼らの宗教的な現実は、従来の単純な図式に当てはまらないことは明らかだろう。  ただし、二元論自体を完全に否定することもできない。実はこの二元論的図式が、彼ら 自身によって宗教以外の権力関係のなかで利用され、強化されてきたことを、第5章で示した。 このように、仏教/精霊信仰という二元論的図式は、ジェンダーの視点をいれるこ とによって再考されるべき課題であることが明らかとなるため、今後は行為主体のジェン ダーに留意した研究を進めると共に、この図式を単に宗教の問題としてのみ捉えるのでは なく、生活全体の中に位置づけることによって、相対化していく必要があると考えられる。, 総研大甲第1016号}, title = {上ビルマ村落における宗教とジェンダーに関する人類学的研究}, year = {} }