@misc{oai:ir.soken.ac.jp:00000397, author = {氏原, 秀樹 and ウジハラ, ヒデキ and UJIHARA, Hideki}, month = {2016-02-17}, note = {これまでにない高分解能、大集光力の望遠鏡をつくれば、それまで見えなかったものが見えてくるのだから、天文学の飛躍的発展が望める。これは単純な論理であるが、実現するのは容易ではない。電波望遠鏡の場合、高分解能は長い基線をもつ干渉計で達成される。干渉計を構成する各局のアンテナで受信された電波は位相情報を保ったまま伝送され、相関器で処理され、天体の像となる。これは単一のパラボラ鏡面で反射された電波が焦点に位相を揃えて達するという過程を、相関器という信号処理専用の計算機内で行うものであるが、どちらにしても、焦点で合成される電磁波の位相のずれが大きければ感度が落ちる。例えば、鏡面精度が悪い鏡での集光する場合、焦点で波の位相が揃わずに鏡面の各部分からの反射波が足し合わされるため、焦点で受信される電波の強度が下がる。これは受信される電力において、理想的な精度の鏡面で口径が小さくなったことと等価である。望遠鏡の開口面積を有効に活かし、入射電磁波のエネルギーを全て焦点に集めるには、波長に比べて十分小さな鏡面誤差を達成する必要がある。  ところが、鏡は自重や風圧荷重でたわむ。地上、宇宙をとわず、日射による温度分布の不均一による変形も起きる。口径が大きくなるにつれて鏡面の変形量も大きくなるから、波長に対する面精度を保つのは難しくなる。したがって、大口径あるいは短波長になるほど面精度の良い、すなわち、集光能率の高い鏡面をつくるのは難しい。光学系に反射鏡を使うという既存の枠組みのなかでは、大口径化につれて面精度の維持がむずかしくなり、いつかは、大口径化による感度向上と面精度の悪化による能率低下が相殺され、感度が向上しなくなることになりかねない。  このような壁を破るのに有効なのは、思考の枠組み自体を見直すことだ。鏡以外の手段を考えるなら、レンズがある。反射鏡では面誤差が二倍されて光路誤差となるが、屈折光学系は光路が往復しないので、面誤差の影響はすくない。しかし、通常の誘電体レンズは、厚みによる損失や重量が問題になり、大口径の望遠鏡には使えない。ところが、誘電体の厚みを調整して光路長一定とする、つまり、電波の遅延時間をそろえて集光するかわりに、位相のみを揃えてレンズの焦点をつくることにするならば、必要な誘電体の厚みは一波長の光路長差をつくるだけで十分になり、レンズの厚みを減らすことができる。これはゾーンドフレネルレンズと呼ばれるが、電波の場合、天然の誘電体のかわりに、共振回路で人工的な誘電体をつくることもできる。大きさが波長程度共振回路の配列に電波を入射させる透過波の位相がずれる。正負180度の位相シフトを透過波に与えられるなら、共振回路でゾーンドフレネルレンズがつくれる。  実際にR. Milen(1982)は二種類の長さの半波長ダイポールを貼りつけた膜を七層重ねて、レンズ面に必要な正負180度までの位相シフトを近似した、人工誘電体レンズをつくった。これの開口能率は40%程度であった。位相の近似が荒くて良いなら、このような膜一枚のみで正負90度までの位相シフトをつくり、それ,以上の位相シフトの部分は位相近似が悪く、そこからの透過波が焦点に達すると受信振幅が下がるから、そのような部分を不透明にしてしまえば、能率は悪いながらも焦点を結ぶレンズになる。このような簡単なレンズで口径1kmの電波望遠鏡を宇宙に展開することを、近田義広(1985)は提案した。しかし、開口能率の見積もりは20%程度とふるわない(豊増 伸治,修士論文,1994)。また、多周波対応もできず、そのうえ、単一周波数帯用のレンズをつくったとしても、位相をずらすのに共振回路を使うため、比帯域も1%程度と極めて狭いと思われていた。  Milneのレンズは位相の近似はいいが、構造が複雑で大口径の電波望遠鏡の一次集光器には向かない。正負の位相シフタの組合わせで所要の位相シフトを得るのは、構造上の無駄が多い。一方、膜一枚の近田のレンズは位相シフトが90度に達せず、レンズの一部分しか集光に使えなくて開口能率が悪い。したがって、少ない共振回路で正負180度までの位相シフトを達成できなければ、この方法で大口径の電波望遠鏡はつくれない。  共振回路膜は共振点で最大の位相シフトを持ち、透過率が0,反射率が1となるので、共振点に近い膜を二枚重ねれば、ファブリーペロー干渉計のように膜間隔に応じた周波数に対して透過率を1にでき、180度までの位相シフトも達成できる。しかし、この構造は膜間隔と周波数に敏感で、望遠鏡の集光系としては不向きである。しかし、膜を近づけて共振回路間の相互インピーダンスを強くし、2,3枚重ねの膜全体としての透過特性を制御すれば、望ましい特性を得られる可能性があると著者は考えた。このような構造に基づき、このレンズをフィルムレンズアンテナと呼ぶことにした。  膜間隔で共振回路膜の集中定数回路としての挙動を制御することは、共振回路の大きさが波長程度の電波望遠鏡だからこそできることである。共振回路である分子が波長よりもかなり小さく、電磁波に対して分布定数回路と見なせる誘電体膜の多重反射の計算ではそもそも考慮されないことであり、この方式での電波レンズ用位相シフタの特性改善は本研究が最初である。  このアイデアを検証するために、回路間の相互結合を考慮しつつ、多層回路膜の透過率を計算する数値計算コードを開発した。この数値計算で、予想通り180度までの位相シフトと透過率が達成できることが確認できたので、共振回路膜の試作を行い、透過特性の測定実験を行った。実験にはVERAプロジェクトの受信機を利用し、通信総合研究所(小金井)の電波暗室内で測定を行った。この実験でも、膜間隔で透過特性を制御できることが確認できた。数値計算は計算機の能力や計算モデルの制限から来る誤差があるが、回路寸法に対してパラメータを導入し、数値計算と測定値の一致を高めることもできた。これらの結果にもとづいた集光シミュレーションでは、単周波用レンズアンテナとしては、開口能率50%以上、比帯域10%程度が達成可能であることがわかった。比帯域については、共振回路よりもフレネル構造による制限がおおきく、そのためにも開口能率を向上して、不必要に口径を大きくしないことが実用上は重要である。また、光路長に設計中心波長の整数倍の差を許すフレネル構造は高調波に対しても、フレネル構造となる。この構造を利用して高調波も集光するためには適切な高調波帯用の共振回路をレンズ面に追加すればよく、例えば4枚程度の膜で三周波対応、開口能率40%程度のレンズがつくれる。集光に関してはシミュレーションのみで、今後の実証実験が待たれるが、本研究によってフィルムレンズアンテナという電波望遠鏡用としては全く新しい原理の集光装置が開発され、実用的な性能を持ち得ることが示された。このフィルムレンズアンテナで、従来の反射鏡の限界を打ち破れる、大口径電波望遠鏡が実現可能であること示された。, application/pdf, 総研大甲第518号}, title = {Development of Film Lens Antennas for Large Aperture Radio Telescopes}, year = {} }